『きょうも上天気 SF短編傑作選』 (角川文庫) 読了

http://www.kadokawa.co.jp/product/201007000058/
カバーイラスト:宮尾和孝
カバーデザイン:國枝達也(角川書店装丁室)
なぜこんな角川文庫があるのかと思いましたが、
まず、この本のコンセプトは、不世出の多作名翻訳家浅倉久志追悼で、
編者が、角川文庫の郡司聡編集長(W・ギブスンのヴァーチャルライト翻訳を
故人に依頼した人だったとか)に話を持ちかけ、成立した本だとか。
アマゾンレビューで、これが訳者ベストとは思わないとの声がありましたが、
編者もあとがきで、これは氷山の一角に過ぎないので、まだまだ続刊が出ればいいな、
としていて、そして続刊はないです。翻訳リスト見て、スランとか、
人間の手がまだ触れないとか、なっつかしいと思いました。
重力の使命は、むかし人が貸してくれて、読めずに返したなあ、と。

これも、コニー・ウィリスが、『混沌ホテル』*1序文で、なんか言ってた短編が、
収められているので借りた本。どれだかはいずれ追記します。今は分からん。

浅倉久志 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%85%E5%80%89%E4%B9%85%E5%BF%97

このウィキペディアより、本書編者の解説のほうが詳しいです。
このペンネームはアーサー・C・クラークのもじりだとか、
当初二足の草鞋を履いていた会社が浜松のいとへんだとか、
伊藤典夫は浜松の同郷人で、宇宙塵の同人として知り合ったとか、
大谷圭二の筆名はハヤカワのライバル創元推理で仕事する時用だとか、
南山宏、鏡明小林信彦大島豊らのエッセーから、
訳者について語られた箇所を縦横無尽に引用し、故人のお笑い短歌も引用、
SFマガジンの追悼特集では、本書と異なり、
これとこれとこれが収録された、と、フェアに書いています。
正直、私は、大森望は、プロデュース能力が高いから、
食べていく生存力も高いわけなのでいいなあ、でも、
博識を書くとしったかというか上からというかオタクに見え、
謙遜して分からないと書くと、この人バカなんじゃないかと思え、
損な人に私から見ると見える、という文章の人であります。

<本書収録作品(と、矢印以降感想)>
「オメラスから歩み去る人々」ウルシュラアーシュラ・K・ル・グィン
 "THE ONES WHO WALK AWAY FROM OMELAS" by Ursula K. Le Guin 1975
 ⇒最後のオルタナな選択が救い。如何にもル=グウィン
「コーラルDの雲の彫刻師」J・G・バラード
 "THE CLOUD-SCULPTORS OF CORAL D" by J.G.Ballard 1967
 ⇒綺麗な作品で、このシャネルは実在のシャネルなのか気になりました。
「ひる」ロバート・シェクリィ
 "THE LEECH" by Robert Sheckley 1952
 ⇒倉橋由美子『聖少女』にこの話が出てくるとか。編者によると。
「きょうも上天気」ジェローム・ビクスビイ
 "IT'S A GOOD LIFE" by Jerome Bixby 1953
 ⇒ハルヒビューティフルドリーマーの原点だとか。編者によると。
  私は何故か、ブラジルから来た少年を思い出すのですが、違うか。
「ロト」ウォード・ムーア
 "LOT" by Ward More 1953
 ⇒この渋滞描写は現代でも通用すると思います。携帯トイレ以外。
  しかしアメリカは'50でもうこれだけの車社会だったんですね。
「時は金」マック・レナルズ
 "COMPOUNDED INTERESTS" by Mack Reynolds 1958
 ⇒日本人が参加するイルミナティは珍しい、というかユダヤ人もいないし。
  ひどくまずいイタリア語を、主人公はどこで習ったんだろう。ラテン語でなく。
「空飛ぶヴォルプラ」ワイマン・グイン
 "VOLPLA" by Wyman Guin 1956
 ⇒ニジンスキーとかなんとか、娘とそれがエッチしなくて本当によかった。
「明日も明日もその明日も」カート・ヴォネガット・ジュニア
 "TOMORROW AND TOMORROW AND TOMORROW" by Kart Vonnegut, Jr. 1954
 ⇒ジュニアだった頃の初期短編と編者に言われるまで、
  ジュニアがその後取れることを知りませんでした。
「時間飛行士へのささやかな贈物」フィリップ・K・ディック
 "A LITTLE SOMETHING FOR US TEMPUNAUTS" by Philip K. Dick 1974
 ⇒ループの理屈が分からないと編者は書いておられますが、
  謙遜ではないかと。原題は、米国時間飛行士というタイトルだったんだな、
 (確かに作中にはソ連の時間飛行士も登場する)なんで削ったんだろ、
  と思いました。いや、「私たち時間飛行士」かな?

50年代の洒落たアイデアストーリー中心に選んだ、
80年代を入れられず残念、とは、編者自身もあとがきで語っています。
ディスカバリー的な意味合いもあるんでしょうね、この短編集。
以上

【後報】
コニーが取り上げてるのは『ロト』でした。下記。

『混沌ホテル』序 頁15
 小説の書き方をちゃんと心得ている作家たちばかりで、わたしはその収穫をかたっぱしから刈りとって、「宵待草」、「夜来たる」、「ヴィンテージ・シーズン」、「アララテの山」などのクラシックに読みふけった。
 そういう名作群の中でも、さらに傑出した作品がいくつかある。そのひとつがウォード・ムーアの「ロト」。パパが一家の車に荷物を積んで出発する、一見、なんでもない話としてはじまった小説が、ぞっとするような(しかもリアルすぎる)核戦争の悪夢へと切り替わる。文明の喪失だけでなく人間性の喪失までもありありと描き出すことに成功した作品で、はじめて読んだとき以来、その読後感がずっと心に残っている。

宵待草は、John Collierという人の小説かなと思います。

夜来たる Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9C%E6%9D%A5%E3%81%9F%E3%82%8B
Vintage Season Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Vintage_Season

『アララテの山』という小説は、分かりませんでした。
(2017/5/1)