『ソ連は笑う ソ連漫画傑作集』読了

国立国会図書館サーチ
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001474963-00
大阪の天神さんの古本まつりのチラシを送って頂いた古書店さんに、お礼に何か注文しようとサイトをつらつら見て購入した本。結果的に、当方に総合口座がなく電子送金だと手数料が高いので、振込口座の利用を無理にお願いしたかたちになってしまい、余計お手間をとらせていただいてしまったと、反省点のある古書取引。

ソ連の風刺雑誌「クロコディール」に1974年から1979年八月まで、掲載された漫画から編者が約270点を選び、それにウクライナキエフで、発行されている漫画雑誌「ペーレッツ」の四点を加えて出版したとの由。まえがきにはそこまでしか書かれてませんが、あとがきによると、日ソ著作権センターに著作権申請を行ったところ、ボリュームは不明乍ら、「テーマを広げるため」という名目で、ソ連側の指定する他の漫画と、さしかえを余儀なくされた、との由。編者自身は、モスクワ生活経験から、
競争のない商品經濟が引き起こす物資不足や停滞、欠陥品などを、
かなりシニカルにみていることが見てとれます。1980年刊。

編者 はてなキーワード
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C2%E7%CC%DA%BE%BC%C3%CB

クロコディールはロシア語版ウィキペディアに項目有りますが、
URLが例によって曖昧さ回避のカッコ付で、リンクがカッコで切れるので、
直リンしません。下記単語で検索すれば出ます。

Крокодил (журнал) Википедия

同様に、下記はペーレッツ。

Перець (журнал) Вікіпедія ←ウクライナ
Перец (журнал) Википедия ←ロシア語

序文は飯沢匡。いきなり若き日のユーリ・ノルシュティンの名前が出ます。
でも、ユーリ・ノルシュティンは、ブラックジャックにも出てくるし。
アドルフに告ぐにも出てくる)チェブラーシカは出ません。

ソ連てこんなに漫画家多いの?と不思議に思うくらい、
漫画のヨコの著者名が重複しないので、クラクラします。
著者名は、オウンネームがキリル文字の頭文字だけで、
編者がご丁寧に、それを、カタカナにしてるので、
「ア・セミョーノフ」とか「イ・セミョーノフ」とか
「ヴェ・ゴンチャローフ」とか「ベ・サフコーフ」とか
「ユ・チュロパーノフ」とか「ゲ・アンドリアーノフ」とか
「エム・ヴァイスボルト」とか「「エス・スパッスク」とか
「イェ・ドゥブローヴィン」とか「ペ・コジーチ」と書かれてます。
いまふと思ったのが、男性形の「フ」ばっかで、
女性形の「ワ」がねえな、という点で、ぱらぱら見たら、
ひとり、「ワ」がいたので、これから統計とります。
プーチンエリツィンガガーリンの「ィン」は、男性形か女性形か知りません。
トルストイの「イ」も知らない。上に、ドイツっぽいのとか、
セルビアっぽいのとかチェコっぽい?のとか入れてみましたが、
ポーランドっぽい「スキー」はまだ見つけてないので、
それもこれから探してみます。以下後報
【後報】

頁160
(前略)サマゴンという自家製焼酎になると九〇度を超すものもあると言う。このような酒を愛飲しているのだから当然アル中患者も多い。酔っぱらいの犯罪が多く、深酒は離婚の原因ともなり、子の教育の面でも悪影響を及ぼしている。革命後、ソ連政府は今日に至るまで何度もアルコール中毒の撲滅、深酒とのたたかいキャンペーンを展開してきたがなかなか成果があがっていない。



ソ連禁酒法については下記でも読みました。

2014-11-27『禁酒法と民主主義』 (社会の科学入門シリーズ)読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20141127/1417090305

帝政ロシア禁酒法については下記。

2014-11-21『エヴリデイ・ドリンキング』読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20141121/1416574186

頁6にクロコディール編集長(当時)の寄稿文があります。
公称600万部と、ジャンプより多いですが、どうでもいいです。

11パートに分かれていて、最初は官僚批判。頁23に、
官僚批判する者は自らが滅びる、というそのまんまの3コマがあります。
次はインフラ、都市計画の破たん、中座、たなざらし
次は国産品が品質劣悪かつ割高な点。ノルマ達成が重視されるので質より量、
とか、資本主義のような厳しい競争原理がない、等々編者は考察。
ここではまだ舌鋒は緩く、フォローもあり〼。
次は部品不足による故障放置。及び、売れない製品の過剰供給と、
売れる製品の市場払底及び闇流通。作者自身の体験が並べてあります。
ソ連で買えない本が日本のロシア語専門書店でたやすく入手出来る点。
ソ連滞在中、ドル払い前提で、市場に出回らない本の購買を持ちかけられ、
実際にスムーズに、良書がその私的商人の手で編者に供給された。
次は殺伐としたサービス。唯一対応がよかったのは、農民が、
コルホーズでなく、自前の畑で生産した野菜を自由市場というかバザールで、
売るところに居ることが出来たとき、とのことです。

頁76
また、「クロコディール」には水道修理工の仕事ぶりがよく漫画となって出てくる。水道故障が多いのに修理工の数が不足しているので、水道局に連絡してもすぐ来てくれないという苦情が多い。彼ら修理工は大体において飲み助なので、ウォッカの一びんでもふるまえばすぐ直してくれる。どうも、それが習慣となっているようである。ここでもサービスが問題とされている。

その次は、たいへんどうでもいい若者批判。ヒッピーとか、
パンタロンとか、ロックとか。洋の東西問わずと言いたいのでしょうけれど、
編者はまた余計なことに、サイズの合わないLeeのジーパンを得意げに、
みせびらかす頁101の漫画を念頭に、ソ連ジーパンも生産されてるが、
外国製ジーパンが人気、と書いています。
次は結婚。結婚しても住居が割り当てられず、両親とアパートで同居、
という実態を風刺する漫画が収録されています。あとソ連の離婚率の高さ。
次はエリート教育、英才教育。頁147に、年端もいかぬうちに、
リタイアさせられる「見込みなし」児童の漫画があります。
次は、通勤ラッシュ。ここは、私も、このブログのタイトルでも使った、
スタンシヤなになに、という環状線から外に伸びる郊外地下鉄、
バスの多さ、画一的なマンモスマンション、そしてお湯が出る素晴らしさ、
(中国と比較して言ってます)を思い出します。
その次が酒たばこ。ソチは禁煙都市だとか。知りませんでした。
その次はその他。以上
(2017/11/8)
【後報】
デイリーポータルZ@nifty ちしきの金曜日 2016年3月18日
ソ連時代のガイドブックでロシアに行く
http://portal.nifty.com/kiji/160317195945_1.htm

問題は、このソ連時代のガイドブックが2万円もしたこと。一番高い気がした。

このガイドブックは地球の歩き方です。ツタヤ図書館が古い地球の歩き方を、
税金で買ってるのはやはり意味があるのかもしれない。いや、ない。

粉砕される官僚批判。

面白くないと言う前に、日本の創作者と読者双方にこの感覚があるか、と小一時間ry

ソ連の人はビーチが好きみたいで、海浜で腐敗レクリエーションの漫画は、
他にもあります。内陸に広大な面積持ってるだけに、その住民が憧れるのか。

この画力がこういうマンガに使われる国。

コネで裏口から出入り出来るノーメンクラツーラ批判ですが、
日本の感覚からすると、従業員が一般販売前に、新入荷などを、
従業員価格で買い占めてるようにも見え、パンチが効かないというか、
ブレてしまっています。中文で言う"走后门"そのままに見えない。

頁203 編者あとがき
 かつてわたしには、社会主義を理想化して考える極めてナイーヴな時期があった。そのときわたしには、ソ連のような高度に発達した社会主義国に諷刺というものがあるのが不思議に思われた。早晩、それはソ連では廃れるべき運命にあるものだと思ったりもした。それは十六年前の学生時代のことである。当時わたしは演劇サークルに所属していて、ソ連の作家セルゲイ・ミハルコーフの諷刺喜劇『同じ車室で』の演出をするにあたり、作者に助言を求めて手紙を出したことがある。その手紙の中でわたしは、ソ連に諷刺喜劇というものが果たしていつまで続くだろうかという問いかけをしたように記憶している。それに対してミハルコーフ氏はつぎのような返事をくれた。(以下略)

(2017/11/9)