『女喰い・絶技編』(祥伝社NON・NOVEL)読了

 カバー&本文イラスト・柳澤達朗

カバー構成・EE大林真理子

カバー折<著者のことば>

今回は順風満帆の志津馬ではなく、苦境に落ちた志津馬をあえて描いてみた。

能天気なスケコマシの話がよかったのに。表の顔はエリート商社マン、しかして裏の顔は天才スケコマシ、という設定だと人間通で読んでたのですが、構成員百二十名を抱える若き組長会長とか、話が違うカッコわらカッコ閉じる。

女喰い・絶技編 (祥伝社文庫)

女喰い・絶技編 (祥伝社文庫)

 

谷沢栄一『人間通』の、「人間通になるための100冊」にこのシリーズの第一巻が取り上げられており、それで読もうかと思い、一巻は新装版が文庫で新刊で買えるのですが、図書館にはないので、それでそのうち、なんでもいいやと思って図書館にあるシリーズのうち、これを借りてきました。 

<著者略歴>

 机龍之介を代表とする輝かしい系列に、またひとり新しいヒーローが加わった」と主人公菅原志津馬を絶賛するのは谷沢栄一氏(関西大教授文芸評論家)。

 人間通に出てくるのもむべなるかな、たぶん友人なんだと思います。タニザワ、ヒロヤマ両氏は。

 机竜之助 - Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%BA%E7%AB%9C%E4%B9%8B%E5%8A%A9

机龍之介を知りませんので検索しましたが、シグルイとかのアレの系譜なんだなと。まったく輝かしいとは思いませんが、血脈があることは間違いのない話で。

シグルイ 1 (チャンピオンREDコミックス)

シグルイ 1 (チャンピオンREDコミックス)

 

カバー裏あらすじ

「コカイン密売ヲOKスレバ、アナタハ一日ニ一億円ズツ儲カリマス」日本進出を企む米国マフィアの幹部が、池田組会長菅原志津馬にそう切り出した。“麻薬は御法度”の志津馬は申し出を拒絶したが、それが事件の幕開けとなった。配下の組員が突如、麻薬コカイン所持で逮捕され、警察は組事務所をガサ入れ、さらに夜の六本木で志津馬は何者かの銃撃を受け、重傷を負った。事件はマスコミの好餌となり、警察と世論の袋叩きで池田組は窮地に陥った。敵は対立暴力団か? それともマフィア? はたして志津馬は逆襲に転じられるか……。

過激なエロティシズムとアクションを満載し、ますます人気快調の異色ハード・ロマン“女喰い”シリーズ待望の書下ろし第六弾!

静かなるドンにも、志津馬というような名前のキャラがいたような気がします。『男喰い』というソープ嬢を主人公にした一話完結漫画は何話か読んでましたが、こっちが先なんですね、たぶん。うえに作者のお顔を載せてしまったので、公平を期すため、巻末広告も貼っておきます。

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以下後報

【後報】

片岡義男の『人生は野菜スープ』や『給料日』を最近読んで、その時も思ったのですが、女性が、見知らぬor見知ってるけれどもちょっと警戒してる男性から、開封された飲み物を受け取って飲む展開って、もうありえないと思いました。前世紀末からありえなかったわけですが(相模原とか、コンビニの駐車場に停めて買ってきて、目の前でプシュッと開けたように見せて、液化したよくないモノをその瞬間混入させてるとか、前世紀最後の十年に聞いたことが複数回ありました)あらためて。

ヘネシーVSOPをバーテンに開けさせてるから大丈夫だろう、お店も格のあるちゃんとした店だし、というのが本書の展開ではあるので、作者も、いろいろ不都合な現実を知りつつ、どう回避して粋な口説きを読者に提供するか知恵をしぼったとは思います。

頁198

 三人連れの女性客が、この店の売り物のイタリアのエスニック料理をつつきながら、イタリア産の透明なワインを楽しんでいた。

私たちは、エスニックというと、アジアンな料理しか脳内翻訳出来ませんが、「民族的な」という意味でしかないので、当然イタリアンもエスニックとなるんだな、作者的には、と思い至るまで数秒間思考停止出来てよかったです。頭を休めないと、バカになる。

下記は、秘技中の秘技、性技8の字責めの説明。説明がないと、必殺技には説得力が出ないです。

頁204

 志津馬が編み出した性技ではない。創始者は、京都の名刹清水寺の元管長・故大西良慶師だと伝えられている。師は不感症に悩む婦人たちを救うという御仏心から、一生をかけてこの性技を開発したと言われている。

 志津馬はスケコマシの師である故瀬戸内甚左からこの秘技を伝授された。これを女体が汗をにじませるまで舐め施し、三日も続ければ、どんなにひどい不感症も完治し、女の悦びが得られるという。

 志津馬は何度か、実際に不感症の女たちに試したことがある。体力、精力絶倫の志津馬にとっても、かなりの重労働だった。並みの男には出来ない技だ。

 しかし志津馬はやり遂げた。伝説のとおり女たちは悦びの淵に浸り、ベッドの上でのたうちまわった。

 この秘技を正常な女に施すと、ほとんど失神する。悦楽の極限を突き抜けて、中には失禁したり、丸三日も正気が戻らなかったりする。あまりにも快感が深すぎるのだ。

こういうフィジカルな技にロマンがあった時代は牧歌的でよかったのだろうと。薬物でインスタントに狂わせられる人はかわいそうだ。あと、大西良慶という人は、Wikipediaに項目があるくらいの実在の人物でした。

大西良慶 - Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E8%A5%BF%E8%89%AF%E6%85%B6

本書の頃に、コカインやクラックが有名になったみたいで、アメリカがコロンビアのメデジン・カルテルとの戦いに倦んで、スケープ・ゴートに日本を差し出して、そのかわり米国の青少年を蝕むのをやめてもらおう!というのがネタバレな本書の筋書きで、輸送は米軍全面協力なので日本税関フリーパスというおはなしでした。ある年代以降は、こういう反米?設定は、左翼臭がするとして受け入れられなくなる。端境期の小説と思いました。いまみたいに合成麻薬が蔓延する世の中を、この頃誰が予測出来たか。私は予測出来ませんでした。あと、暴対法。構成員名簿を諸葛所轄に提出する、世界的に見て稀有なマフィア集団が、バブル期のありえない癒着後、暴対法で対応されて、その後世の中はどう変わったか、真面目な考察より、この手のバイオレンス小説で願望と思いこみ満載で総括されるべきと思いました。

以上

(2018/11/30)