『少年の名はジルベール』読了

少年の名はジルベール

少年の名はジルベール

いつかは読むつもりでしたが、こんなに早く読むつもりはありませんでした。
例によって、転がってた本。図書館の本なので、今読んでる本をさておいて、
夕食後に読みました。タイトルでだいぶ損をしてると思います。
別にBL誕生秘話じゃないので。徳島から上京し、
風と木の詩のコーソウが作者に降りてから、
連載を勝ち取るまでの、バクマンみたいな話でした。アマゾンレビューにあるように、
萩尾望都との、読んでて苦しくなるような相剋と、小野耕世も遠慮して書かなかった?
「増山さん」の話がタップリとで、本当に面白かったわけですが、
私も頁221、「『テラへ…』の竹宮さんですか?」と聞いてしまうクチです。
ひおあきらのエピソードも、一箇所くらい入れてほしかったなぁ。
弓月光は一箇所出てくるのに。佐藤史生も一箇所。大島弓子は二、三個所。
誰が三羽烏としてひとくくりにしたのかなあ。『誕生!』を出してます。
冒頭登場する萩尾望都の短編『爆発会社』読んだ覚えがないのですが、
作品集だと『ビアンカ』に入っているとのことで、じゃたぶん読んでます。

http://www.hagiomoto.net/works/004.html

でも忘れてるので、小学館文庫の『ルルとミミ』買います。
ビアンカというと、この竹宮恵子の自伝ではクールなハギオの、
母娘の相剋というメインかつ深く突き刺さったテーマなんですよね、
今から過去を分析してしまうと。
頁54、ケーキケーキケーキが何度もボツ喰らったという話にはびっくり。そうなのか。

頁35「増山さん」と竹宮の会話
「私の作品は、どう思っていたの?」と聞いてみた。彼女はきっぱりとした口調で「最初、すっごくいやな子って思った」と言った。
「どうしてよ」

(中略)
うまいよ。だけどね、あからさまにうまいのよね。綿密な計算のうえに描いている。つまりさ、『COM』って雑誌が、好むように描いているでしょう。応募したからには、私、絶対に受かりますよってマンガだった。誤解しないでよ、作品が計算高い、いやな子ってことよ」
「ふーん。そうしちゃいけないの?」
(後略)

徳島はうどん県香川の隣県だから、計算高くても仕方ないと思います。
大杉漣はあまり計算高そうにみえないですが。
「増山さん」について作者が感じることは、そのままブルデュー文化資本

頁124に、大泉サロンにつどった地方出身少女漫画家たちが、
少年愛をめぐる模索と葛藤、創刊間もない薔薇族なども資料とした、
現実と、のちにBLとして一つの巨大マーケットを形成する、
女性が考える少年愛との相違について侃々諤々の応酬する場面があります。
談論風発、まっことよきことでごわんど、よかにせ、
そこに一人でもかごんま出身者がいれば全然違ったのにと思いました。
きだ みのるとかね。きだ みのるが大泉サロンに行くわけないか。

地球の歩き方もない時代の欧州自由旅行の場面も面白かったのですが、
よくこんなに覚えてるもんだなと思いました。資料も保存してるんでしょう。
私のように人生の時期が数回、ブツ切りに断絶してる人間とは違う。
連綿と続いて人生を積み上げたひとは素晴らしいなと思いました。

頁115
「だっておまえ、ページ開いたら裸の男の子がいきなり2人出てきて抱き合ってんだぞ。こんなものは載せられないよ」
「ちゃんと、足2本しか絡まないように描きました。ベッドシーンで足3本以上だと警察に行って始末書だって、教えてくれたのはYさんでしょ!! それに表現上、必要なシーンなんです。こういうことができないから、少女マンガはいつまでも表現の幅が狭いし、奥行きがないままなんですよッ」
 Yさんは机の上に置いてあった雑誌を手に取って、私に突き出した。
「おまえは知らないかもしれないけどね。こう見えても、この雑誌は、皇居に納めさせていただいてるんだからねッ!」と、真顔で言う。
 はぁあ〜〜、と思った。
 今もって、謎だ。納得がいくわけがない。勝ち誇っている意味がわからない。

(後略)

私には分かりますが、結局連載を勝ち取ったのは別の雑誌です。
読者の対象年齢上昇に伴って連載誌が変わる展開は、
池田理代子の『オルフェウスの窓』もそうでしたね。
マーガレットから、セブンティーンへ。池田理代子はこの本には出ません。
林真理子も。坂田靖子は出る。森脇真末味は出ない。夢野一子は出ない。
上原きみこは出る。大和田夏希は出る。もりたじゅんは出る。本宮ひろ志は出ない。
(この名前羅列に意味はありません)
私が風と木の詩でいちばん印象に残ってるのは、たぶん、
「酒は燃えるものだと知っては暖炉にくべる」かな?
その年でジルベールはもう飲んでいた。以上