『神様のピンチヒッター』読了

神様のピンチヒッター

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神様のピンチヒッター [DVD]

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福田和也ほかの書評鼎談本*1で、
基地が開放されて千葉や茨城の連中が来るくらいなら、
ずっとヤンキーに占領されてたほうがマシだ、

というセリフがあると書いてあったので、借りた本。
結論から言うと、そんな台詞は見つけられませんでした。
横浜に対する愛は分かるのですが、アメション程度の、どう考えても拙い英語や、
伊丹十三の本*2で読んだトラウザーズやらが出てきて、
ファッションも何がなにやらで、ただ、福田和也らが指摘する、
都市部だけど自動車が必須の地帯、としての横浜は、よく理解できます。
ぼんぼんなのかなんなのか、車に乗るとすぐ上行って御殿場になる。
ゴルフやってる親の影響なのか、面白いと思いました。

ヨコガマハードボイルドというと、本牧出しときゃいーべ、
みたいなイメージがあるのですが、本短編集には、寿と山手、
蒔田くらいしか出てきません。あとは御殿場とか、246で外苑とか。

頁227
「丸十年だよ。姉貴は小学校からずっと山手だもの。ぼくら麦田じゃない」
「山手の丘の上、な。おまえん家、行きづらかったしなあ。評判、悪かったからな、俺」

頁157などにちょこちょこ出てくるホンブルグ帽とは何か、知りませんでしたので、
検索しましたら、山高帽とホンブルグ帽は別物だと分かりました。
ソフト帽は全部山高帽だと思ってました。チャップリンみたいな丸いのを除いて。

ホンブルグ・ハット Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%AB%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%83%E3%83%88
山高帽 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E9%AB%98%E5%B8%BD

飯と言うとスカンディアが登場しますが、この小説の人物は行かないです。
敷居が高いのか。神戸を舞台にした短編では惜しみなくグルメ描写があり、
地元じゃ感覚が摩耗してるし、オゴラレなんかないだろうから、
だから知らない神戸が新鮮で、たぶん接待なんかもあったんだろうと思いました。

頁167
街は手の届きそうな所にあった。あそこには、まだ何軒かの料理屋が店をあけている。千、二千軒は下るまい。港の灯を見下ろして、翎は無意識にフォース・ピアを探していた。先端から三つめの灯りは、伊勢エビが美味い料理屋。アメリカン・ソースをたっぷりかけたやつだ。そこまで行かずとも、生田まで下れば、麤皮がある。翎の耳に、ミンスト・オニオンがぶ厚い牛肉の下で焦げる、あの威勢のいい音が窃かに聞こえて来た。牝の本物の但馬牛。今なら一ポンド六オンスもかるく食えるだろう。その手前にも、同じ通りに何とかいう中華料理屋があった。四川も広東もいっしょくたに出す変な店だが、悪かない。乾焼明蝦、東坡肉、椒塩排骨と菜ッ葉を乗っけた熱い支那ソバ。“博雅”の焼売。いや、あれは無理だ。神戸じゃ食えない。

横浜と言えば中華街が出てくるかというと、中国人はたくさん出てきますが、
1972〜1976年の著作ですので、当然いまの中国人とは違います。

頁188
 路上に、ヘア・バンドの男のフィールド・バックがちぎれて落ちていた。・四五ACP弾が数発、オリーブ色にべったり塗られた罐詰が四つ、その中から転げ出た。野戦食の罐詰だ。“揚げ魚のカレー餡掛け”“牛肉の蠔油炒め”漢字と英語で書かれている。台湾陸軍の官給品、さすがは中国人、アメ公のCレーションとはえらい違いだ。平べったい罐は蓮の葉で味をつけた粽。一番大きな罐は豚足入りのスープ。――彼は罐切りを探した。

そういえば、中国人が出てきて、寿も出てくるのに、コリアンは出てきません。
マンガの押忍!空手部みたいに、見えない。
現在、ドヤの管理者は、ニューカマーのほうの韓国人、若い一世が多いと、
誰かに聞きましたが、この小説では、見えないので、残念。

頁149
「昨日、ぼくの面倒を見てくれてる三下が、写真を一枚持って来た。横浜から逃げて来た女の顔写真だ。子供の頃から一人で旅になんか出たことのない顔立ちだった。そんな育ちだと奴も言った。神戸に知り合いもいないし、そんな所があっても隠れ込めない家出娘だ。男も一緒じゃないと来ている。それなら、居場所はホテルしかない、と奴に教えてやったんだ。少女向けグラフ雑誌にカラー写真入りのガイドが載るようなホテルさ」

太田光の妻の光代さんの若い頃の家出を連想しました。ペンションだったそうですが。

ハードボイルドということですが、主人公は死なない、危害は加えられない、
という、神による大前提が作品の背骨を貫いてるとすぐ分かるので、
その辺で評価が分かれるんじゃないかと思います。
私は、波乱万丈がよかった。こういう予定調和は、どうも。以上