『重力が衰えるとき』 (ハヤカワ文庫SF)読了

私がこの日記を始めたころ、何かで薦められていたのでメモして、
そのままになっていたのですが、この年末年始、えいや*1で借りて読んだ本。
何故そのままにしていたかというと、私は重力が苦手で、上記も未読積ん読でそのまま打ち捨てられましたし、
トマス・ピンチョン 全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)

トマス・ピンチョン 全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)

トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[下] (Thomas Pynchon Complete Collection)

トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[下] (Thomas Pynchon Complete Collection)

上記は人に勧めるだけ奨めて、自分は未読のまま現在に至るという…
これもそういうしちめんどくさい重力かと懸念していたのですが、
ノーベル文学賞をこのたび受賞したボブ・ディランの歌から来ているそうです。

When Gravity Fails (English Edition)

When Gravity Fails (English Edition)

上記アマゾンは復刻版で、私が読んだのは旧版。違うのは表紙だけと思いますが、
復刻版手に取ってないので、目視で比較したわけでなし、分かりません。
旧版のイラストはひろき真冬という人ですが、復刻版のイラストを描いた人は不明。
復刻版のレビューも、旧版が手元にある人ばかりのようで、
復刻版のイラスターイラストレイターを明記したものはないです。
http://blog-imgs-81.fc2.com/a/t/w/atwonder/effinger20151017001.jpg
http://atwonder.blog111.fc2.com/blog-entry-1515.html?sp
http://bookshelf.co.jp/images/9784150108366.jpg
http://bookshelf.co.jp/product_info.php/products_id/58259
レビューなんかだと、イラストと内容の関係が希薄みたいに書いてるのもありますが、
人格モジュールという入れ替え可能なアイテムを装填することで別人格になれたり、
元々の人格のメリットをのばしてデメリットをちぢめたり出来るという設定、
ジェンダーが希薄化して、もともと女性だった女性を「本女(ホンジョ)」と呼んだり、
性転換者を「性転」と略称で呼んだりするサイバーパンク社会を、
それなりに活写した表紙と思います。ソケットの大きさが時代ですが、
SDが出てくる前、フロッピーがソノシートみたいだった時代に、
この形で造型しているのだから、立派な未来予知力だと思います。

作者 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC
http://1.bp.blogspot.com/_M5zGAdrZhzY/Six_z0eHOLI/AAAAAAAAAFk/roMkEatziGo/s320/GAE-Gravity.jpg
http://martyhalpern.blogspot.jp/2009/06/george-alec-effinger-part-three.html
旧版の作者写真と同じ写真が上記です。すぐ見れなくなるかな。たぶんただのコスプレ。
作品は架空のイスラム社会が舞台ですが、それは便宜的な措置で、
作者が親しんだニューオリンズバーボンストリートで、

頁430 訳者あとがき
数年前、知り合いのオカマのダンサーが、家に連れ帰った客に野球のバットで後頭部をなぐられ、バルコニーから投げ落とされる事件が起きた。ところが、被害者の父親がたまたま市の高官だったため、当局がスキャンダルを恐れ、自殺ということでこの事件を処理して、闇に葬ってしまった。

という米国社会(当時)の現実をどう描くか苦慮して、オルタナな未来に託した、
という感じみたいです。(作中の米国や欧州、ロシアは崩壊している)
私は登場する黒人の比率の高さや、飲酒の許容などから、
ナイロビなどの東アフリカかなあと思いました。
マイケル・ビショップという作家は、この作品への賛辞で、主人公をかばって、
どうかへたなフランス語を勘弁してほしい。と書いてます。あとがきに引用されてた。

頁180
「きみの両親のどちらかが、ベルベル人の血をひいておるにちがいない」
 おれは気色ばんだ。この怒りには長年の歴史的理由があるが、それは大昔の退屈な物語で、この場には無関係だ。ベルベル・アラブ関係のややこしい全問題を避けるために、おれはいった。
「ヤー・シャイフ、おれはムスリムです。父親はフランス人でした」
「こんな諺がある。もしラバに血統をたずねたら、片親は馬だとしかいわんだろう」
 これは穏やかな非難と受けとれる。アラブ人にならって、ロバを犬と同様にもっとも不浄な動物と考えた場合、ラバやロバへの言及は、意味深長になってくる。パパはおれをいっそう怒らせたことに気づいたようだ。軽く笑って、手をふった。
「わが甥よ、許してくれ。きみのしゃべりかたにはマグリブ方言のなまりが強いといいたかっただけだ。もちろん、この町でわれわれの使うアラビア語にも、マグリブやエジプトやレヴァントのなまり、それにペルシア語までがいりまじっておる。

主人公は薬物が利きにくい体質で、ODだけが特技みたいなキャラですが、
後半手術してから話がとんとん拍子に進むわ、強くなるわで、そっから、
テンポがよくなりました。それまでは、

頁39
よくある失敗だ。たいていの人間は、あこがれのだれかをまねて整形手術を受けるが、その変化が自分の体と調和しないことには気づかない。おれは動かないタミコを見やった。ブラックウイドウ・シスターズの紋章がそこにある――信じられないほど巨大な移植の乳房。タミコのバストは、おそらく一四〇から一五〇はあるにちがいない。偶然このシスターのひとりにでくわしたときの、観光客の啞然とした表情ときたら大笑いだ。

洋物の巨乳専門誌って、今でもあるんでしょうか。
和物は知りません。二次元なら、たくさんあるんでしょう。今でも。
人体改造にまつわる文化の諸相は不思議ですよね。
男性裸族のペニスケースは改造ではありませんが、纏足とか首長族とか、
女性の美を巡る、あるいは女性への美を巡る、自然でない改造文化って、
不思議と思いますが、それはこの物語とはあまり関係ないです。以上

*1:見る前に飛べ