『コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった』読了

コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった

コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった

表紙に書かれた英文
How the shipping Container made the World Smaller and the World Economy Bigger

装丁 坂川事務所
本文デザイン 内田事務所
製作 クニメディア株式会社

全447頁ですが、索引6頁、参考文献21頁、原注61頁があるので、
本の厚みより早く読み終えることが出来ます。

多分、下記はてブを見て読もうかと思った本。

http://b.hatena.ne.jp/entry/wivern.exblog.jp/26149491/

その後、ヒアリで、私のコンテナへの関心は深まりましたが、
この本にヒアリの話はありません。
ただ、なぜヒアリの中継地ハブが中国になり、原産地南米や、
アフリカが発信地とならなかったのかは、コンテナの性質、
属性からも説明可能なようです。

頁345
アメリカの多くの工業都市がさびれていった一九七〇年代、八〇年代に、ロサンゼルスだけが工場立地として伸びたのは、同国最大のコンテナ港を抱えていたからにほかならない。そしてロサンゼルス港が繁栄したのは、アジアからの大量の輸入品を捌くのに好立地だったからにほかならない。カリフォルニア州が輸入するものだけでなく、全米向けの輸入品がここで陸揚げされた。また、太平洋に面したアジア各国が「世界の工場」となった大きな理由は、大型コンテナ港が林立し輸送コストを世界一安く抑えていたからである。ヨーロッパでも事情は変わらない。アントワープは八七〜九七千二かけて四〇億ドルという途方もない予算を港の拡張に注ぎ込んだが、それはひとえに生き残るためだった。だがアフリカの国々は貧弱な港しか持たず、コンテナ船も滅多に立ち寄らない。となると、世界最低水準の人件費も製造業にとって魅力にはならなかった。

コンテナは単体ではその特性を120%は発揮出来ません。
ガントリークレーンと込みで初めて、
その荷卸し、荷積みのスピーディーさ、
効率の良さを存分に発揮するのです。
ほかにコンテナヤードとかあるでしょうが、
まずは水平移動可能かつ巨大なクレーンです。
いちいち開けて沖仲仕が従来通り人力人海戦術で荷捌きするなら、
コストメリットは激減するでしょう。…だそうです。
自分なりにまとめたサマリだかアジェンダ

この本には、港湾設備整備、拡充を巡る物語が、
随所に登場します。前世紀、コンテナ以前隆盛を誇った港が、
水深の浅さ、道路の貧弱さにより没落し、
新規事業が喉から手が出る程欲しい自治体が、
ニューディール的に莫大な予算を投じてコンテナ港を整備し、
船会社から航路を誘致し、勝ってゆくさまがあちこちに書かれています。
ワールドウォーのあいだ、戦争ですから、港湾へのインフラ投資は控えられ、
よって老朽化しており、貨物船の新規建造もロクになかった。
整備がどのみち必要な状態で、かてて加えて、戦争が終わって、
使い先を失った莫大なマネーが、その注ぎ処を求めて、
うなりをあげて自由主義社会の上空を旋回していた。
むかし、日本平エスパルス戦観戦がてら、興津とか由比とか歩いた時、
ちっちゃな港にガントリークレーンが一基だけ、とか見て、
不思議でしたが、あれも、生き残りをかけた鈴与の作戦の一環だったのか。
ニューヨークの没落、ニューアークの勃興。
オークランドの勃興。ロンドン、リバプールの没落。
ロッテルダムの台頭。ベトナム戦争に伴い、ベトナムにコンテナ港が必要となり、
吃水の浅いサイゴン港を捨て、カムラン湾を米国が整備するくだり。
ベトナム航路の帰路の空荷を解消するため、対日貿易が着目され、
米国企業家が商船三井に渡りをつけてからあっというまに、
東京、神戸に船が着き、世界の主要コンテナ港に横浜が登場。

頁283
日本の港を最初のフルコンテナ船が出港したのは、一九六七年九月だった。当初はマトソン海運と日本の船会社の共同運営だったが、ノウハウを学んだ日本はあっさりマトソンを外し、翌年九月にはカリフォルニア向けコンテナ輸送サービスを開始している。

本書は震丹大陸の港湾整備まで書く余裕はなかったようで、
そこまで時間も筆も進めてないのですが、日本があり、
エバーグリーンの台湾があり、シンガポールが、
国を挙げてインフラ整備に狂奔したくだりは細に入り書かれています。
その延長が大陸であり、巨額のインフラ整備が、
本書にあるような、コンテナ核兵器密輸みたいなジョークでなく、
ヒアリ拡散とかの地道な迷惑拡散につながってるのだな、と分かります。

本書の前半部分は、コンテナに着目したベンチャー運輸業者の、
サクセスストーリーと、抵抗勢力としての、巨大沖仲仕ユニオン、
もろもろが、マネーというものは、自らの落としどころを求めて、
このようにうごめくのか、と思わせる、カオス的展開で、
コンテナが拡大してゆくさまが存分に語られます。
コンテナは規格がいのちで、まちまちだったらコンテナ意味ないやん、
という記述は当然あるのですが、結局何がどうなって、
コンテナの規格が決まっていったのか、という点が、
秦の始皇帝が鶴の一声というわけでは無論ないのですが、
どう読んでも、神の見えざる手というか、グーグルが、
全社員向けメール一斉送信しか出来ない内規なのに、
それで社内通達がうまく回ってしまうおそろしさ、
的に耐荷重やら積載制限やらがまとまってゆき、
ロープをひっかける金具は安全面から別ルールで厳格になんとかなり、
載せる鉄道のほうは路線によってゲージもまちまちなので、
横幅や長さどうすんねん、船の設計にも影響するでえ、と思ったら、
何故か複数規格並行併存でなんとかなってゆくとか、
コスト削減を極限まで追求するツールのひとつのはずのコンテナが、
それ自体莫大な投資を必要とするのみならず、妥協の塊をも、
平然と清濁併せ飲みながら前進してゆく姿が、なんか巨象というか、
パックマンというか、という感じでした。

頁303には、パナマ運河を航行できる最大のサイズという意味の、
パナマックス級という大型船が書かれ、将来的には、
アンゴルモアの大王として、頁356、マラッカ海峡を通過出来る、
最大船型、マラッカマックス、という未来予想の記述で終わります。
一回に運送できるコンテナの数が多ければ多いほどコストダウン、
という発想で、しかし、そのすべてを荷積みするの待ってたら、
時間喰って船出が遅れて着荷も遅延、という現実も既に記載されて、
いるんですけれど…

ロハスとかスモールビジネスとか関係ないのか、コンテナ世界は、
と、唖然として読了しました。以上

コンテナ Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%8A