『「ゴッド」は神か上帝か』 (岩波現代文庫)読了

「ゴッド」は神か上帝か (岩波現代文庫―学術)

「ゴッド」は神か上帝か (岩波現代文庫―学術)

ドラえもんに、かの有名な地球破壊爆弾の話があるわけですが、
http://a0.att.hudong.com/78/07/19300001390478131901079314663_s.jpg
http://doraemon.baike.com/article-84428.html
この話の、下記動画02:07くらいですか、ドラえもんの台詞「幸運をいのる」があります。

Dailymotionドラえもん ねずみとばくだん
http://www.dailymotion.com/video/xyguov_%E3%83%89%E3%83%A9%E3%81%88%E3%82%82%E3%82%93-%E3%83%8D%E3%82%BA%E3%83%9F%E3%81%A8%E3%81%B0%E3%81%8F%E3%81%A0%E3%82%93_shortfilms

ドラえもんが哆啦A梦(夢)でなく机(機)器猫と訳されていた頃だと思いますが、
この、「幸運をいのる」のセリフの漢訳が、“上帝保佑”だったんですね。
私としては、中国語の勉強のつもりでマンガを読んでいて、
グッドラックの中国語表現が出てくるとばかり思っていたのに、
ゴッドブレスユーのほうが出てきてしまい、面食らったわけです。

このことは割と長く自分のなかで尾を引いていて、
確かに日本語でも「天佑神助」みたいな言葉はあるんですが、
“上帝”は使わないですね。「天」や「神」は受け入れてるけれども、
ゴッドの意味で上帝を出されると、うっとなるような気がする。
その辺は、日本から中国に逆輸入されたドラゴンボールの「神様」などでも
相克があるような気がしますが、ドラゴンボールは中文で読んでないので、
なんともいえないです。

で、最近この本を知り、自分の理解の一助になればと思って、読みました。

上帝とは −コトバンク 大辞林第三版の解説
https://kotobank.jp/word/%E4%B8%8A%E5%B8%9D-79549#E5.A4.A7.E8.BE.9E.E6.9E.97.20.E7.AC.AC.E4.B8.89.E7.89.88

神という言葉を、Godに使うべきかspiritに使うべきか、のところで、
結局spiritに使ったのがロバート・モリソン訳中文聖書で、
日本の文語体の聖書はおおいにこの漢訳聖書を参考にしているけれども、
“上帝”という言葉は受け入れなかった。神をGodにあてた。
この本のメインテーマはそこではないのでそこまで書いてませんが、
自分としては、まずそう理解しました。
以下後報
【後報】
欧米型植民地形成のやり方として、まず初期に商人と宣教師が入り込み、次に軍隊。
という形態にまず筆者は着目し、商人はモノの価値の交換、
宣教師はコトバの価値の交換を(翻訳によって)行う、としています。
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/f3/Morrison_at_work.jpg/250px-Morrison_at_work.jpgその中で、特にアヘン戦争と聖書翻訳に
深く関わったイギリス人宣教師、
ロバート・モリソン*1
深く着目した本、ということです。
彼の聖書翻訳は間接的に、
太平天国指導者洪秀全
思想形成に大きく関与しました。

彼はコトバの交換に際し、
対等性を重視し、当時清朝がイギリスを
“英夷”と呼んでいたことに引っかかります。

この辺はアマースト以来の、
三跪九叩頭の強要とも絡み、
現地英国の強硬姿勢がアヘン戦争へとつながる、
そういう流れを示しています。
問題はアヘンではなく、英清外交に於ける清国側の対等性欠如である、と。
ここは地政学ですが、商売敵のアメリカとアメリカ人宣教師が英国アヘン貿易を批判していた、
その辺のパワーバランスも面白いと思いました。結局、モリソン死後、
第二次阿片戦争アロー号事件の戦争で、イギリスはビルマの宗主権割譲とともに、
“英夷”呼称の停止を清朝に飲ませるわけですが、この辺、宣教師の母国への貢献、
俗世への関与として面白く読みました。

モリソンは鴉片戦争前に死に、彼のホープだった中国育ちの息子もアヘン戦争で活躍し、
その後やはり病死します。息子さんは、イギリス人が清朝側文書で“鬼子”と呼ばれた件も
見逃していません。抗議、抗議、抗議。対等は声高な主張の認め合い。

そのモリソンさんが、聖書翻訳では、現地に阿った、手垢のついた“上帝”を使います。
確かに中国語の“神”だと、一神教ではちょっとズレると思うのですが、
カソリックが既に使っていた「天主」でええやん、とも私は思いますし、
イスラム教のアッラーを指す漢字熟語“真主”もあるわけですが、
なぜプロテスタントというか英国国教会というかとりあえずエヴァンゲリオン
福音ナントカエヴァンジェリストであるモリソンさんが“上帝”を使ったのか、
この本では“神”との比較でしか語られていないので、ガッカリだよ、でした。
浦上天主堂

実際に日本語聖書の参考になった漢語聖書は、モリソンさんのとも違うようで、
モリソンさんのは、単語はおもねっても、文章の組み立てや構造をエイゴのそれに
依拠した不自然な中国語だったそうで、日本人は翻訳の日本語と日本文の日本語、
ともに違うものとしてなんとなく受け入れるが、中国人は洋味儿臭喷喷の中国語は
見向きもしなかった、じゃいかな、と筆者は書いています。
儒教経典みたくチンプンカンプンの文章にしないと有難味がない、
というところまでは書いていませんが…

でまあ紆余曲折あって、モリソン父子の弟子だった梁阿発という人の、
キリスト教パンフ『勧世良言』を読んだ洪秀全が、「拝上帝会」を結成し、
清朝に戦いを挑んでゆくという…そういうことだそうです。
勸世良言でも劝世良言でもいいですが、イヴを誘惑したヘビを、
“蛇”でなく“蛇魔”と書いてあったりするらしく、その辺の翻訳について、
ホントに聖書に忠実かな〜、みたいなところを作者は考証しております。
でもエイゴでもバイブルのヘビはスネークsnakeでなくサーパントserpentだし、
白蛇伝でも葛城山のなんとかヌシでもええやん、と今検索して思いました。*2
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/1/1f/John_Roddam_Spencer_Stanhope_-_Eve_Tempted%2C_1877.jpg/220px-John_Roddam_Spencer_Stanhope_-_Eve_Tempted%2C_1877.jpgこの本は、原著名を作者は墓碑銘に
しているくらい作者にとって
愛着のある本らしいので、
このような読書感想でいいのか、
少し考えましたが、
こういうふうにしか読めなかったので、
そうしました。

いくつかね、疑問が残りましたので、
それをメモしておくという、
そういう感想文です。

ではまた
(2014/10/11)