『感傷旅行センチメンタル・ジャーニィ』(角川文庫)読了

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感傷旅行 (角川文庫)

感傷旅行 (角川文庫)

([た]1-3)感傷旅行 Tanabe Seiko Col (ポプラ文庫)

([た]1-3)感傷旅行 Tanabe Seiko Col (ポプラ文庫)

字が小さいので、読むのに時間がかかりました。
昭和六三年の第三十三版なんですが…こんなにちいさかったかなぁ。
(初版は昭和四七年)
半村良太陽の世界14が巻末最新刊広告に載っています。
カバーは村上豊*1 酔っぱらい読本で、お聖さんのエッセー読んで、
そういやこの人の小説まともに読んでないな、と思って読んだ、初期短編集です。
芥川賞受賞作(直木賞じゃないんですね)含む。
表題作は、ヒロインが、というか主人公以外なぜ標準語なのか、
それが分かりませんでした。大阪の放送作家業界の話なのに。

頁33「感傷旅行」
 ぼくはやっとわかったのであった。ケイはおそらく一種のアルコール中毒で、酒がはいるとがぜん勇気も残酷さも持てるが、しらふではひどくおどおどしてそういう自分を責めつづけている、ちょいとした二重人格者なのであろう、

引用してますが、なんかルーティンワークみたいな気分です。
そうなっちゃしまいかもしれない。とほほ。

頁138「鬼たちの声」
 それから雨に濡れた下品な街を、旅館で借りた番傘の中へ、藤巻と一しょにはいって(その人、藤巻という名前なんです)あるいていますと、(中略)妙な劇場があったりして、「大悩殺峠」「原作・中里介介すけすけ」なんて書いてある。

収められた短編は、うしろに行くに従って面白くなっていきます。
「山家鳥虫歌」あたりの岡山弁兵庫弁折衷会話(喧嘩口論)もいいですが、
「とうちゃんと争議」「女運長久」の大阪弁がよかった。

頁231「とうちゃんと争議」
五時の約束が五分おくれたが、とうちゃんは丁度いい時間だという。早く来すぎると飲みたくてたまらないみたいだし、定刻きっちりだと、いかにもきざだし、おくれすぎると、相手を馬鹿にしたようで、男が招待をうけうのはむつかしいものだ、ととうちゃんはいう。
(中略)
 「ま、早いこと、いっぱいやりまほ」

「ましょう」を「まほ」という箇所はもう一ヶ所ありますが、
私は俺たちひょうきん族で、島田紳助明石家さんまのかけあいでしか、
聞いたことありません。口尺の風俗店「いらっしゃいまほ」というネタ。

頁234 同上
 「これな、ここだけの話やけどな、来月の三日がな、えらい会社の危機らしいで、トッドもう、しっぽに火ィついたあるらしいわ」
「えっ、もうそないなってますのん」
 私が叫ぶと、谷さんは私のほうに向き直り、
 「うん、そやからここであんまり組合がもめるとな、銀行が危ながって会社へ金、貸しよらへんね。なんし、銀行に横向かれたら、どもならんさかいな」

「なんし」もっと使われていい言い回しと思うのですが、
全国区外向け関西弁では、使いまへんな。せやし。

頁235 同上
 谷さんは私のほうへ向いて、私の盃に酒をついだ。ちょっとなめてみると甘かったので私は全部のんでしまった。
(中略)
 谷さんはまた、私の盃に酒をついだ。私は谷さんにお愛想のつもりで、また、のんだ。前にとうちゃんの晩酌のつき合いをした酒はダダ辛いのできらいだったが、上等のお酒は甘いものなんだなと思った。

だだ辛い、って、どん辛い、と同じで、塩っ辛い、しょっぱい、
の意味だと思ってましたが、それだと意味が通らない、ここ。
もっぺん関西弁のべんきょうしなおしですわ。
頁241、「気ずつない」もよく分かりませんでした。
グリコの看板グリコの看板いうてますが、それが「お手上げ」の意味と、
分かるまで三日かかりました。てゆーか、いま分かった。
頁245、あかの人の奥さんが赤い腰巻ふって占領軍のジープとめた、
という話は、さもありなん、と思いました。パルゲンイ。
頁239の、皮肉なものいいの、「ええごきげん」もいいです。

頁293「女運長久」
 「何で籍をぬきまんねな」
 「お米の通帳持っていかな、お米の配給あれへん」
 「当たり前や」
 「そやさかい、ウチの分、貰もろて去いぬ」
 「去ぬてどこへもろていぬのや」
 「あっちや」
 「あっちて、どっちや」
 母子の問答は蒟蒻問答になってきた。

頁296 同上
 「どういうことやね。一ぺん聞かしてもらおか。お父ちゃんに説明しなはれ」
 「あのな、仕事先で知り合うた人やねん。ちょっと話があと先になったかもわかれへんけど、信頼できる人やさかい、きっとお父ちゃんにも気に入って貰える、思うわ」
 「そうか、そらええけど、あんまり話が突飛やないか」
 「結婚は本人同士のものやさかい勝手や」
 「お前は一人娘やさかい、そうはいかん」
 「とにかく、話はきまってるねん。そない思てんか」

頁300 同上
 「友子! ちょっとここへおいなはれ」

ガキ帝国の時代とつい思いそうになったのですが、
米穀通帳の時代ですから、もっと前ですよね。
大阪は文化大革命以前から、
総括自己ヒハンやったんやな、と思いました。

関係ないけど、ガキ帝国検索したら、川崎ゆきおがパッケージ書いてて、
おかしかったです。どういう縁やねんな。以上