『踊る地平線』(下)(岩波文庫)読了

島地勝彦と開高健の対談集『水の上で歩く』で作者を知り、読もうと思った本の下巻。 

踊る地平線〈下〉 (岩波文庫)

踊る地平線〈下〉 (岩波文庫)

 

カバーカット=谷中安規「夜四題の一」

解説は尾崎秀樹。作者を長谷川海太郎の名で呼び、片目片腕の怪剣士丹下左膳を創造したスター時代小説家林不忘、怪奇実話ものの名手牧逸馬、そしてめりけん・じゃっぷの谷譲次を並べて批評してますが、詳細は、「迷わず読めよ、読めば分かるさ」

解説によると、本書初出は中央公論に昭和三年八月から翌年七月まで十二ヶ月連載された〈新世界順礼〉

<目次>

血と砂の接吻…スペイン、闘牛。

 作者、ジョージ・タニは、ここではホルヘ・タニイになります。

しっぷ・あほうい!…ポルトガルサウダージ

 2ちゃん世界史板「サラザール博士とともに歩むスレ」を思い出します。

 エスタド・ノヴォ - Wikipedia

 アントニオ・サラザール - Wikipedia

Mrs.7 and Mr.23…モンテカルロ

長靴の春…伊仏国境。

 ここに登場する「ルセアニア人」が分かりません。どこの人なら。

白い謝肉祭…サン・モリッツ。スイス。

頁289

 全く瑞西のステイムは、よくこれで失敗する旅客があるので有名だ。倫敦や巴里のつもりで寝てしまえば要らないだろうというんで、すっかり閉めてしまうと、パイプの運行が停まって湯が冷めるもんだから、夜が更けるにつれて凍り出すようなことになる。いわんや、ほかの国の気で、寝る前に窓でも開けておこうものなら、寒さのためパイプが破裂すること請合いだ。先年ルケルバルドでこのステイム・パイプがホテルの屋根を吹き飛ばしたことがある。あとからナイアガラのように水が噴き出て、不幸な止宿者一同は、難破船の乗組員みたいに泳ぎながら、村役場の出した救助ボウトを待たなければならなかった――なんかと、まさか、それ程でもあるまいが、ホテルのポウタアが話しているのを聞いた。が、これも、考えてみると、外国人には間違い易く出来ているのである。なぜかというと、ステイムの廻転面にあるAufという字は、英語のOffに発音が似ているけれど、こいつが食わせ物なんで、実は、その逆のOnなのだ。そして、もう一つのZuというやつが、Offを意味する。こういうことは、あちこち旅行していると珍しくない。伊太利語のCaldoが、発音や字形の類似を無視して、ちょうどColdの正反対のHotに当るようなものだ。この場合も、冷水のつもりで熱湯を捩って、それこそ手を焼く――などという大失敗を演ずる旅行者が、ちょいちょいある。

 海のモザイク…海路の帰国。

附記

頁362

 僕の知人に偉大な文化人がある。彼は、夕刻帰宅すると玄関へ出迎える細君へ向って大喝一声するのだ。「NOW!」と。

 けだしこのNOWは「只今ナウ! 」の意であろう。

 なう。

ルセアニアが何処かだけ知りたいです。昔の文庫は、新潮文庫なんか、これでもかというくらい脚注があったものですが、いまの文庫は、もう何もなくて、自分で気にしてその都度検索しなければその人にあった不明点が縷々明瞭にならない。

それでも、検索で出ればよいのですが、出てこないと、プロの注釈がついてればなあ…と想うわけです。で、今まで全く検索で出ないという経験はしたことがなく、この「ルセアニア」が初めてではないかと思います。なんなんだこの単語。架空の国であっても、なんか出るだろうと。スペルを探そうにも日本語で中央公論に書かれたものだから、スペルなんか分かりゃしない。まったく不思議です。以上