- 作者: 中島らも
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1991/03
- メディア: 単行本
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肝臓のことばっかで、全体的な栄養失調、精神面での影響障害についての
記述がとても弱いので、
読んだ時肝臓以外印象に残らない、というか、
肝臓だけ気をつけてればオッケーかとミスリードさせてしまうのかな?と思いました。
実際、小説で入院してるのは内科で、アルコール外来じゃないので、
ガッチャン部屋とか出てこないし、
ブラックアウトという単語は出てきても説明なくスルーされる構造。
三島由紀夫が開高健のベトナム小説を評した時のことばが、
そのままこの小説にもあてはまりそう。
まったくの創作フィクションなら空想力を評価するが、実体験ならつまらんみたいな。
と思っていましたが、らもの奥さんの本を見ると、
やはり『今夜、すべてのバーで』は、美化とかいろいろあるんだなと思います。
主人公の名前からして「いるる」とか明らかに現実ベースの話じゃないだろ、
とか言われると、それはそのとおりで。
もう少し書きます。
【後報】
こういう大事なことも書いてるのに、簡単に主人公をスリップ(再飲酒)させすぎ。
頁122
アル中の要因は、あり余る「時間」だ。国の保障が行き届いていることがかえって皮肉な結果をもたらしていることになる。日本でもコンピュータの導入などによって労働時間は大きく短縮されてくる。平均寿命の伸びと定年の落差も膨大な「空白の時間」を生む。
「教養」のない人間には酒を飲むことくらいしか残されていない。「教養」とは学歴のことではなく、「一人で時間をつぶせる技術」のことである。
頁119
ただ一方でこういうことがある。イギリスのギャング、売人(プッシャー)たちは、需要拡大のために「小学生」のマーケットを開拓している。学校帰りの子供たちに、「おもしろいおじさん」がまとわりついて、「ハッピーパウダー」なるものを売りつけるのである。中身はもちろん、ヘロインやコカインだ。最初の二、三回はタダで味見をさせて、それ以降は金を持ってこさせる。
頁120
日本におけるアルコールの状況は気狂い沙汰だ。十一時以降は使えないが、街中にあらゆる酒の自動販売機が設置されている。テレビ局にとって、ウイスキー、ビール、焼酎、清酒の広告宣伝費は巨大な収入源だし、酒税は年間二兆円にものぼる税金収入だ。つまりは、公も民も情報も、一丸となって「飲めや飲めや」と暗示をかけているのだ。
頁46
つまり、アルコールが「必要か」「不必要か」ということだ。よく、「酒の好きな人がアル中になる」といった見方をする人がいるが、これは当を得ていない。アル中の問題は、基本的には「好き嫌い」の問題ではない。
頁47
アル中になるのは、酒を「道具」として考える人間だ。
頁47
たとえば「ナイトキャップ」的な飲み方は、量の多少にかかわらず、行動原因そのものがすでにアル中的要素に支えられている。アルコールが眠るための「薬」として初手から登場するからだ。薬に対して人間の体はどんどん耐性を増していくから、量は増えていく。そのうちに、飲まないと眠れないようになる。この時点で、「手段」は「目的」にすりかわっている。
頁47
次の赤信号は「ウィークエンド・ドリンカー」になっているかどうかだ。
平日はもちろん夜になったら飲む。
そして休みの日は陽のあるうちから飲み始める、あるいは一日中飲んでいる。休みが明けた月曜日には、ひどい二日酔いの状態で這うように出社する。これがウィークエンド・ドリンカーの症状だ。彼等は一様に週末を待ち焦がれ、月曜日を憎んでいる。
この憎むべき月曜日の朝に、ひどい二日酔いを鎮めるために迎え酒を一杯ひっかけて出ていくようになれば、連続飲酒までもう一歩だ。
頁120
小学生にドラッグマーケットを拡大するのと同じで、酒のメーカーは女性層をつつきまわっている。いま、女性のキッチンドリンカーはアル中全体の五〜七パーセント程度だが、将来的には必ずふたケタ台にのるだろう。
頁120
女性がアル中になる年数も短いというのは、飲み方に原因がある。主婦の飲み方は、おれの飲み方と同じタイプが多い。うまいから飲むのではなく、憂さを忘れるために飲むという薬理的飲酒だ。
頁203
「社会生活が問題なんですよ。一歩病院を出たら、飲み屋やバーや自動販売機だらけなんですよ。病院の外はね、アルコールの海なんですよ」
「私にそんなこと言われても、どう答えろって言うんだ」
「だから、アル中ってのは、内臓とかそういうことももちろんネックなんだろうけど、もっとこう、なんていうか、内的な問題だと思うんですよ。なぜ、飲む人間と飲まずにすませられる人間がいるのかっていう。それがわかれば、ずいぶんとちがうと思うんですが」
室生犀星は昼酒を一切やらないとエッセーに書いてた。*1
中島らもはせっかく面白い体験をして小説に書いたのだから、
アルコール外来や自助グループのほうまで書きまくってから、
頁196
「好きな酒を飲み過ぎて死にました」
「ああ、やっぱりねえ」
で終わればよかったのに。
なんでいい年こいてコデインやら草やらに傾倒し続けたんだか。
(飽きて普通卒業するだろ)で酒も飲む…
この本の文庫版についてる山田風太郎との対談は、
何をごまかすための煙幕なのか勘繰りたくなる。
文庫版頁293
中島 はい、なんとか(笑)。お医者さんに怒られながら、けっこう、がんがんと飲んでいます(笑)。
そんな医者いるか。
見放して「もう来るな」って言うだけだよアルコール専門医は。
ブラフで何かに迎合した?
- 作者: 中島らも
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