『断酒が作り出す共同性―アルコール依存からの回復を信じる人々』読了

断酒が作り出す共同性―アルコール依存からの回復を信じる人々

断酒が作り出す共同性―アルコール依存からの回復を信じる人々

初版を読みました。重版ではちょっと直しが入ってるようです*1
⇒【後報】データの直しはないそうです。(同日)
この本の出版から数年、世の中はどんどん動いています。政権党も一度変わってまた戻ったし。

頁77〜78

アルコールのもっている精神依存性・身体依存性は、日本では非合法とされている他の薬物と同様に高い。精神依存性では有機溶剤(トルエン等)にまさり、身体依存性ではヘロインなどのモルヒネ型と並ぶ高さだという。西欧社会および日本ではアルコール摂取は合法だが、間違いなく強い薬物であり、それを大量に入手可能な近代社会そのものが病んでいると考える禁酒運動の立場にも一理ある。だが、それまで合法的な習慣として存在していて、現在も多くの人が飲んでいるものを禁じるという考えは、一般に受け入れられるものではない。また、アルコールの問題を解決するということより一歩踏み込んだ、背景に宗教的な道徳観がなければありえない姿勢といえる。

この本が取り上げた自助グループとは別のグループが、
昨年立ち上がったアルコール関連問題基本法推進ネット*2
関わっていることなどは、
この本以降の動きの代表的なものといえるかもしれません。
国立精神・神経医療研究センターの自殺予防総合対策センター長が、
自殺と飲酒量の関係性を指摘する記事が昨日の朝日新聞土曜版に載ってたり。
そうなると、前にもはてなダイアリーに書いた中島らもの小説の一文とか、
また思い出したりもします。せめぎあい・宇宙(そら)ですね。

『今夜、すべてのバーで』頁120

日本におけるアルコールの状況は気狂い沙汰だ。十一時以降は使えないが、街中にあらゆる酒の自動販売機が設置されている。テレビ局にとって、ウイスキー、ビール、焼酎、清酒の広告宣伝費は巨大な収入源だし、酒税は年間二兆円にものぼる税金収入だ。

http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20121025/1351112383

この本が取り上げる自助グループは、そうした動きとは一線を画している?のかな。
政治とは関わらない、その基本ポリシーと理由となった米国での歴史的経験なども、
この本には記されています。
この本は発祥国アメリカの同団体にも詳しく取材しているので、
参考になる部分は多かったです。
アメリカじゃこうなんだよ、といわれた時のカウンターになるかな?
また、この団体を象徴する単語「ハイアー・パワー」はニューアカ的な宗教単語ではなく、
土着的な感性で理解すべき言葉なんだよという説明が、
宗教学者の筆致で見事に書かれています。
この団体がまとっているように見える宗教性が気になる人も読んでみていいはず。

頁173

感謝の対象は、他のメンバーでもAAの一体性でもなく、自分をここに至らしめた運命の力

霊的な経験とならない断酒経験もたくさんある、の部分なんかもそうかな。
今日一日"A day at a time"の積み重ね。対立概念"Pink Cloud"も書いてもよかった?
Wikipediaアルコール依存症にも登場する「底つき」の原語、
"Hitting the bottom"をこの本で知り、
鳥居みゆきの「ヒットエンドラ〜ン」を連想しました。

*3