『 私生活』 (文春文庫) 読了

私生活 (文春文庫)

私生活 (文春文庫)

私生活 (文春文庫)

私生活 (文春文庫)

第90回直木賞受賞短編集。単行本 昭和58年11月文藝春秋
装画・Andrew Murray AD・坂田政則 解説 中村武志

作者 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E5%90%89%E6%8B%93%E9%83%8E
上記はあまりに情報不足なので、文庫カバー折の作者紹介を下記引用します。

昭和3(1928)年、東京生まれ。昭和24年ラジオドラマ執筆を期に放送作家の世界に入り、かたわら雑誌のコラム、雑文、短編小説などを手がける。睡眠、スポーツなど、無用のことのみを好み、浪費を愛する。信条は「細く長く」と「人生に急ぐべきことは何もない」。第90回直木賞を小説集『私生活』で受賞。著書に『ブラックバス』『東京気侭地図』など。

解説者と同姓同名のプロ野球コーチ Wikipedia 
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%9D%91%E6%AD%A6%E5%BF%97
ここから解説者の項目へは、曖昧さ回避で飛べます。解説者のウィキは、
URLが"()"、カッコを含んでるので、直リンでけへんだ。

大竹聡といえば、吉田類太田和彦ラズウェル細木と並ぶ飲酒関連のアレですが、
この人の新刊最近読んでないな、何があるかな、と検索したら、国書刊行会から、
神吉拓郎の短編集編集して出していたので、最初はそれを読もうかと思ったのですが、
http://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336060914/
http://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336060921/
ふと、むかしの作家さんなら、図書館に何かあるかも、と思い、検索すると、
いっぱい神吉拓郎の著作の蔵書があったので、
借りよう、借りよう、私は元気、借りるの大好き、どんどん借りよう♪。
そこまで脳天気でもないかったですが、借りまんた。

大竹聡の自伝的エッセーを既に各種読んでいて、早婚就職人生疾走、父親は失踪、
今夜は酩酊候、みたいなライムを今私が作ってしまうほどの人生ですが、
そんなオータケの人にとって、神吉拓郎の小説は、実に沁みるだろう、
そう思いました。多くの話で繰り返される、何気ない夫婦の会話。
働き盛りの年齢で、宿六はサラリーマンで、郊外で。
その一方、『鮭』、失踪して、死期が近づいて、妻の元に戻る、亭主。
釣りの話もあり、浮気の話もあり、蒸発を考える話あり。

頁50『丘の上の白い家』
「俺も、家でこんな風に食べさせて貰いたいな」
「どういう風に?」
 と、尾崎が聞き返した。
「ほら、タイミングだよ。丁度ひと皿が終る頃に、すっと次が出るでしょう。俺はこういうのが好きなんだよなあ。いちどきに並べられちゃうのって、好きじゃないんだよなあ」
「誰だってそうよ。だけど主婦が一緒に食べられないじゃない。啓子さんも一緒に食べて下さればいいのに……」
 千鶴子は異議を唱えた。
「なあに、作るのと食べるのを同時には出来ませんよ。それに、台所で、適当にちびちびやってるから……」
 尾崎は飲む手つきをしてみせた。

(中略)
 小宮は手洗いを借りに立った。酔っていたので、場所が解らなくなった。
 ひょいと、明りのついている台所を覗いて見て、小宮は、はっとした。床に、なにか異様な動物が蹲っているのが見えたからである。
 驚いて見直すと、それは啓子だった。啓子は死んでいるように見えた。それほど深く酔って眠りこけていた。台所の隅の床に、猫のように丸くなり、両腕のなかに頭を抱え込んでいる。その格好は、打たれるのを必死で避けようとする小児の姿にも似ていた。

(中略)
 丘の上の家には、まだ灯がともっていた。
「なによ」
 と、千鶴子は小宮の顔を覗き込んだ。
 そして、夫の顔に浮んでいる表情に気付くと、とまどった時のいつもの口癖で、こう呟いた。
「おかしな人……」

以下後報…書き尽した気もしますが。
【後報】
ドイツあやめ Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84%E3%82%A2%E3%83%A4%E3%83%A1

頁222「よろよろ」
「だって当り前よ。年中酔っ払ってるんだもの……」
 宮野は驚いた。
「いつだって酒臭いわ。あなた、気がつかなかったの」
「気がつかなかった」
 陽に灼けているから、顔色まではあまり解らない。
「あれでスピード出したらイチコロよ。まっすぐ走れないで、よろよろしてるんだもの」
 宮野は苦笑した。慎重な運転に見えたり、どこかもの憂げな物言いと思えたのは、ほろ酔いのせいらしい。
「そういえば、やたらに水を飲みたがるね。随分のどが渇く奴だと思ってた」
「あなたも鈍いのねえ。前に、うちの垣根に突っ込んで、壊しちゃったことがあるでしょう。……あの時は、あなた留守だったけど」
「そんなことがあったかね」
 そんなこともあったような気もするが、壊したというのは、三香子の誇張である。生垣の細い枝が何本か折れた程度のことだ。
「あの時だって、酔ってたのよ」
「そうか。おかみあんがうるさくないのかね」
「出先で飲むのよ。出たら夜まで帰らないで、ふらふら走り廻ってるらしいわ。店になんか居たことないんですって」
 三香子の口調には、隣家の細君の口写しのようなところがあった。

小田急線かなあと思うような私鉄沿線の郊外住宅地に越してきた夫婦に、
地元の御用聞きで食ってる雑貨屋が食いついて、その雑貨屋が、
地元の人間の悪口をちょいちょい言う男で、上記の人間だった。
そのうち、彼は、約束したまま忘れていたことを、ひょいと思い出し、
主人公の承諾を得ずに勝手に実行に移す、という話です。
京都以外ではもう絶滅した人種というか、限界集落では、復活したかも、
という職業ですが、その彼が入り婿で、横浜のほうから来た人間、
という説明があり、そこがなんともリアルでした。もっとリアルにするなら、
甲州から来た生糸の仲買人がそのままいついた、という設定なども、
ありだと思います。以上
(2017/12/19)