- 作者: 遠藤誉
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/04/21
- メディア: 新書
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『卡子*1』にはむかししびれました。
なんで文庫化した本をまたハードカバーで出すんだろう?
当時、山崎豊子とのバトルは、まあ、相手が相手だし、
誰かそそのかす人もいたのかな、くらいにしか思ってませんでした。
それより、卡拉OKや信用卡の「卡」をチャーとも読む、ということに夢中でした。
長春に行った時も、まず舞台となったあたりを歩きましたし、
特に日本人街の、蓋のないマンホール、
ひょいっと子供が落ちるシーンのとこなんかも探しました。
感想を語り合った時、まず一致したのが、お父さんの会社が製造していた薬。
そんな都合のいいミラクルな薬なんかないだろう、その一点だけは誰とも意見が合いました。
裏を返せば、それくらいしか突っ込むところがない、実に熱い本だったわけです。
その著者が、近年矢継ぎ早に本を出して、しかも、NHKのラジオなんかにも出た。
こりゃなんなんだとやはり思いますよ。
石平孔健莫邦富朱建榮がテレビに出るなら分かりますが、
この人が、録音にせよラジオに出るのかって感じ。
どうしたんだろうと思い、やっと本を開きました。
頁215
私は静かに卡子の事実がありのまま出版できるような“中国”が来ることを待つことにした。それまで生きていなければという気持ちと、生きている間にそういう“中国”が訪れてくれるだろうかという不安との間で揺れる日々でもある。
1941年生まれの作者。やはり、と思いました。
言葉とは裏腹に、焦っている。焦らざるを得ない。
そんな日が来るか来ないか、答えはもう出ている。ご自分で出されている。
頁30
もっとも、中国人民の多くは、今となっては、ここまで中国を裕福にさせてくれた現政権を覆そうとは思っていないし、また中国共産党をおいてほかに統治能力を持った党があるとも考えていない。
第3章の官製意見領袖育成、
第5章「英九兄さん、大陸はあなたを歓迎します」により
若者が「愛国無罪」という保身の免罪符を失った瞬間(頁145)、
第6章「国際敵対勢力」が背景にいるかいないか(頁183)、etc.
この本が書かれてから、日本が尖閣諸島を国有化し、
頻繁に中国の海上ナントカ船が遊弋するようになったわけですが、
頁62で、日中両国政府が東シナ海ガス田開発で合意したことを受け、
中国の國士様が胡錦濤を下関条約の李鴻章と同等の「中華民族最大の売国奴」と
攻撃しまくったことを読めば、なぜ中国艦船がヤギの島をうろつくのか、
てめえらもうろつきたいんでしょうが、それを中国輿論は歓迎しているか否か、
中国のネット社会と政府が現在どう折り合いをつけているか、
ぱっと分かると思います。
そんな日が来るか来ないかも、分かりたくはないけれど、分かる。
そんな本ですかね。ボーシーライの本は読んでないけど、
間違いなくこの本は名著です。そう思います。
*1: ちゃー子(チャーズ)―中国革命戦をくぐり抜けた日本人少女〈上〉 文春文庫 ちゃー子 下―中国革命戦をくぐり抜けた日本人少女 文春文庫 え 8-2