『金髪女は若死する』(ハヤカワポケミス)読了

小泉喜美子『ミステリ歳時記』に出てきたハードボイルド。

2018-05-25『ミステリー歳時記』読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20180525/1527248484
読んだのは三版/刷
この作者写真が、現在ではWikipediaにも使われている写真*1になっていてよかったです。紗をかけようか迷いましたので。

裏表紙
フィラデルフィアの私立探偵ビル・カナリは、恋人ジェーン・ネルスンを訪ねてシカゴへ来た。二人は、四ヵ月前独立記念館で出会い、生涯にはじめての烈しい恋を燃やしたのだった。だが、心を躍らせて入ったアパートに彼女はいず、ようやく扉をあけて入ってきたのは、見しらぬ寡黙な大男だった。スミスと名乗るその男は、ジェーンとの約束があるので待たせてほしいとアパートに入りこんできた。やがて、電話のベルがけたたましく鳴り、はやる心をおさえて受話器をとったビルの耳に、なつかしいジェーンの声がひびいた。
「私、あなたに会えないわ、今すぐは駄目なの」おびえたように言うジェーンの声に何かトラブルを感じたビルは、彼女のもとへとアパートをとび出した。途中、尾けてくるスミスをまき、ようやくジェーンの告げた住所にたどりついたビルの見たものは、
(中略)
復讐を誓ったビルの、組織との熾烈な戦いがはじまる。マイク・ハマーに比肩するタフな私立探偵ビル・カナリ登場。強烈なエロティシズムとアクションが全篇にあふれ、その上に不思議なペーソスがさりげなく漂う。巨匠ウィリアム・P・マッギヴァーンが別名義で描く、ハードボイルド・ファン必読の書!

国立国会図書館サーチ
https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/detail/R300000001-I000000960308-00
東京創元社の作者紹介
http://www.tsogen.co.jp/np/author/822
訳者 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E4%B8%AD%E9%87%8D%E9%9B%84
https://www.amazon.com/Blondes-Die-Young-Bill-Peters/dp/B000RC2N9C
https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/71-5VKwlE0L.jpg原題"BLONDES DIE YOUNG"
巻末に都筑道夫の「スピレインを追うもの」と題した解説有。昭和32年1月付。作者の奥さんモーリーン・デイリイは少女小説作家とのこと。スピレインという人は検索すると、マイク・ハマーシリーズの作者として出ます*2。それの二匹目の泥鰌を各出版社ドトウのように出したうち、アール・ベイズィンスキイ(北京とは何の関係もなし)Earle Basinsky とこのビル・ピーターが都筑サンの目には面白かったそうで、しかし、このビル・ピーターはマッギヴァーンの別名なので、なあんだ、最後怒濤の広域組織プレイが見事にハマるわけだ、という内容の解説です。

頁11
ジェニイは正真正銘の金髪ブロンドで、こい水色の目をもち、寛大で同情心のあつい口と、チベットラマ教徒が大騒ぎをはじめそうな肉体をもつていた。

頁18
 ジェニイが私に教えた住所というのは、(中略)ドン底生活のにおいが立ちこめている一角である。ここは、子供も年金もなくて六十、七十の坂をこえた人々が、安部屋を借りて死を待つところだ。いつの日の朝か、そうした人々がベッドに横たわってだらしなく口をあけ、冷たく硬直して近所どなりへ不快な悪臭をただよわせているのを、お巡りが来て発見するのが人生の終幕となるのだ。

頁23、ギャバジンをギャバディンと書いてます*3

頁28
うわさによるとこのあたりは、荒っぽい街で下品な街で、下級労働者の街でありシロシロの住む街、無銭飲食者や麻薬中毒者の街、そして、現金登録器のような心をもった女たちや、世界中で一番無情な警察官のいる街であつた。(中略)安酒場やイカサマ賭博場や、陸海軍の払下げ品の店や終夜営業の激情が建ち並んでいる街であつた。このあたりの店々がいつせいに活動をはじめると、まるで貨物列車の操作場(ママ)のようにやかましく、バーや映画館や店屋の上にのびたネオン・サインの濃いオレンジ・グリーンの色に色どられた、歩道には乞食や香具師やルンペンがいて、小ざつぱりしたものを着たフィリッピン人たちが、ぴつちり身についたスーツでつばのひろい白いフェルトのフェドーラ帽をかぶつて陽気にさわいでいた。中には一日の仕事を終えて家路を急ぐ途中の、ごく普通の人々も歩いていた。また、買い物かごをさげた女や二三人の子供を連れた母親、油だらけの作業衣の電気技師や牧師などの姿も見えた。

現金登録器は、キャッシュ・レジスターのことだと思います。シロシロが分からない。プア・ホワイトのことだと思うんですが。ここでフェドーラ帽が出て、検索しますと、中折れ帽*4とのことで、で、別の個所にホンブルク帽*5というのも登場し、同じなような微妙な違いがあるような… 分からんです。

頁38
 彼女のアパートの居間は、細長くて巧みに調度がしつらえられていて、湖のながめは特によかった。
「ほしいものならたいていそこにあるわ」彼女はこう言つて、テレヴィジョン・セットとレコード・プレイヤーを組みこんだ酒戸棚を指さした。「ちょつとごめんなさいね」
「いいとも。君はウイスキーかい?」
「ええ、ウイスキーがいいわ」
 私は上衣と外套を脱ぐと大きくふくらんだ椅子の上において、銘柄の通ったウイスキーソーダ水とビタスを少し使つて、健康な飲物を二杯作つた。

ここで気づいたのですが、主人公は、モノローグでは「私」会話では北町寛太ばりに「僕」、そして時々「俺」と、一人称を三種類併用しています。湖が見えるマンションはシカゴ郊外ですので、「アウター・ドライヴ」という路で行きます。外環道でしょうか。

頁46
ボブは大学をやめて、いち早く身なりのリュッとした遊び人の仲間入りをした。

「リュッとした」なんとなく分かるような分からないような単語なので、検索しましたが、「シュッとした」ではありませんか? といわれるばかりでした。不明なままです。

しゅっとしたとは - 大阪弁 Weblio辞書
https://www.weblio.jp/content/%E3%81%97%E3%82%85%E3%81%A3%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%9F

頁82、ミルク配達。なぜ牛乳配達と訳してはいけないのだろうと。

ビル・カナリの「カナリ」はイタリア系の苗字だそうです。

頁99、苦もん。苦悶の「悶」だけひらがな。ここは禁断症状というか離脱の女性に治療を勧めると拘束衣や独房なんてまっぴらと断られる箇所。

頁112
ブルーの労働シャツを着たうすい灰色の頭髪の男が、ときどき、かけたメイスン・ジャーから透明の酒を飲みながら、テーブルに向ってソリテールをしていた。

ソリティアだと思うのですが、違うかな。メイスン・ジャーを知らなくて、密造酒を蒸留するジャーかと思ったら、違いました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%82%BD%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC

頁126
しかし、この組織もわけなくたたきつぶす方法がただ一つある。アメリカではあまり多くの例はないが、フィリーで二度、ピッツバーグで二三度、ニューヨークでしばしばあったことだ。麻薬が輸送途上で混ぜ物がされることだ。それとも、はじめから悪質な薬が来ることだ。上海やミラノのどこかで、一包みの悪いものが出るか、あるいは混ぜ物のされたのが出ると、それが流れて来る。中毒者は何も知らずに金を払って買う。病人が続出して中毒者が病院に収容される。留置場に収容されるのではない。病人は死ぬものと思つているから、医師に訊かれたことは何でも喋る。何もかもだ。彼等に薬を提供する者の名前、薬を売るバー、電話番号などを。それでどんなことになるか判るね?――五十人、百人、いや五百人もの中毒患者が一度に密売団について知っていることをベラベラと喋るんだ。警察は業者を一網打尽に出来る。すると、さらに別のことが判明して、しごくかんたんに大物連中が検挙出来ることになる」

これはもうホント大昔の話では。昔はよかったですね。上の前提として、有名人が多数ハマってる状況があり、そこに混ぜ物が出たら、ということだそうです。今は知らないですが、危険ドラッグの前の呼称、その前の呼称の時を考えてみれば、もうホント何が入っててもリスクはエンドユーザーどまりな時代だから生き地獄なような。

マトリズム 1

マトリズム 1

マトリズムはこないだ第三話だけ三崎のラーメン屋で読みました。

頁135
私が最初に会ったときには、身体中がゴツゴツしていてチグハグで、まるでゴボーのような感じだった。その彼女が今では、(以下略)

原文も牛蒡だったのかどうか。

頁162
 シャワーはまだ出つ放しだつた。テリイのアパートに入つたトタンに凄い水音が聞こえて来た。私はゆつくりと寝室に入つた。

トタン屋根と「途端」を勘ちがいしました。まぎらわしい。

頁162、パムプス

昔のハードボイルドなので、男女がいい仲になるまでの過程とか、今読むとあれ? とも思いますが、別の据え膳女性には紳士だったりして、じゃああの強硬な口説きはナニ? というとネタバレになるので言えませんという… なんか、おいしいものが出てくるハードボイルドであるように、小泉喜美子の書評で考えていましたが、それはなかったです。ただ、
よく飲みます。そういうことか。以上