『よだかの片想い』読了

よだかの片想い

よだかの片想い

よだかの片想い (集英社文庫)

よだかの片想い (集英社文庫)

読んだのは黄色い表紙の単行本です。アマゾンで順繰りに作者の小説の、
あらすじや上位レビューの三行を見て、これを読もうと思って、
借りました。

カバーイラスト ヒラノトシユキ
ブックデザイン 鈴木成一デザイン室

単行本は解説がないので、解説だけ文庫本を立ち読みしようか、
と少し思いました。図書館は新刊を購入するので、
先行出版の単行本が蔵書ですし、単行本のほうが丈夫ですから、
図書館で小説を探すとなると、自然単行本が多くなります。
図書館は、スペースが圧迫されると、文庫本買い直したり、
他図書館との相互貸借本にしたりして、
最初に購入した単行本はリサイクルに出してるんだろうな、と、
勝手に思っています。そういう理由で、図書館利用者は、
文庫版解説に疎いわけで、どうでもいい解説ならどうでもいいですが、
この本の場合、ひょっとして素材に関する専門解説があったら、
と思いましたので、どんな解説が文庫についてるのか、
気にはなっています。

それとの関連でいうと、この小説には、参考文献や、
取材協力が、あったかなかったか分かりませんが、
少なくとも、記載はありません。
以前読んだ絲山秋子『ばかもの』*1は、ヒロインが片腕を失いますが、
隻腕での野菜の皮むき、包丁術や車の運転など、
作者が参考にした文献が巻末で挙げられています。
本書に参考文献取材協力の記載がない理由は分かりませんが、
事実としてそこは書いておこうと思いました。

この小説は、顔に青あざのある主人公が、成人以降の恋愛を経て、
人間的に成長する過程を描いたビルドゥングス・ロマンです。

痣 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%97%A3
太田母斑とは コトバンク
https://kotobank.jp/word/%E5%A4%AA%E7%94%B0%E6%AF%8D%E6%96%91-792440
「太田母斑」という言葉は頁162に出ます。

頁131
 次の瞬間、飛坂さんが予想もしていなかったことを口にした。
「いえ、アイコさんの誕生日を祝っていました。少し前から、お付き合いさせていただいてます」
 その瞬間の母の顔を、私はきっとこの先も忘れない。
 一瞬のうちに、幸福と困惑がまったく同じ量だけ満ちた顔を。
 母はゆっくりと事実を飲み込むように、唇を固く合わせると
「あなたが、アイコと?」
 と、まだ半信半疑みたいに尋ねた。

こんな表情してみたいです。人生の縮図だなあ。
で、上の場面より前に、下の場面があります。

頁96
 飛坂さんは、まるで子供に言い聞かせるように、告げた。
「先に言っておく。僕が、アイコさんを幸せにしてあげることはできないと思う」
 私は、なにもいりません、と宣言して、強く深く頷いた。

私が親なら、あーこういう奴いるいる、大学の時いたわ、が、
自分の子どもの人生に入門して来たという、
その事実にまず怒りを覚えて、殴っちゃうかもしれないと思います。
つまみ食いだけならやめてもらおう、と言うと、いいえぼかあ真剣です、
と言い返したりするんだろうか。鵺と書いてヌエと読む。

このヒロインは、何かをしてもらった時、よく「嬉しい」と言います。
中国語のレッスンで、何かをしてくれた相手をいかに気分良くさせるか、
的な美辞麗句、盛り上げ方、歯が浮くような台詞をたくさん、
学ばないと遺憾と私は痛感していて、それを思い出しました。

頁175
「でも、たまには人間、無理もしないと、成長できないと思います」
 と私が食い下がると、教授の表情がふいに引き締まった。
「前田さん。もし無理をすれば違う自分になれるんじゃないかと思っているなら、その幻想は、捨てたほうがいいかもしれません。そのほうが、君はきっと成長できる。たしかに、人は変わることもある。しかし違う人間にはなれない。それは神の領分です」
 私ははっとして、言葉をなくした。

ネタバレすると、この小説も、
嗚呼、幸せの青い鳥は、こんな(身近な處に)ところにいたんだね、
という展開になるので、サクッと読めます。
映画監督である彼氏が映画雑誌でオヌヌメする映画50本がぜんぶ登場し、
ヒロインがぜんぶ感想を語る、なんて場面があったら拘泥していたでしょう。
題名のよたかは、江戸時代の立ちんぼではなく、当然宮沢賢治ですが、
読者を引き付けるために使った挿話のようにも思います。以上