ローレンス・ブロック傑作集〈2〉バランスが肝心 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
- 作者: ローレンスブロック,Lawrence Block,田口俊樹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1993/07
- メディア: 文庫
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訳者あとがきにもありましたが、第一短編集に比べ、多少落ち着いた感があります。
才気煥発に面食らわなくても済む、みたいな。
また、スカダーさんは出会った女性とわりとちょくちょくいい仲になって、
あとくされなくいいことをするので、スカダーシリーズの解説で節操がないと書かれていますが、
作者の登場人物はだいたいそういう性格であることが分かりました。
弁護士エイレングラフという、
一見誰とでもはそういうことはしないであろうキャラがいるのですが、
彼にもそういう展開があって、ちょっと驚きました。守備半径すごく狭いと思ったのに、
全身ブランドものの小柄な弁護士が低層階級アパートのあけすけな独身おばさんと…ようやるw
エイズ登場以前のアメリカ庶民の夢と理想が伺えます。
スカダーさんの話目当てでしたので、スカダーさんの話がとてもよくて満足です。
『バッグ・レディの死』という邦題ですが、
原題は"like a lamb to the slaughter"です。聖書のことばとか。
like a lamb to the slaughterの意味 - 英和辞典 Weblio辞書
http://ejje.weblio.jp/content/like+a+lamb+to+the+slaughter
バッグ・レイディというのは、紙バッグをさげた女性ホームレスだそうで、
ひとつのステレオタイプ、記号です。
ホームレスではないですが、ハマのメリーさんなんか連想しました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%81%95%E3%82%93
むかし茅場町でアルバイトしていた頃、あちこちにビラを貼ったり、
無作為にオフィスの受付にあらわれてビラを置いてくおばさんを見ました。
彼女もそういう人だったんでしょう。誰それに人生を台無しにされたとか、そういうビラ。
このブログを始めた頃、厚木でそういうビラを見て、へえと思いましたが、
このブログは、そういう主張を代理喧伝するブログではないので、撮影も打ち込みもアップも、
しなかった、と思う。思う、のですが、大丈夫だよな。ポリシー守れてるよな。記憶があいまい。
21世紀、そういう人たちは主戦場を電脳空間に移してると思うのですが、
最低限そういうハードを維持し続けてる人だけが戦えてるんだなと思います。
行政は、クーラーはダメでもスマホはOKとか、そういうことですかね。
座敷女とか、貞子の外見とか、こういうところからもインスピレーション得てると思います。
勿論、違うことはちゃんと認識した上で。
現実に、電車の車内などで出会った時、どう向き合うか、
男性の例ですが、下記の本のまえがきなど、印象に残っています。
- 作者: 塩見鮮一郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/09/01
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頁424
もう一杯バーボン入りコーヒーを飲んで、銀行が閉まるまえに充分間に合った。私はメアリー・アリス・レッドフィールドのささやかな遺産の一部を、預金口座に入れ、いくらかをキャッシュに換えて、郵便為替でアニタと息子たちに送った。そして何か伝言はないかとホテルに戻った。何もなかった。それでマガヴァンの店で一杯やり、通りを渡ってポリーの店でもう一杯やった。まだ五時にもなっていなかったが、店はすでにかなり込み合っていた。
その日はなんだか妙な夜だった。ギリシャ料理の店で夕食を食べ、《ポスト》紙を読み、五十八丁目のジョーイ・ファレルの店でしばらくすごしてから、アームストロングの店に舞い戻ると、もう十時半かそこらになっていた。そこではいつものテーブルでひとりで飲んだり、カウンターに行って駄弁ったりして過ごした。私は酔いを持続させたかった。それでコーヒーの中にバーボンを入れ、ひとつのカップを長びかせ、その合い間に水を飲んだ。
しかしいっこう酔った気がしなかった。ほんとうに酔う気でいるときは、どんなことがあってもなんとか酔えるものだ。が、その夜は何か私の酔いを邪魔するものがあった。それが酔いを遅らせ、結局酔った気分になれたのは、二時半近かった。そこでやっと満たされた思いで、ホテルに帰り、眠ることができた。
翌朝は十時頃眼覚めた。二日酔いは軽かったが、アームストロングの店を出てからの記憶がいっさい消えていた。ちゃんと自分のホテルの自分のベッドに寝てはいる。着ていたものもクロゼットにきちんとかけられている。服がきれいだというのは、これはよい印だ。前夜、酔っても乱れなかった証拠だから。しかしある一定の時間が記憶から欠落している。消えてなくなっている。
こういうことが自分の身に起こり始めた昔は、ずいぶん心配したものだった。けれども今はもう慣れて久しい。
この四年後彼は躓き、五年後雪崩のごとくすべてが崩壊します。
酒に慣れるというのは、ほんとうに不思議だ。