『「跳ね鹿」亭のひそかな誘惑』 (文春文庫)読了

http://ecx.images-amazon.com/images/I/61%2BmOzmui0L._SL500_PIsitb-sticker-arrow-big,TopRight,35,-73_OU09_.jpg表紙は毎度、和田誠
ヘンな名前のパブシリーズ。
巻頭におそらく作者自身の詩が載っています。

傷ついた鹿はいちばん高く跳ぶ
そう狩人は言っていた
それは死の陶酔でしかない
そして藪は静かになる

そして巻末には、エミリー・ディキンスンの詩。

THE PAST is such a curious creature,
To look her in the face
A transport may reward us,
Or a disgrace.

Unarmed if any meet her,
I charge him, fly!
Her rusty ammunition
Might yet reply!

http://www.bartleby.com/113/1128.html
解説にもあるとおり、
これまでのグライムズ作品のなかでもとりわけ悲劇的な結末をもつ作品でした。
その予感は、詩に凝縮されています。そもそも私は、
赤川次郎の作品がスラスラ読めて好きなのにも関わらず、
ユーモア・ミステリーというジャンルがいささか不思議で、
なぜ連続殺人が起こっても登場人物がみなユーモアなのか、
盗癖による窃盗とか、とか、もっといろいろ犯罪とかあんじゃん、
(詐欺と銀行強盗はクライムノベルのジャンルとして存在しますが)
ひとの人生を奪うコロシは重いぜ、と思っていたので、
今回クライマックス突然悲劇に彩られる構成には、
その想いをいっそう強くしました。なんだよ最後突然やり切れなくなって。

頁47、ポリーが旅館パブの朝食でおかゆを出されるシーンは、
ポリーにポリッジ"porridge"って駄洒落を言いたいだけかと思いました。
頁93、タンカリは、タンカレーと書くほうがふつうの"Tanqueray"と思いました。
頁192、ムサカとシシカバブと自家製ワインとバクラヴァがあるレストランって、
唐突だと思いました。
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/9/9b/MussakasMeKolokithakiaKePatates.jpg/330px-MussakasMeKolokithakiaKePatates.jpg
ムサカ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A0%E3%82%B5%E3%82%AB
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/8/8f/Baklava_-_Turkish_special%2C_80-ply.JPEG/338px-Baklava_-_Turkish_special%2C_80-ply.JPEG
バクラヴァ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%B4%E3%82%A1

頁229
あたしの知ってるフランス語は“ボンジュール”だけだもの」
 ミセス・ワッサーマンはにっこりした。「そんな発音だと、日本人だと思われますよ」

頁229
「この人ったら、あたしは十分で蛙(フランス人)みたいにしゃべれるようになると思ってるのよ」
「あなたの発音は本当に蛙みたいですよ。でもフランス人には聞こえないわ」

頁231
なにやらもぐもぐくちびるを動かしている。ミセス・ワッサーマンがあんなにやすやすと喉から出してみせたrの無性喉頭音を練習しているのだろう。

rの発音というと、例えば英語のライス、米飯は…

riz FORVO
http://ja.forvo.com/word/riz/#fr

頁102
「いいですか、あたしたちは五年間、この子の面倒を見てきたんですよ。五年間」
 ということは、連合王国政府がキャリー・フリートの面倒を見てきた、ということだ。この家族が生活保護を受けていることは一見してあきらかだった。大きなカラー・テレビとビデオがそれを物語っている。身よりのない少女をひきとったとあれば、それだけ余分の手当が貰えるのだろう。

ブレイディみかこの英国保育所レポート*1やあ、とも思いましたが、
よく考えると、想い出のマーニー*2のネタバレ部分ではないか、とも思いました。
なんというか、やり切れん、おえん、話。

The Deer Leap (Richard Jury Mysteries Book 7) (English Edition)

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「跳ね鹿」亭のひそかな誘惑 (文春文庫)

「跳ね鹿」亭のひそかな誘惑 (文春文庫)

【後報】
鹿と言うと、ロシアンアメリカンコミュニティの青春を描いた下記を連想します。
アメリカンスナイパーにも鹿狩りのシーンがありました。

私はこの映画も、借りてコサックダンスのあたりですぐ寝たクチですので、
断片的にしか覚えてないのですが…
猟師の本*3など読むと、鹿肉はくさみがあって、
なかなかジビエとして加工普及させるのも手間みたいですが。
あとは諏訪というか茅野の守矢資料館で見た剥製くらいかな。連想するのは。
以上です。
(2015/5/6)