『奇妙な論理Ⅰ―だまされやすさの研究』 『奇妙な論理Ⅱなぜニセ科学に惹かれるのか』(ハヤカワ文庫NF)読了

奇妙な論理〈1〉―だまされやすさの研究 (ハヤカワ文庫NF)

奇妙な論理〈1〉―だまされやすさの研究 (ハヤカワ文庫NF)

奇妙な論理〈2〉なぜニセ科学に惹かれるのか (ハヤカワ文庫NF)

奇妙な論理〈2〉なぜニセ科学に惹かれるのか (ハヤカワ文庫NF)

Fads and Fallacies in the Name of Science (Popular Science)

Fads and Fallacies in the Name of Science (Popular Science)

下記虚構新聞記事のおすすめ本。
Kyoko Shimbun 2016.07.12 News
疑似科学信じやすい」9割はO型 千葉電波大 これは嘘ニュースです
http://kyoko-np.net/2016071201.html

原書は1952年刊。上のアマゾンリンクは増補改訂版。
1989年現代教養文庫社会思想社のアレ*1に伴いハヤカワへ。
カバーイラスト:七戸優 カバーデザイン:ハヤカワデザイン
上巻解説:山本弘(と学会) 下巻解説:池内了
上巻表紙のアインシュタインは、マニトゥというか、
それを使った大友克洋童夢公団住宅のアル中親父のキッチンに、
じじいが現われる場面を思い出す人も多いと思います。
下巻表紙は、マグリットダウジング
訳者あとがきで、全訳でなく、四つの章をはぶいており、その箇所は、
内容が普遍性に欠け、教えられるところも少ないと感じたものですから、紙数が限られていることも考えて省略した次第です。どうかご了承下さい
と弁明しています。それに対し、章立ての順番が原書と異なる点も含め、
ハヤカワ移行のタイミングで全訳改稿すべきではなかったか、
の声が読者側からあることは、アマゾンレビューのとおりです。

疑似科学分類学目録学、といった趣がありますので、
その観点を鑑みると、確かに原書どおり全訳したほうがよかったべさ、
と思いました。スーザン忖度。

<目次>
上巻
原著者のまえがき
科学の名において 疑似科学と奇人のプロフィル
平たい大地、中空の地球 地球空洞説の周辺
地球をゆるがした怪星たち 聖書の奇跡の「天文学的」裏づけ
くたばれアインシュタイン 相対論の揚足とり
地質学対創世記 進化論への抵抗
憎悪を煽る人々 人種差別の「科学的」基礎
医療の四大宗派カルト 同種療法、自然療法など
食物のあぶく流行 断食からハウザー食まで
オルゴン理論 オルガスムと宇宙論
ダイアネティックス 出生前記憶と精神治療
ESPとPK ラインの実験の問題点

下巻
円盤狂時代の開幕 異星人が地球を見張ってる?
占い棒と占い振子 地下水や石油、病気や性別もピタリ
生命をつくり出す人々 現代のホムンクルス
ルイセンコの勝利と敗北 科学が権力にすり寄るとき
アトランティスとムー 「失われた大陸」の魔力
ピラミッドの神秘 数字が未来を予言する
奇跡の医療機械 えせ医師たちのボロもうけ
めがねを捨てろ! オルダス・ハクスリーもだまされた近眼治療
奇妙な性の理論 男女児の産み分け、若返り、保留性交など
一般意味論とサイコドラマ 精神治療のわき道
骨相学から筆跡学まで 性格判断のいろいろ
訳補 疑似科学の新しい話題から 超能力から超物理学へ
<目次以上>

私はねっからの文系、否、理系文系の区分分け以前だなあ、と感じました。
ブルーブックスやニュートンみたいなサイエンス本、雑誌について、
とにかく私はチンプンカンプンなのですが、じゃあ疑似科学なら分かるかというと、
疑似科学の理屈もぜんぜんチンプンカンプンでした。
地球空洞説とか反進化論とか、根拠のロジックが全然アタマに入らない。

アトランティスとムーのところ、ウェゲナーの大陸移動説が出てこないのですが、
あの、南アメリカとアフリカをハサミでチョキチョキ切って、くっつけると、
"成成不成合處一處在"と"成成而成餘處一處在"がピタッとハマッたという、
あの話のレベルなら理解出来るのですが、それはなかった。残念。

内田裕也の映画『コミック雑誌なんかいらない!』で、
 豊田商事のオバサンが、金の延べ棒のチラシを老人客の手に載せて、
 その上から自分の肉感的な手で包み込んで、
「(延べ棒なのに)軽いでしょう」相手の目をここで見つめて
「紙だからです」の場面と同レベル)

上巻頁147 憎悪を煽る人々
 ヒトラーが使った「アーリア人」という語は、おしまいには筋の通った意味をまったく失った。たとえば日本人は、枢軸国の一員となったとき、アーリア人と宣告されねばならなかった。あるナチスのジャーナリストは、たまたま祖母がスー・インディアンだった。一九三八年に新聞局は、多くの人類学的審議を重ねた末、実際にスー・インディアンは正式なアーリア人だと裁定した!(他のインディアンの種族については何の裁定も記録されていない)

ヘイトに関してはなんぼでもネットに氾濫してて、
AIがそれを短期間で効率的に学習してしまうご時世ですが、
日本人がアーリア人だったとは知りませんでした。手塚治虫のアドルフによろしくで、
ヒトラー我が闘争で、日本人をサルだとこきおろしてると読んでましたので。

上巻頁163 同
第二次世界大戦中、赤十字は大衆の圧力により、白人が献血した血漿を扱う血液銀行と、黒人が献血した血漿を扱う血液銀行を、別々に経営することを余儀なくされた。血漿そのものはまったく同一だったことはいうまでもない。

1952年、公民権運動前の記述です。

上巻頁164医療の四大カルトの導入部に、では、私のように、
科学も疑似科学も分からない人が、なぜ信じて、そしてオカネを出してしまうのか、
分かりやすく書いてあり、ペテン師が肩書とか権威とかいっぱいあって、
親しみやすく信頼出来そうなキャラで、そして人は時間が経って、
自然に治ったり軽くなったり気にならなくなったりしたとき、その前に、
何か施術を受けていると、それがきっかけだ、それで治ったんだと思い込む、
そういうことだそうです。日食が起こった時、まじない師が杖を振ると、
太陽が顔を出した。まじない師が太陽を呼び戻したのだ。
チャールズ・フォートという人の上記、簡潔な要約を本書は引用してました。

思えば私が膝の痛みがひどかったとき、整形外科で、
出来るだけ毎日来てくださいと言われ、待合室で毎回一時間とか三十分とか待って、
キセノン光を浴びて150円払って(あとは健保)、診察なしで、処方薬局で鎮痛剤もらって、
服用してると献血行けないのに行けるとうそぶかれたことなど、
まったくその、人を信用させるテクニックの逆なんだなと思いました。
整骨院で、テーピングとサポーター、炎症部を冷やしたり、ストレッチ指導、etc.
総合的な指導が功を奏したわけで、正直マッサージの施術に関しては、
なんでこんな整体師によってひとりひとり違うんだろう、と思う感じで、
しかしface2faceで顔つきあわせてやるわけですから、
整形外科で診察申し込むと「水がたまったんですか(悪化したんですか)」
そうでなければ毎回診察は意味がない、と言われるのとでは、
まったく違うなあ、と思います。本書では、2巻のぼろもうけのところに、
「整骨医」がときおり出てきて、1952年アメリカの整骨ってなんだろなと思いました。

下巻頁40 円盤狂時代の開幕
なおある新しい大きな百科事典にUFOはユーエフオーとよむもので、ユーフォーとよぶのは日本だけとあるが、どの英和辞典も英英辞典も両方の発音をのせているので、明らかにまちがいである(略語の発音を示さない方針の辞典には、もちろん両方とものっていない)。

しかし、forvoを開くと、英語圏はユーエフオーの例しかなかったです。

UFOの発音 English forvo
http://ja.forvo.com/word/ufo/#en

空飛ぶ円盤は当時の気球実験が面白かったです。ジェット機時代になり、
科学がその次を模索する時代になって初めて、
空飛ぶ円盤が空飛ぶ円盤に見え始めたのが面白いです。
その次のダウジングは、民俗学的要素が強すぎて、トンデモの手に余るようでした。
(西洋こっくりさんも同じ)私は、柏レイソルの食事を見てた人の書いた本読んで、
食パンよりフランスパン、ハムよりソーセージ、を信じてますので、
そういうレベルからみて、雑多な医療器械紹介の中で、色光、
スペクトロ・クロム療法が、自分もやってしまうかもと思いました。
下巻184、真赤な光は性欲を増進させ、紫色の光は性欲をしずめるとか、まことしやか。

下巻頁186 奇跡の医療器械
 ガディアリは最近に行われた裁判で、色光のおかげで奇跡的に治ったと証言してくれる証人を、何の苦もなく一一二人もみつけることができた。ある証人はてんかんの患者だったが、法廷で「私はガディアリ博士が治してくださるまで、生まれてからずっと引きつけをおこしていたのですよ!」と叫んだとたん引きつけをおこした。政府側は色治療を受けているあいだに死んだ多くの患者たちの親戚をつれてきた。ある息子はこう語った。ガディアリは糖尿病患者だった父に、インシュリンの摂取をやめて色光をあびるように忠告した。それに従った父は三週間後に死んだ、と。

胎児に逆行するカウンセリングとか男と女は別々に進化した別のいきものとか、
トンデモとして楽しめる記述もたくさんありました。
「保留性交」は貝原益軒だと日本人なら誰でも思い当たるのですが、
(接して漏らさず)中国人なら房中術ですかね、アメリカのニューアカが、
その辺のインスピレーション元をちゃんと検証してないのは残念な気がします。

トンデモを熱狂的に信じた有名人の例の中に、ヴァン・ヴォグトが出てきて、
この人は意味論からダイアネティクスに乗り換えたそうで、
こういうハマる人って、乗り換えのりかえもアリなんだなと思いました。
一途だと致命傷負いそうだからかも。
私は中学時代教師からヴォグト読めといわれてたくさん貸してもらったのですが、
フツーに火星で息が出来るとかについていけずすぐ本閉じてしまい、
だからその時読まなかった本、『非(ナル)Aの世界』のAが、
アリストテレスのAだと下巻頁257で云われて、少し懐かしかったです。
この教師はメキシコの日本人学校に行ってしまいました。欠物傑物だったです。
以上