- 作者: 中島京子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/03/10
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- 作者: 中島京子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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表紙写真 林ナツミ『本日の浮遊』Courtesy of MEM
装丁 大久保明子
これも、台湾カルチャーミーティング*1のレジュメに記載されていた、
台湾を描いた日本語文学の一冊。
手に取ると、中国を描いた日本語文学二篇と、台湾のそれ一篇の短編集でした。
アマゾンレビューには、枝葉末節の揚げ足取り、印象操作も見受けられ、
そうなると、フォーラムでも主題のひとつだった、
日本では政治と文化を分けて、切り離して考える傾向があるが、
中華圏では、政治と切り離された文化はありえない、が、出たのか、
と思いました。中国と台湾どちらも好意的に描いて、
呉越同舟させた文学作品への冷やかな反応なのではないかと。
しかし、作者のほかの作品のレビューも読むと、それは取り越し苦労で、
ただ単に一言居士がへばりついてるだけ、な感じでした。よかったよかった。
作者は、いちおう、中国文化のなにがしかをかじった経験を持つ、
非常に数多くの日本文化人のひとりではないかと感じましたが、
その証拠に、デビュー作からして、『漢方小説』、と、書こうとして、
念のため検索すると、それは中島たい子で、こっちは京子でした。
中島京子 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%B3%B6%E4%BA%AC%E5%AD%90
中島たい子 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%B3%B6%E3%81%9F%E3%81%84%E5%AD%90
タイトルの意味は裏表紙にもあるとおり、中国語の"慢走"
慢走の意味 - 中国語辞書 - Weblio日中中日辞典
http://cjjc.weblio.jp/content/%E6%85%A2%E8%B5%B0
この小説では、"慢慢走" としてますが、頁69、北京の観光名所でもある瑠璃廠で、
小吃店のおじさんが、語言留学の日本青年の通訳付きで遊びに来た、
ワーキングガールの主人公に別れの際かけた言葉ですので、とてもしっくり来ます。
わざとした誤訳をタイトルにしたあたりが、ボーダーの好きな遊びっぽいです。
私はこの慣用句を口にしたり聞いたりする時必ず、魯迅が林語堂との論争で、
「フェアプレーはまだ早い」と書いた、その原文を思い浮かべます。
"费厄泼赖应该缓行/費厄潑(溌)褚(頼)應(応)該緩行"
"緩行" って言うと、マンゾウの堅苦しい言い方だと思ってるんですが、違うかな。
"慢"は、兵隊支那語「マンマンデー」のマンですから、けっこう昔から、
中国に関わった日本人が耳に親しんだことばだと思います。人口に膾炙してる。
この小説は、2010年に発表した、1988年(天安門の前年)北京を訪れた女性が、
その十年後の1998年ビジネスで北京を訪れる話と、その翌年翌々年に書かれた、
(2010年に1998年の北京の話を書くという視座が、私はとても気に入りました)
台北にも官話留学が盛んだった頃留学した母を持つ娘が、母の死後訪台する話を挟んで、
おそらくは万博前の時代設定で、だが森ビルが意気軒高な上海が舞台の話の三篇です。
上述の私のような、唐物趣味のコリクツに拘泥する21世紀の大陸浪人みたいのがいて、
ちょっと読んでて、胸が熱くなりました。
・確かに物価が安かったころ、日本で受験に失敗した、またはニート予備軍のガキが、
「中国にでも行って来い」と送り出されて大量にうろちょろしてました。
彼らは、砂のようにバラバラな個の日本人ですので、だんだんに、結束力のある、
韓国人留学生に押されて、影が薄くなっていきました。韓国人は、徴兵逃れとか、
学生運動のやりすぎで韓国で就職出来ず、たとえば北京大学に入るとかで、
一発逆転しないと人生のメンツが立たないとか、具体的なモチベがあった。
・こういうチャラついた子と、駐在の奥さんの不倫もよく聞きました。
・現地採用で、アパレルの労務、まさに労務としか言いようのない仕事をする話、
さらに、かつてそれをしてた若者が、今はナニで収入を得てるのかナゾですが、
中国在住ではてなダイアリーを書いてたりするのを知ったりもしました。
まさかまた、若い時の留学のように、親がかりに戻ったわけではないでしょうが…
頁160
「この人たちの中で、採用したのは一人だけ? 日本の人もいるのね」
「見ちゃだめだよ、社外秘なんだから。まあ、別に亜矢ならかまわないけど。日本人は募集してなかったのに応募してきたんだ。いまどき日本人なんか採用しないよ。ビザ申請面倒だし、給料高いし。そういうやつに限ってまともな職歴もないし。こっちには日本語の上手い中国人がいっぱいいるんだから、仕事はそっちへ行っちゃうよ。(後略)
結局、訓詁学とか、書誌学目録学、眼でぱっと漢文を見て情報処理するスピードでは、
絶対に日本人は中国人にはかなわない(と、京大人文研がゆっていた)ので、
- 作者: 井波陵一
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そこにくっついてゆく、唐物趣味、シノワズリに拘泥するしかないんですかね。
- 作者: 劉建輝
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ふたつの小説のあんちゃんが、同一人物であるとしてしまうと、
非常にさびしいので、そこはアイマイでお願いしたいと思います。
結局コイツはこういう人生になってしまったか、では、夢がない。
1998年の北京に三里屯、酒巴街が出てくるのは頷けましたが、
頁48、ファンキー末吉の店が実名で出てくるとは思わなかった。
作者が1998年の北京にハーゲンダッツを見た時の感激は、
私が2000年に北京でスタバを見た時の感激と同じではないかと。
釣魚台賓館の近くの吉野家が、ローカルに負けて、
紅ショウガも醬油も卓に置かなくなって、それに慣れてしまったのに、
スタバは堂々とトッピングご自由にを始めた。台湾資本の養老乃瀧も出来た。
欲を言えば、民族大学脇のウイグル人街を出してくれたら、
もっとあの時の空気が味わえたと思いますが、話が違う方に転がるかな。
頁155ガンチンポーリエ、福島香織の中国の女にも出てこない単語で、勉強になりました。
こういう視点の中国女性ウォッチもいいと思います。性格の不一致でなく、感情破裂!
頁75手編みのカーディガンの贈り物は、これぞ前世紀の中国と言う気がしました。
大陸を舞台にしたふたつの小説は、どちらもオチがけっこう秀逸で、
上海の青年の、英語の動詞shanghaiがどうこうみたいな底の浅いシノワズリを嘲笑う、
「西のかた陽関を出ずる〜」の文句。
- 作者: エルジェ,川口恵子
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頁84
「北京の春に二度と白い服が流行りませんように。洗濯がたいへんですから」
予言は成就しました、大気汚染で。
(全然関係ないけど、『時尚』も創刊するやいなや、チャイナウォッチャーから、
アレは北京青年報だか中国青年報だから、同じ政治思想、と、
あっちゅうまにレッテル貼られた)
検索したら、作者がこの本について、取材の思い出等を語ってるのが、
ウェブにありました。読後に読んで、よかったです。
http://hon.bunshun.jp/articles/-/1126
台湾については、「めんぎゃっ」の意味を知りたいのと、
平渓線は江ノ電とタイアップしてるし、行ってみたいけど、
行くと、中国からの観光客がたくさん来てるそうなので、
その仲間と思われるんだろうなあ、というくらいしか、感想ないです。以上