『中国人の街づくり』(相模選書)読了

中国人の街づくり (相模選書)

中国人の街づくり (相模選書)

中国人の街づくり (1980年) (相模選書)

中国人の街づくり (1980年) (相模選書)

四方田犬彦の『台湾の悦び』*1に出てきた本。

(1)
相模書房という出版社を知りませんでしたので、地元かなと思いきや、
検索で、銀座の出版社と知りました。

相模書房 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%B8%E6%A8%A1%E6%9B%B8%E6%88%BF

本書初版の奥付では、住所銀座でなく、入船*2でした。

(2)
日本人名のほうの著者は、本書経歴時点では大学助手で、
四方田の本で、現在も媽祖進香団に参加しているとあり、
よい人生を送っているのだな、と、うらやましいです。

(3)
中国人名のほうの著者は、福建省出身の外省人ということで、
頁157によると、両親は北京語と福州語とのことです。
福州語と閩南語は同じ福建省の南北でありながら、
全然違うわけですが、私には分かりません。
強いていうと、耳で聞いて、エイゴの、"Thank you"と言う時、
舌を上下の歯で挟んで、「タンキュー」と言う人がいますが、
まさにあの、舌を上下の歯で挟む"th"があるのが福州語、
くらいの、レベルです。あとがきに、台湾についてなのに、
何故「中国人」の街づくりなのか、の説明がありますが、
台湾では原住民でなく漢民族によって街づくりが行われ、
漢民族=中国人だから、中国人の街づくりだ、としています。
私は、漢民族<中国人と考えており、中国人というのは、
五十六の民族からなるネイションを構成帰属する人びと、
と考えていますので、ほんとは帰属してないと思う民族もいますが、
回族とか、満洲族とかは中国と言う共同体帰属でFAと思うので、
それで、漢民族が作ったから中国人の街づくり、
原住民が作ったわけでないから、という理由は、???ですが、
むかしの本なので、どうでもいいといったところです。
暗にこの本が、日本が作ったわけじゃないよ、とほのめかしてるとも、
思わない。日治時代でなく、日拠時代と書いてるのは新鮮でした。
だいたいハッカを、頁42、客家」と呼ばれる広東系の移民
と平気で定義してしまえる知識認識の時代、てことで。
勿論客家はカントン人じゃありません。潮州系でもない。当たり前。

(4)
図版写真の多いよい本ですが、提供者がおられるとあり、
その提供者はどこから図版を持って来たのか不分明な気がしましたので、
図版の引用はしません。

(5)
頁172の台湾豪農の家屋などは、素晴らしかったです。
中国では、南方ほど苛烈な農村解放が行われたので、
たぶんこのレベルの人たちは銃殺で弾丸代遺族請求かな〜、
そんでこのおうちは、解放軍が小芝居や歌舞を行う場所になる、
のかな〜、と思いながら読みました。

(6)
"厝"という単語が当たり前に使われているのも面白かったです。

厝の意味 - 中日辞書 - 中国語辞書 - goo辞書

置く.◆閩方言では「家」の意で単用

http://dictionary.goo.ne.jp/cj/4328/meaning/m0u/
厝_百度百科
http://baike.baidu.com/view/810849.htm

(7)
頁131、「菜刀型」住宅、最近は日本でも見かけるような気がします。
でも、あちらの画像が全然見つけられなかった。検索ワードが悪いんでしょう。

頁115
亭仔脚 ting-a-kah とは台湾語の呼び名で、北京語では騎楼 qi-lou と呼んでいる。この称呼はアーケードの由来と機能をよく表している。

これはすぐ画像が見つかりました。

骑楼- 维基百科,自由的百科全书
https://zh.wikipedia.org/wiki/%E9%AA%91%E6%A5%BC

日本時代に設置を義務付けたため全島に広まったとのことですが、
この辺が、台湾が漢民族文化でありながら、大陸とは違う、
芋島の中だけのミクロコスモスを形成している、そう感じてしまう、
一箇所です。言語にしても、そう。台湾人の國語は、
大陸の普通話に比べ、訛りを前面に押し出しながら、速い。
聞き取れない他地方人に日常遭遇しない、島国社会前提の、
言語になっているからだと推察します。
(聞き取れないのは大陸人だと、ゼロワンで切り捨て可能)
本書でも触れられている布袋戯も、そう。全土に広まり、
大人気ですが、島の外では、どうか。故地大陸では、それほど熱狂的か。

井の中の蛙というと聞こえは悪いですし、コップの中の嵐
という言葉もありますが、良くも悪くも、島国というのは、そんなもの。
波紋が島の中で、閉じてしまう。
韓国のように、38度線、DMZ*3で地続きを人工的に閉ざしたため、
一気に半島が島になって単一民族国家っぽくなった、
国もありますが(最近は外国人労働力市民権云々と聞きましたが、知らない)、
天然で島国というと、日本人が感覚的に分かる、台湾の島国的部分というのは、
あると思います。

(8)
頁75、台北の「國軍文藝活動中心」も面白いと思いました。
國府軍が中国劇を伝承する目的で小屋を掛けて公演活動を行っているとは。

(9)
あと、屋台道具の図版もよかったし、頁104、「奉茶」もよかった。
店の名前でなく、個人が路傍に置いて、旅人に提供するお茶の習慣。

あちらの旅行サイトの写真
http://sns.91ddcc.com/t/58092
http://taiwan-itinerary.blogspot.jp/2015/08/KentingHualienC.html

これの、郊外田園の写真は上記のように検索で見つけられますが、
既に失われた?都市の露地の薬缶の写真があって、とてもよかったです。
以上

【後報】
写してる時は気がつかなかったのですが、頁115の騎楼のローマ字が、
ウェード式でなくピンインだなあ、と、さっき自転車こいでて、
思い出しました。なんで台湾なのにウェード式じゃないんだろう。
"qi-lou" 台湾でもピンインを試行した人びとがいたんでしょうか。
その辺は、東山彰良が小説で書いてくれないと分からない。
(同日)