『ペインテッド・ハウス』読了

ペインテッド・ハウス

ペインテッド・ハウス

A Painted House

A Painted House

読んだのはハードカバー。訳者あとがきとグリシャム著作リスト有。
Jacket Illustration by Toshiaki Ono
Jacket Design by Mitsuo Izumisawa

児玉清さんの下記書評本に、リーガルサスペンスの名手、
ジョン・グリシャムに、綿花栽培収穫という、モノ・カルチャー、
単一商品作物に従事する米国貧農という、自らの出自に関連した、
自伝的小説があることを知り、読もうと思って、借りました。

2018-04-08『 寝ても覚めても本の虫』 (新潮文庫) 読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20180408/1523134351

まず本書の特徴的な事項として、山地民ヒル・ピープルと呼ばれる人々の存在があります。

頁19
 ミズーリオクラホマ、そしてアーカンソーと三つの州にまたがるオザーク山地の住民、通称山地民が、綿摘みのためにこのあたりに出稼ぎに来るようになって、もう何十年にもなっていた。その大多数は自分たちの家と土地をもっていたし、綿摘みのために彼らを雇い入れる農夫たちよりも、よほど高級な車をもっていることも珍しくなかった。彼らは骨をおしまずに働いて金を貯めたが、見た目はぼくたちとおなじように貧しかった。
 一九五〇年代に入ると、この出稼ぎの人数が減ってきた。戦後の好景気の波がようやっとアーカンソー州まで――といっても、この州の一部にかぎってかもしれない――とどき、若い山地民のなかには、両親ほど切実によぶんの稼ぎを必要としない者があらわれたからだ。そうなると、彼らはわざわざ出稼ぎに出てこない。そもそも綿摘みの作業は、人がみずから望んでやりたがるようなものではない。そこで、農夫たちは人手不足に悩まされるようになった。しかも、問題は悪化の一途をたどった。そんなとき、だれかがメキシコ人を利用することを思いついた。

本書に出てくる山地民、ハンク・スプリュールやタリーの故地、
ユーカレスプリングスは下記。

https://en.wikipedia.org/wiki/Eureka_Springs,_Arkansas
オザーク高原 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%B6%E3%83%BC%E3%82%AF%E9%AB%98%E5%8E%9F
しかし、なんというか、アメリカ開拓者たちの文化や遊び、嗜好は、
驚くほどかつてそこに暮らしていた先住民たちのそれに酷似している、
という文化人類学者の観察を思い出します。テントとキャンピングカーで、
一家ごと移動して出稼ぎして、現地の露天で煮炊きする。祖霊とか、
地霊といった存在があって、影響するのか。

著者のベストセラーの小説もたぶん、読んだことないです。以下後報
【後報】
ユーレカスプリングスのストビュー見ると、かつての貧困?がウソのような、
整備された観光市街地が中心街で、ストビューでずんずんホテルの客室の、
バスルームまで入ってゆけるのには驚きました。

この小説は朝鮮戦争の頃が舞台です。まだ徴兵制の頃なので、主人公の叔父も、
朝鮮で戦っていて、安否を気遣われています。メキシコ人労働者の待遇については、
農村婦人部が激しく抗議しようとしていますが、抗議するだけで、
実際のメキシコ人雇用主である農村男性部を突き崩すまではいきません。

上がこの小説の舞台の街の中心街です。ブラックオークアーカンソーで検索すると、
この地に由来するロックバンドまで出てきます。
バプテストとメソジストしかいないそうです。曹洞宗臨済宗しかいないようなものか。
(20184/26)
【後報】
頁314、ほかの山地民の故地は、ハーディ、マウンテンホーム、キャリコロックなど。


この話は綿花の話ですので、「螬」という単語が登場し、
この漢字単体で検索するとコケの胞子嚢とかが出ますが、
綿花とアンド検索すると下記のような単語も出て、コットンボールの訳なんだ、
と分かります。

綿花収穫機(めんかしゅうかくき)とは - コトバンク
https://kotobank.jp/word/%E7%B6%BF%E8%8A%B1%E5%8F%8E%E7%A9%AB%E6%A9%9F-141915

頁432
ブラックオークの町のほぼ全住民が、あらゆる種類のアルコール飲料に眉をひそめていた。この郡は禁酒をかかげていた。いちばん近い酒屋といえばブライズヴィルだったけれども、地区内に密造酒を手がけている者が数人いて、どこも商売繁盛だという話だった。こんなことを知っているのはリッキーから教わったからだ。リッキーはウイスキーは好きではないが、たまにビールを飲むことがあると話していた。アルコールの害についてはたっぷりと話をきかされていたこともあって、ぼくはリッキーの魂がどうにかなっちゃうんじゃないかと心配した。人目を避けてこっそり酒を飲むのは、男にとっては罪ぶかい行為とされている一方、女にとっては恥ずべき行為とされていた。


さいごのほうでこんなこと言われても。お祭りハレの日のバカ騒ぎ、喧嘩、
ケンカのやりすぎの死者、エロい見世物、それらすべてが、密造酒を除くと、
シラフで行われていたと、この期に及んで言われてもって感じです。

登場人物たちは、朝鮮戦争はさておき、インダストリアルシビライゼーションに、
けっきょくのみこまれて、借金まみれの自由農生活から離れるわけです。
物品納小作人もそうなるはずですが、そちらは傍観者からのスケッチなので、
よく分かりません。で、この小説にはアウトローがふたり登場し、
より悪い方が勝つのか、どっちを応援するかで共和党なのか民主党なのかまで、
分かってしまうような好対照の悪漢ふたりなのですが、その結末と、
やっぱり大金ゲットはいいな〜という感じで終わります。いいな〜、以上。
(2018/4/29)