『図書館の神様』読了

図書館の神様 (ちくま文庫)

図書館の神様 (ちくま文庫)

図書館の神様

図書館の神様

借りたのはマガジンハウスの単行本。書き下ろしとのこと。
装画 スズキエミ 装幀 池田進吾(67)
文庫本も同じイラストレーターでしょうか。
服装や髪形は同じですね。単行本なのであとがきなし解説なし。
二冊目の著書だそうで、デビュー作は、なんとなくあらすじ見て、
やめて、これはレビューが好意的だったので、読みました。

坂木司瀬尾まいこは、大道珠貴絲山秋子に比べて読みやすいな、
と思っています。島本理生柚月裕子は、あまり覚えておらず、
較べられない。本作も、徳井映画の『天国はまだ遠く』同様、
神である作者は、主人公になかなか重いバイアスをかけています。
主人公は作者の分身でもあるかもなので、その意味で、
作者は、以前田中芳樹田村由美を評して、
強いと言ったのと同じ意味で、強いと思います。山中鹿之助みたい。
艱難辛苦を厭わない。でも分かりやすいと思います。
頭痛持ちしぶり腹🌹で薬に頼っているのに、周囲からはそう見られず、
スポーツ(バリボー)大好き体育学部進学予定のレールの娘が、
重い出来事を経て未来予想図と全く違う社会人になり、
作者がテキトーに松岡修造見て書いたような同僚や、
不倫相手の街のケーキ屋(パティシエという単語は使われない)、
読者が好みそうな男子高校生(DKと略していいのかどうか)
と交錯しつつ、正規雇用の教職でない「講師」として一年を生き、
卒業という話です。図書館で文芸部顧問。部員一名。

最後の一行が素晴らしいです。これ最後の一行にするかという。

頁64
「でも、キャベツに輪ゴム巻いちゃうなんて、俺だったら惚れ直しちゃいそう。その思い切りのよさは引かれるよね」
 と言った。
 拓実は昔から変な女の子とばかり付き合っていた。漫画研究部の部長を務めるとんでもなく太った女の子とか(どうやったらそれだけ太れるのか知りたかったらしい)、帰国子女だとか駅でスカウトされたとか見え透いた嘘ばかりついてる女の子とか(毎日嘘が聞けたらテレビや漫画を読まなくても楽しめるから)。そして、いつもちゃんと彼女達を愛していた。

拓実はDKでなく、主人公の弟です。これもできたキャラ。神かな。

頁91
 浅見さんは無神経にしみじみと言った。
「どうして今、新婚旅行が出てくるわけ? 浅見さんが一度他の女の人と行った場所なんて絶対行かないよ」
「そっか。ごめん。じゃあ、近場でアジアぐらいにしようか」
「そりゃ行けたらいいけど、近場って言ってもアジアは遠いよ。浅見さん、泊まれるの?」
「いや、まずいね。コンタクトの保存液だって持ってきてないし、泊まるのはやっぱり無理だなあ」
 由布子さんにばれることとコンタクトの保存液がないことが一緒に並んでしまう。それくらい浅見さんはとても健康に気を遣う。いつも私の部屋に来ると、抱きしめるよりキスをするより先にまず手洗いとうがいをする。私がコンタクトレンズの保存液を三日に一回くらいしか替えないという事実を話した時、発狂していた。

本を読まない国語教師(一年契約の講師)が生徒に引かれて、
川端康成の鼻血の短編とか、山周のさぶとか読んで感動して、
漱石のこころの授業で、自死の場面で過去を回想して、
気分が悪くなった生徒が出たので夢十夜にして大成功とか、
そういう話です。最後工業高校に教職として勤務が決まり、
さてどうなりますかというところで終わるので、続編があれば、
読んでみたいとも思いましたが、検索したら、しょうもない話が出て、
あーなんというかなーと思いました。以上

Asagei plus 週刊アサヒ芸能2012年4/19号より
石原さとみ映画 製作詐欺の全貌(1)
http://www.asagei.com/excerpt/4887

【後報】
あと、これは標準語(共通話)小説です。地の文も、会話も、
すべて標準語(共通話)関西弁率ゼロ。二作目だったからかな〜。
作者は、やっぱり、スクウェアな標準語が話せる関西人なのだろうな、
と思います。イントネーションも完璧な、
「東京に行っても関西弁話してる奴とかアホちゃうかと思うねん、
 標準語くらいなんぼでも喋れるやろ、関西弁に逃げるな思うねん」
とか言う人だったらどうしようと。そんな若気の至りは、
年と共に圭角が取れて丸くなるものですが。戸村飯店は関西弁小説でした。
(2018/2/1)