- 作者: 小泉喜美子
- 出版社/メーカー: 晶文社
- 発売日: 1985/11
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表紙イラストの英文
LOOSE BOARDS! AN EXIT!
SHE WENT TO HER CAR?
ブックデザイン 平野甲賀
初出は別冊文春1981春〜1984秋号掲載の海外ミステリ時評と小説推理1981年一年分掲載のエッセー、日本推理作家協会機関誌の1983年九月刊の號に載せた論文? それらを歳時記のかたちにまとめたもの。あとがきに単行本担当含めた各編集諸氏への謝辞あり。とりあげたミステリの五十音索引付。
本書校了後急逝との由。
正直、本格に対する変格とか、米国ミステリ英国ミステリフレンチミステリそれぞれの味と好悪とか、知りませんので、ただ流されるままに読み、作者からするとけっこういろんな作品がクサされる対象になるのだな、と思いました。冒険小説に対する一家言だけは、やっぱり元宿六の人が名を馳せたジャンルであることを意識したほうがいいんだろかと思いましたが、余計なお世話かと。
第一回一月松の内で、須賀田さんシリーズのローレンス・ブロックのもうひとつの代表作、怪盗バーニィ一作目!の書評が載っています。私が怪盗バーニィ未読なのは、普通にお酒を楽しんで(女も)享楽的な人生を送っているということだったので、誤射というか跳弾殺人を引きずって、コーヒーにウイスキーを大量に入れて常飲し、十分の一税とか勝手に理屈をつけて教会に寄付している、暗くて自己憐憫な初期須賀田さんとは、だいぶ違うと思って読んでないわけです。でも作者が同じということは、なにかクロスするものがあるかもしれないので、試しに読んでみてもいいかなと思いました。ここでその名前見るまで、バーニィとかすっかり忘れてた。
四月、藤の花で、チャンドラーを継ぐハードボイルドの大物とうたわれて颯爽と登場したクラムリイは、アル中気味のでくでくのおっさんである。ヴェトナム戦争の後遺症をたっぷりと書きこみながら、彼はこんな甘い感覚も示した。とある、そのクラムリイをじゃあ読もうかと思いましたが、検索したら既に一冊読んでました。
2013-12-24『酔いどれの誇り』 (1984年) (Hayakawa novels)読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20131224/1387891094
小泉喜美子書評は、上より前の著書『さらば甘き口づけ』に対するもので、“甘い”と“甘ったるい”とはちがう。ハードボイルドとハード・ヴァイオレンスとやらもちがう。
真の甘さを知らない作家に真の苦さがわかる筈がないと私は信じている。とのことです。クラムリイはどっちやねん。
五月 菖蒲 L.A.モース『ビッグ・ボスは俺が殺る』*1評
美食といっても、ロスの一匹狼のとるそれであるから、決して気どったワインやフランス料理が出てくるわけではない。この男は日常はジンをがぶ吞みし、やたらと辛い香料入りの安料理を流しこむだけで、美食家どころか胃も腸も真っ赤にただれている筈なのだが、中国料理店でそこのコックにおまかせした三品をぱくつくシーンが出色。
彼がどんな精選メニューを賞味したかと申しますと、
○薄くスライスした鶏に、一キロ二十五ドルする上海産の乾燥した極辛の唐辛子を添えたもの。
○細切りした牛肉と細かく刻んだニンジンにつぶした唐辛子をかけたもの。
○香りのいい四川産の粒コショウがたっぷりはいった挽肉ソースをかけた豆腐。
これが“実に素晴らしい味”で、彼は大きめの茶碗に盛ったご飯を三杯お代りし、ビールを二本吞むのである。
二番目の料理はニンジンよりはピーマンのほうがいいのではないか、三つめのはマーボードーフのことかしら、などと私でもわかる程度の通俗中国料理であるところがいかにもこの小説らしくていいではないか。
この種のアメリカ風俗物には中国料理を食べに行くシーンがよく出てくるのだが、たいていはスブタ、カニタマ、チャーシューのたぐいらしきものを食べさせてお茶をにごしているので、その点、モースは取材がゆきとどいておりますなあ。
え? 日本だって主としてスブタ、カニタマ、チャーシューメンしか食べていないって? そうですよねえ、みんながみんな、丸谷才一氏にはなれないのだし。
こうした、一見どうでもいいような部分をどう書いているかもミステリーの評価の上で大きな要素を占めていると私は思う。無味乾燥では困るし、さりとていたずらにペダントリーに堕してももっと困る要素である。(以下略)
ファストフード責めで全米ファッツドミノになる以前のラストベルト、みたいな。
作者の文章の特質を出そうと思って、いつもの私ならもっと早くに(略)(略)(略)で打ち込まずバッサリ切るところも写しました。ビッグ・ボスも読もうかと思いましたが、評者が先行する作品として出したフィラデルフィアの私立探偵ビル・カナリの『金髪女は若死する』をまず読んでみます。
十一月で紹介されてる美酒美食ミステリー傑作選『冷えたギムレットのように』*2と、十二月で紹介されているヘレン・マクロイ『燕京畸綺譚』も読んでみようかと思います。
頁225 十二月 桐 ヘレン・マクロイ『燕京
畸綺き譚』田中西二郎訳 評
桐だの鳳凰だの出てくる外国ミステリーなんか知らないから大ラスに来てお手あげかと思ったら、私の最愛の作家の一人にこんな素晴らしいのがあるのを忘れていたのだった。
古都ペキンを舞台に絢爛とくり広げられる幻の名画と美女誘拐のロマンには息を吞む。
「鳳凰第におきましては、洗面器から唾壺にいたるまで宝玉をちりばめた美麗な純金の器ばかりでございます。貝勒さまは何につけても珍奇なものをお好みになりますので」
貝勒とは主役のデカダン趣味の貴公子の名前。田中氏の名訳になるこの一篇を礼讃して、歳時記の筆を措かせていただく。
この短編は今では「東洋趣味」というタイトルになっていると、ヘレン・マクロイ自選集の読書メーターにありました。
- 作者: ヘレン・マクロイ,好野理恵ほか
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2015/02/27
- メディア: 文庫
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でも図書館には旧書があったりするものなので、ほかのアンソロジーでこの短編読むことになりそうです。以上