『剣ケ崎・白い罌粟』 (新潮文庫)読了

http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/y/yt076543/20161004/20161004023153.jpg神奈川近代文学館の直筆原稿展にこれがあって、
それで、自伝的作品なんか書いてたんか、
と借りた本。初版は確かに1971年ですが、
借りたのは平成十六年の三十九刷で、
活字も読みやすい、大きなものになってるのに、
アマゾンはおろか、版元のサイトにも
表紙画像がないのは、おかしいと思いました。
カバー:堀川公子 解説:白川正芳

剣ケ崎・白い罌粟 (新潮文庫)

剣ケ崎・白い罌粟 (新潮文庫)

以下各作品の感想。

薪能
たつきの道がないと辛いのう、と思いました。だから死んじゃう。

<剣ヶ崎>
自伝的作品なんかあったかなあ、と思ったとおり、
Wikipediaのこの人の来歴と、この小説のディテールは、だいぶ違いました。

作者経歴幼少時代 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AB%8B%E5%8E%9F%E6%AD%A3%E7%A7%8B#.E5.B9.BC.E5.B0.91.E6.99.82.E4.BB.A3

現在でも隣国ですから、日韓日朝とかハニルとかのハイブリッドは、
珍しくもないと思うんですが、作者そうだったっけ?と記憶を疑っていたら、
作者は違った。ダブルではなかった。ダブルではないのに、
なぜダブルの苦悩を描いたか、分かりません。めんどくさい人だと思いました。
また、李朝朝鮮の美学とこの小説のテーマはかけ離れてるので、
なんというかなんだなあ、と思いました。
浦項でACL覇者となった、岡山一成の伝記が読みたいです。

頁99
硫黄島から米軍の小型機が来襲し、そのたびに三浦半島一帯の砲台から射撃が続いたが、米軍機はなかなか落ちなかった。

日本近海に遊弋する米空母はいなかったので、艦載機グラマンが飛ぶわけがない、
ブサヨの捏造、と昔書いてた國士樣を思い出しますよ。
なんのために米軍が硫黄島を攻略したかも分からずWWⅡを語っておられたww

頁142 日本陸軍大尉の段階で脱走渡米、戦後韓国要人となった主人公の父の語り
私の現在の立場を話しておこう。これは、まずあり得ないことだが、かりに、今後、韓国と日本のあいだで戦争がおきたとする。そのとき私は、韓国人として、母の国日本を滅亡させることに自分のすべてを投入するだろう。おまえの子供達は、反対に、韓国人を殺しに来るだろう。これが歴史だ。私には、悪循環こそは永遠である、などといった逆説めいた言葉はとうてい口に出来ない。おまえと私のあいだに溝があるとしたらこれだけだ。私は、もしかしたら、おまえとは理解しあえないかも判らない、と危懼を抱いていたが、ある程度は理解しあえたようだ。おまえはどうだ?

帝国軍人が渡米するとか、アメリカ留学派がこの小説執筆時の、
朴正煕時代に要人になれてるものか(李承晩失脚後なのに)とか、
いろいろ無理があると思うんですが、作者の、「美」フィルターを通して見た、
冷戦時代の韓半島がそうなんだから仕方ないのかなと思いました。

頁142 息子である主人公の語り
私の二人の子供は、もう、完全に日本人です。自分達のなかに、何分の一かは韓国人の血が入っているのを知らずに、あいつ朝鮮人だぜ、などと話しあっています。そうしたことを教えるのは日本の古い世代に属する人達ですが、日本という不思議な風土にうまれあわせた者として、仕方のないことだと思います

頁80 主人公の兄の語り
「朝鮮の王族と貴族は日本の女をあてがわれ、混血児の製造にはげんでいる。まったくみものだ」

頁86 同
「俺にとっては信じられるのは美だけだという気がする」

これは作者にも通暁する思想ではないかと思いました。
この小説は、日韓併合時代なので、大邱、テグを「たいきゅう」と読んでいて、
「大」をだいと読むか、たいと読むか、後者は清くて尊いものだけ、
と、これも2ちゃんなんかで國士樣が熱弁を振るっていたのを思い出します。
清音から始まるほうが言いやすいから、とか、そういう話は邪推。防府

Yahoo!知恵袋 2012/5/2512:36:18
山口県では「河豚」を「ふぐ」ではなく「ふく」…
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1187944596

<薔薇屋敷>
地蔵坂とか、日本人外国人ステッキガールの娼館所在地が、
やけに具体的に書いてあるので、はらはらしました。お話の途中で、
壊滅してよかった。途中から、麻薬中毒の解毒の話になりますが、
有閑階級なので、ダウナー系の阿片、モルヒネであり、
やる気元気本気のヒロポンとかは出ません。
頁223中毒患者は決して自殺などしないものだ。
確かに、入院時も隠れアンプルを仕込んでおいて、それが取り上げられた時、
初めて半狂乱になるが、別にうつとのコンボではないので、死なない、という展開は、
説得力がありました。

<白い罌粟>

頁271
「僕は丸三商事に十万円の借用を申しこみ実際に手にしたのは八万円です。内訳は、十万円のうちから、第一回目の返済額一万五千円を棒引きされ、さらに、手数料、公正証書作成料と称する名目で五千円、計二万円を棒引きされたのです。最初、丸三商事が示した条件というのは、十万円を借りると、毎月一万五千円あて十回で返済するから、合計十五万円となる、五万円が利息だから、これを十で割ると月に五千円、したがって月に五分の利息となる、ということでした。ところが、これは、あきらかに丸三商事の詐術行為でした。彼等の言うように元金を毎月一万円返済すると次回からの利息は残りの元金にかかるわけですから、当然低額になるわけですが、十回均等に五千円の利息を要求するのはおかしいではないか、また、十万円を借りた瞬間、僕がすぐ第一回目の賦金を返済するのは、一カ月金を使わずに、つまり僕は十万円を借りる約束をしただけで彼等に利息を支払わねばならない、これは如何なる理由によるものか。利息制限法の四条によりますと、人民相互の契約では礼金や棒引きは禁じられていますから、相手が僕を欺したことはあきらかです。そこで僕は、僕が手にした八万円が、丸三商事から借りた額だと解釈します。かりに僕がこれを、相手方の言うように毎月一万五千円あて返済するとなると、第一回目は、八万円の五分、四千円が利息で、一万一千円が元金ということになります。二回目は、残りの元金六万九千円の五分である三千四百五十円が利息で、一万一千五百五十円が元金ということになります。こうして返済すると、六回までが一万五千円で、七回目は五千五百円、元利合計九万五千五百円で完済ということになります。ところが、相手方の言うように支払うとなると、それ以後の三回分四万五千円と七回目の差額九千五百円とあわせて五万四千五百円を、僕は理由もなしに支払うことになります。僕は、相手方に、五万四千五百円もよけいに支払う理由を見つけることが出来ませんでした。ここに元利合計額を計算したのを提出しますから御審理ください」

美だけを見つめていたい人が金を見つめるとこうなるのか、という感じ。
これが直木賞受賞作というのも分かる気がします。

流鏑馬
よく分かりませんが、薪能と同じ。

表紙画像は下記はてなダイアリーから、先様ご承諾の上お借りしました。
http://d.hatena.ne.jp/yt076543/20161005/1475676244
以上