『くうねるところすむところ』読了

ほかの人のブログで拝見して、読んでみようと思った小説。
読んだのは単行本です。2005年5月末日刊。表紙は文庫本と同じ絵。
イラスト:河野紋子 ブックデザ:鈴木成一デザイン室 題字協力:片岡朗
単行本なので解説とかはないです。著者あとがきはあって、
取材先で名前出せる人は明記して、出せない人ともども謝辞。
あと、参考文献一覧つきです。

ジャンル小説、業界小説とでもいうのかなぁ、建設業というか、
街の工務店のお話です。家の新築とか、増改築がメイン。
地面掘り返して下水管がどうのとか、ゆんぼとか、旗振りカタコー警備員とか、
そういうのは出ない。冒頭、酔って足場に上ったヒロインを、
鳶が助けてロマンスになるんだかならないんだか、なんですが、
鳶はあまり戸建てに絡まないのかな? 不自然にならない登場がムズいと思いました。
作者はものがたりの海のプロだから、弱み見せませんですが、
初期設定ミスった、よく考えてなかった、とか思ってたかもしれません。

作者も🚺女性ヒロインも女性読者もたぶん女性、
初出の別冊文春2004/1,3,5,7,9月号を女性が読むのかどうかは別として、女性。
なので、恋の行方については、言っていいこと悪いことのTPOがあるわけで、
私は、冒頭、ヒロインの身長は書いてあったかどうか不文ですが、体重について、
六十キロ近くを指してから怖くて計っていない(頁7)という描写が、
キモなんじゃないかなと思っています。女性あしらいが上手くない朴訥な男、
それは往々にして面食いではなかろうか。たぶんそうだよ。
パワフルな背筋発達した女がサカってきたら、脱兎のごとく山二つ三つ越えて、ぴゅー。

頁10
 そうです。酔っていたのです。今しも布地ごしに足場板にしたたり落ちる缶チューハイに行き着くまでに、立ち飲み屋で缶ビール三本、道すがらの自販機で缶入りカクテル一本か二本、もっとかも。ポケットに入っていたのが何本目か、わからない。好きなわけじゃないのに、体質的に酒に強い。飲んでも酔わないという自信がいけなかった。実は酔っていた。そうでなければ、スカートにストッキングという格好で足場に上ったりしない。

頁19
 妄想はそこまで広がったが、現実には何も起こらなかった。立ち飲み屋でグズグズするのもみっともないので、三十分ほどで出たが飲み足りない。
 フラフラ歩きながら、酒の自販機が目に入ると硬貨を放り込んで、缶チューハイを叩きだしては飲むというのを繰り返した。
 こういうのって、なんかカッコイイ。ワイルドで、それでいて都会的じゃない?
 お姉さん、いいご機嫌だね。
 自分で自分に行ってみた。イヤだ。寂しくて、ヘンになりそう。
 目の前に季節はずれのクリスマスイルミネーションがある。赤く点滅する豆電球が一連だけ。わびしいわたしの誕生日パーティーにぴったり。
(後略)

ここから始まって、あとはコミュ障(と揶揄され、実務に支障もあるが生きて働かねば的な)
の現場監督が出てきて、一度は排除されますが、物語はなかなかうまく進展します。
楽観は大切だな〜 

頁194
(前略)経済学の見地からいうと、高層マンションより平屋のほうが金融不安が起きたときに安心なんだそうだよ」
「へえ、どうして」
 時江が訊き、梨央までが洟をかみながら興味深そうに棚尾を見やった。
「南米あたりじゃ、不況で電気が止まってエレベーターが動かない高層ビルがゴロゴロしてるんだってね。みんなノホホンとしてるけど、日本だっていつそうなるかわからないそうだよ。庭があれば、いざとなったら芋を植えて自給自足できるとかさ。
(後略)

3.11前に書かれた小説なので、電動の駐車場が麻痺した例は書いてませんが、
耕作放棄地が激増する現状、市民農園やら日曜農園の土地に事欠かない現状、
も予測してないと思いました。

頁233に、塀のない家、という提案があり、最近、私も塀のない家を見ます。
ひとつは、二階建てを壊して、もう帰ってこない子供の世代のスペースを残さず、
こぢんまりと、バリアフリーに住む家。
もう一つは、庭付き一戸建ての建売が売られて更地になって、そこを二戸に分割し、
家屋と一台分の駐車スペースだけ確保された家。庭がないから塀もない。
門だけある。そこに新聞受けとポスト。

頁257に、一階が全部土間の家が、伝聞として出てきます。
土間は靴脱がなくていい点が、食事後すぐ現場や畑に行く場合便利ですが、
横になって昼寝するならやっぱり地下足袋や長靴は脱ぎたいですし、
土間で寝るより畳で寝たいと思います。だから農家から土間が消えた。
昔というか、近代の土間はそこに机と椅子があって、そのまま食堂だった。

ガテン系女子小説、女性企業家小説とも言えますが、
恋って大切なんだなあと思いました。以上