『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』読了

「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気

「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気

wattoさんのブログを拝見して読もうと思った本。

当該ブログ
http://www.watto.nagoya/entry/2016/09/28/003000

この人、義展と書いて「よしのぶ」と読むんですね。
そこからして知らなかった。本名は弘文(ひろふみ)だそうで、
どこでひろふみがよしのぶになったのかは、読み飛ばしてしまったのか、
よく分かりません。厳格で裕福な家庭に育って東大入学を義務づけられ、
不合格、逃げて信州の飯場で働いたりしながら四浪、俳優になろうとして挫折、
日芸に入るも不登校、水商売に入り、芸能界でプロデューサーとして、
必要なあれやこれやの研鑽の日々、のどこかで、よしのぶになった、
のだなと推測します。

西崎義展 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E5%B4%8E%E7%BE%A9%E5%B1%95

ヤマトのカードだったかプラモだったか、画像に必ず、
「Ⓒアカデミー」の文字があり、ガンダムだと「Ⓒ創通エージェンシー
でしたか、どっちも意味が分かりませんでしたが、
前者は分かりました。西崎さんの個人商店みたいなもので、
のちには倒産してるので、ヤマト以外見ない会社名なんだなと。
(後者は、サンライズ創通エージェンシーの関係を知らないし、
 検索もしてないので、不分明なままです)
アニメスタジオというと、タツノコプロでも東北新社でも、
ガイナックスでもスタジオぴえろでも、代表作は複数ありますし、
その年代も短期間で収束してはいないですが、ことアカデミーは、
本書讀むとヤマト以外はブルーノアとオーディーンの二作しか、
作っていなかったようですし、西崎さんの個人商店なので、
サンライズが富野以外にボトムズ作ったり、ジブリが、
パヤオが稼いで高畑が蕩尽する構造だったりというような、
人材が育って複数稼いでゆく絆がまるでない会社だったんだな、
と分かりました。で、西崎さんは、もともと芸能界から、
逃げてアニメに来た人間なので、本田美奈子主演の唯一の映画撮ったりと、
アニメじゃないほうにも動いたりしたので、それでヤマト以外ないんだな、
と思いました。西崎さんがアニメ業界人のダサさに辟易軽蔑、
不潔さにもアレして、ヤマトの衣装にデザイナーつけたりした*1、という、
その、プロデューサーとしてどこに気を配ったか、というところも、
人間は風呂に入らなくても死なないサルマタ松本零士豊田有恒の、
必死の反西崎包囲網との対比で考えると、面白いです。
七色星団の空母艦隊マツモトトヨタetc.を、西崎波動砲が粉砕するという…

頁341
 オフィス・アカデミーで西崎の魔力に圧倒された寺沢賢の追想である。
「身近で接した西崎ヤマト艦内(社内)はまさに、『一将功成りて万骨枯る』という具合。カリスマひとり、あとは横一線、クルーの犠牲的奉仕で成り立っていた世界でした。

頁188
 余談になるが、部下に対する西崎の怒声は凄まじいものだったという。誰もが何度も実の縮むような恐怖を体験している。会議でも西崎の突っ込みは常軌を逸するほど鋭く、社員を叩きのめすまで追求をやめなかった。そのせいで自律神経失調症になる者、突然行方をくらませる者も出ている。自分の全財産を賭けている個人プロデューサーの気迫に太刀打ちできる部下はいなかった。

まー後年シャブで捕まってる人ですし。気迫っつっても。
以下後報
【後報】
こういう人は他者の人生を巻き込んで狂わせるのですが、
男性は兎も角、女性(主に愛人)については、特に取材出来なかったのか、
「一定の距離を置いた秘書」からの証言しか記載ないです。
こういう本が売れるとなったら、ほかの本で、なにがしか、
独白する人がいてもいいでしょうけれど、分かりません。
…で、豪遊する人なので、玄人を愛人にして秘書にするのかと思えば、
頁234、新聞広告などで求人して秘書に応募してきた中から、
これはというのを採用後あの手この手で愛人にしてしまう、
というのは、いくら、関係者の証言として、愛人志願みたいな手合いが、
多かったとか書かれても、ちょっと没義道だろうと思いました。
1982年朝日新聞避暑募集欄掲載の求人広告に西崎さん自身が書かれた、
「結婚のみを人生としない方」という文章が引用され、
「夜間秘書募集」の文面は流石に却下されたとかありますが、
ダメだと思います。で、くろうとにモテたかどうか知りませんが、
公私問わず相手のあらを探して値切るクセがあり、
ケチる時は銀座でも盛大にあらさがししてケチったので、
(接待のさい相手にそそうしたとかメンツドロぬったとか)そういう人は盛り場で、
いろいろ噂されて、当然自業自得ですが、そういう人が素人に行くのは、
ルール違反過ぎる、しかも出会いの機会がプライベートじゃない、
公私混同で、会社の名前と面接を使ってやる、こりゃーだめすぎる、
相手の中に人生狂う人ようさん出ますわね、家族の密告とかもと、
あって然りと思いました。プロの縁者でもチクるでしょうけれど。

そんな人がアニメ界で養成されるはずもなし、水商売と藝能から、
そっちにいられなくなって、学会とかの縁もあって流れて来て、
(でも学会員でなく、紹介した弁護士の人がどういう人かも書かれてます)
で、また向こうに行くかというと、あとはヤマトだけが栄光という…
だからアニメ関係の人の本と違い、出てくる名前も、水商売時代はダン池田
売れてからは石原慎太郎グレネードランチャー付きM16所持の件で、
フィリピンとかにさんざん自家用クルーザーで遊び行くので、
海賊対策で持っていただけの自衛のための火力なのに、
日本に寄港する際封印して申告すればよかった、
(逆?申告して封印してもらえばよかった?)それを、
何故か西村真吾尖閣上陸と絡んでしまい、その機を逸して、
おまわりさんにこれはなんだと押収されて起訴された、とか、
真っ赤なスカーフとか書いた阿久悠の嘆願書全文とか、
何故か復活の際石川好が出てくるとか、アニメの枠でくくれない、
人脈とスケールの人だなと思いました。カンヌに自分の船で乗り付けて、
毎晩接待攻撃かけた時のエピソード見て、マレーシアの華人富豪か、
と思いました。でも目的が自作映画の売りこみだから、そこが、
他のアジア人とは違ったのかなと思います。でも公私の別はない。

頁206
相沢や千葉には、シャロン・ストーンとベッドをともにしたとまでほのめかしている。いかにも西崎らしい話の広げ方である。しかし相沢は友人を通じて後日談を聞かされることになった。
「変なエロじじいがいて、すごく嫌な思いをした」
 西崎の印象について、シャロン・ストーンの感想は身もふたもなかった。

こうして、このプロデューサーが、どういう人で、
アカデミーが、どういうアニメ会社か、理解出来たのですが、
ヤマトについては、この本はヤマト本ではないので、やはり欠落があります。
ファンの組織化と変遷については、当事者の証言もあって、
これは分かりやすかった。映画館徹夜行列作戦など、ガンダムは踏襲したんですね。
「さらば」の特攻オチについての賛否両論が面白かった。
自衛のための戦争を肯定する立場の中で、(それは肉親の人生の肯定でもある)
しかし特攻は違うだろう、との食い違いが生じてゆく。
生きることのほうが大切なのじゃないか、玉砕のヒロイズムは、云々。
そうした違和感の話を知りませんでしたので、ここはよかったです。
虫プロでしたか、アニメ制作会社に潜りこんだ新左翼細胞の話は本書にも出ますが、
どっちかというと、ファンの間での、
70年安保の玉砕路線是非総括との重ね合わせかな?という…ちがうか。
「さらば」は、私は、むかし見た時に感じなかった、導入部のムリクリ、
他人の戦争なのに、自分にも火の粉が及ぶだろうから、
今やらねば、で、積極発砲する場面に???気分を抱いてるのですが、
この本はヤマト本ではないので、そこまで重箱隅つついてません。

で、そもそもなぜ軍艦を空に飛ばそうと思ったのか、の個所で、
日本の先行する空想科学小説については羅列があるのですが、
スター・ウォーズはヤマトより後ですが、スター・トレックは前なので、
USSエンタープライズ号が宇宙を飛びまわっている、そのインスパイアは、
船名が船名ですし、USSだし、あえてスルーしたのかなと思いました。
絶対意識してたと思います。

で、西崎サンが会議魔で、しかも、さんざん他人からアイデアや、
プランを引き出しておいて、それを自分の案として通してしまう、
鉄面皮さがあちこち書かれてますが、ヤマト一作目はまだ謙虚だった、
人の意見を聞く耳を持っていた、とあるのが、ヤマト成功と、
その後の永い失敗の原因だと思います。新たなる旅立ちが、
それまで4チャンネルだったのか、8チャンネルになった、
とかの指摘は本書で初めて読みましたが、新たなる旅立ちで、
サーシャと古代進?が、木星に向かう宇宙空間のヤマトの甲板で、
ノーヘルで会話する場面を見て、翌日の学校や社会はもう、
ヤマトオワタ論でもちきりでした。宇宙には空気がないことも、
指摘できずオンエアーまで行ってしまうヒドさ。
本書で、なんとなく、その前の作品までなら、修正する力が働いたのが、
働かなくなったのだな、と思いました。勝手にさらせ、と思われた。
さらばの映画とテレビでラスト変えたことなどが理由だったのか。
宇宙でノ−ヘルで生きてゆけるのはドクタースランプアラレちゃんだけ。
(ガッちゃんがどうだったかは覚えてません)

この当時、ビデオとかまださほどなかったので、新宿歌舞伎町で後年、
1968年公開の2001年宇宙の旅リバイバルやった時、初めて見て、
で、宇宙船内で、回転させて人工重力発生させて、そこをランニングする場面、
(セットよく考えたと思います)見終えた後、ガンダム無重力船内と照らし合わせ、
1974年放映のヤマトに熱狂した俺らアホやったな、と思いました。
2001年を観ると憑き物が落ちる。

完結編ラストのエッチシーンなどは、当時のコミケや同人誌の状況を、
なまじ会議魔で人の意見をパクってしまうクセがあったため、
悪い方向にアンテナが向いているのに気づかず模倣してやったのかな、
と、本書読んで思いました。それがウケると思ったのか。
私はそのエッチシーン見たことないです。

キムタクの映画はうまいこと西崎全封じに成功したとか。
そうだったのか。

親御さんは、父103歳、母98歳まで生きたとか。
お母さんが何かのお金肩代わりしたとかは、一ヶ所くらいだけあったかと。
死亡時は、消されたとかなんとか、あれやこれやの噂を消す意味合いもあったのか、
状況を、再現ドラマふうに克明に描いています。事故であると。
記録として後世に残る意味合いもあったのでしょう。
天安門の記録映画みたいだと思いました。以上
(2017/10/17)

*1:新たなる旅立ち