- 作者: フィリップ・K・ディック,友枝康子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1989/02/01
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解説 大森望
四部構成
原書は1974年刊
Flow My Tears, The Policeman Said (Sf Masterworks 46)
- 作者: Philip K. Dick
- 出版社/メーカー: Gollancz
- 発売日: 2001/11/08
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この本に関連する一連の奇怪な出来事、という記述があり、
なにそれと思って読んだ本です。解説によると、その事件は、
あまりにも有名な、未解決の家宅侵入事件。
とのことで、日本語版のWikipediaになかったので、
ないのかと思いましたが、英語版にありました。
https://en.wikipedia.org/wiki/Philip_K._Dick
One day in November of that year, Dick returned to his home in San Rafael to discover that it had been burgled, with his safe blown open and personal papers missing. The police were unable to determine the culprit, and even suspected Dick of having done so himself.[21]
でもあまりこの本とは関係ないような…
ディックの家がジャンキーのすくつ状態になった反映は、
『暗闇のスキャナー』により色濃く出てるそうで、
じゃあそっちも読むかと思ったら、ハヤカワと創元推理で、
それぞれ訳本出してるとのこと。どっち読もうか、
アマゾンレビュー見ましたが、なかなか苦しいですね。
なんというか、そういう乱れた生活は、中島らもの奥さんが、
書いてた、らも生前のひどい時期の話思い出します。
- 作者: 中島美代子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2013/02/20
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ディックに引き付ける魅力があり、五回も結婚出来た、
人を巻き込む能力があった、と考えるべきかと。
で、この小説ですが、後報
【後報】
この小説ですが、マイナンバーではないけれど、
社会を構成するすべての人間のIDとかすべてのデータが、
ビッグデータ化されている世界で、自分という存在がいる宇宙から、
いない宇宙というか並行世界に、ぽんと放り出されてしまった有名人が、
その後どうするかというお話です。ここ数日、次の動画とかの上に、
カーソルを置くと、動画がくねくね動き出す現象が始まり、
私も、動画固定の宇宙から動画クネクネの宇宙に、
私だけスライドしたのかとこわくなりました。それは杞憂です。
ディックが「読めなかった」未来として、
ナントカペイのような電子マネー、仮想通貨の存在があります。
ユービックの場合未来のコインや紙幣が過去で通用せずキャラは苦労し、
この小説の主人公(億万長者)はポケットの分厚い紙幣で、
たいがいの難事は乗り切ってゆけます。そこは庶民の願望満たしていて、
好感が持てました。庶民はお金持ちになりたいですよ。
私なんか、だから、下記の映画とかそれだけで観たいくらいです。
で、ネタバレですが、
それは並行世界じゃなく、そういうクスリなんです。
自分がイカレるスリクじゃなく、世界がそうなってしまう新薬。
治験段階。その、世界が変わってしまう薬という、主観と客観の倒置を、
安易に読者に設定として提示するディックもディックで、
それを受け容れさせられる読者がゴマンというから、
これはロングセラーなわけで、そのへん、ディックの家に若いジャンキーが、
アホほど入り浸っていたとして、ディックがしょっちゅう救急搬送の℡してたとか、
自身はスピードで付き合っていたとか、最後は入院治療したとか、
まあそういうことはあったとして、受け身であっただけではないだろう、
依存は共依存だから、ディックも若い連中に、何かと影響もたらしてたはず、
と思う訳です。薬がもたらす多幸感万能感、焦燥押さえつけられる感じ破滅を、
こんなにあっけらかんと共有もちかけられても、読者はおしょすいべや。
だから、結末でアレな、最初のセレブレコから始まって、並行世界といっても、
警官以外主人公が逢うのは、ヒッピーとかその辺の繁華街の路上に、
朝四時とかに転がってそうな姉ちゃんとか、固い賢そうなナオンだから、
美人でもないのに主人公がファイト燃やしてつきまとってお茶誘うまで行く、
とか、そういう、異性異性異性です。21世紀から見ても、
此処に出てくる中央線というか下北というか、おかしなチャンネー像は、
まったく古びていないです。おかしくない堅実ゲージツ家チャンネーも。
頁82
「(前略)それとも、人間はふたりの相手を平等に、でもちがった愛し方で愛せることができると、思ってるの? わたしの治療グループは、だめだ、どちらかを選ばなくてはいけない、そう言うの。それが人生の基本的な一面だと言うのよ。前にもあったことなの。ジャックより魅力のある男性には何人か出会ったの……でも、あなたほど魅力的な人は全然よ。いまほんとうにどうしていいかわからないの。そんなことを決めるのはとてもむずかしいことね、だれにも話せないから。だれもわかってくれない。ひとりきりで乗りきらなくちゃいけないのよ。そして選択を誤ることもある。たとえばね、わたしがジャックを忘れてあなたを選んだとする、そしてジャックが戻ってきて、わたしがジャックなど鼻もひっかけないとしたらどうかな、そのときはどうなるかしら? ジャックはどんな気持ちかしら? それは大事なことだわ。でもいまわたしがどういう気持ちかってことも大事よ。(中略)わたしが八週間精神病院に入ってたのは知ってる? アサトンにあるモーニングサイド精神衛生院。家族が入院費を払ってくれたわ。すごく費用がかかったの。どういうわけかわたしたちには地域や連邦政府の補助を受ける資格がないものだから。とにかく、そこでは、(以下略)
これが冒頭少し経って、セレブレコの次に出てくる、幼児体形で、
強制収容所送りの彼氏待ち(妄想)のチャンネーです。いきなりこれか。
頁90
「なぜ飲まない?」けっして薬を飲まない。そんな(略)には何度か会っている。
「飲むと頭が鈍くなるの」まるでそのとおりにやらなければならない複雑な儀式とでもいうように、人さし指で鼻にさわりながらキャシィは答えた。
「でも、もしその薬が――」
キャシィは鋭い語調で言った。「わたしの頭の中マインドまで干渉ファックさせないわ。MFにわたしの心まで犯させやしない。MFってなにかわかる?」
「きみがいま言ったばかりだよ」ジェイスンは静かにゆっくりとしゃべりながら、彼女の様子から目を離さなかった……まるで彼女をそこに抑えつけ、気がおかしくならないようにしようとするかのように。(中略)
「君は無責任だよ」
「だれに対して? わたし、あなたの生命に責任なんかとらないわよ、あなたがそう言う意味で言ってるのならね。それはあなたの責任だもの。わたしに押しつけないでよ」
「きみのやったことがほかの人たちに及ぼしたことに対する責任だ。きみは道徳的、倫理的にいいかげんだ。あっちだこっちだと激しく叩き回ってるかと思うと、また潜って知らん顔だ。まるで何事もなかったみたいにね。そして、ほかのみんなに大騒ぎの後始末をさせるんだ」
キャシィは顔を上げ、ジェイスンと向き合った。「気を損ねたかしら? わたしはあなたを警察の手から救ったわ。それがあなたにしてあげたことなのよ。いけないことをしたかしら? そうなの?」声が大きくなった。(以下略)
下はその次の、年増で胸を出したネーチャンです。
頁164
「なにがあったんだ?」
ルース・レイは空のグラスをいじくりながら言った。「わたし、いつも飲んでたわ。朝の八時からね。その結果わたしがどうなったと思う? おかげで年齢としより老けちゃった。五十歳に見えたわ。いまいましいアルコールよ。いやだって言ったって、強い酒を飲むとそうなるのよ。わたしに言わせればね、強い酒は生命の敵よ。そう思わない?」
「さあどうかな。生命には強い酒よりもわるい敵はいろいろあるよ」
「そうね。強制労働収容所みたいにね。わたしも去年そこに送りこまれるところだったの、知ってる? ほんとうにつらい時期だった。お金がなかったの――(後略)
こういう展開が続き、ふたごの妹が出てくるともう極北で、
陶芸家の、小太りでしたか、それは私の妄想かな? 姉ちゃんが出てくると、
あー常識人だとほっとするのですが、いかにもこわがって逃げようとする彼女を、
いやらしくねちっこく引き留めようとする主人公、人がいいから、
断れない陶芸家、という展開が続き、これはこれで悪夢だ、と思いました。
自分が仕掛ける悪夢。他人が自分に巻き込まれる悪夢。
エンディングでも、陶芸家は、主人公の記憶から排除ッされていません。
陶芸家は成功していて、主人公(というか作者)はニコニコ思い出すのですが、
彼女は忘れてほしいとさぶいぼ立てながら思ってることでしょう。以上
(2017/7/16)