『幻の女』稲葉明雄訳版(ハヤカワ・ミステリ文庫)読了

幻の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 9-1))

幻の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 9-1))

カバー・浜田泰介/絵所有・安本努氏
訳者あとがき有

関川夏央の本に、小泉喜美子とのフェヤーモントホテルでの思い出とともに出てきた本なので読みました。

2018-06-01『 石ころだって役に立つ「本」と「物語」に関する記憶の「物語」』読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20180601/1527863600
私は上の読書感想で、ウイリアムアイリッシュアイリッシュ・ウイリアムと写し間違えています。なんでだろ。

作者 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5
https://en.wikipedia.org/wiki/Cornell_Woolrich
ひさびさに油ののったウィキペディアを読みましたので、コピー&ペーストさせて頂きます。安直だなあ。

1931年には「Cover Charge」を映画化したプロデューサー、スチュアート・ブラックトンの娘バイオレット・ヴァージニア・ブラックトンと結婚するが、この結婚は3ヶ月しか続かなかった。妻が彼の日記に、同性愛者との浮気についての記述を見つけたのがきっかけだった[1]。彼女は、彼が夜遅くになると、同性との出会いとアバンチュールを求めて出かけていること、そのために船員服を持っていたことまで知ってしまったのである。
1933年、二人の婚姻は法的にも解消された。ブロードウェー西113番街の「マルセーユ・ホテル」で母親と同居を始めた。この後35年間に渡り、彼は住居というものを持たず、母と共にホテルを転々とする暮らしを続ける。

(略)
1940年代後半から母が重病となり、出版される小説はしだいに減っていった。1957年10月6日には母が死に、元々厭人的であった性格がさらにひどくなった。母親の死後、今度は伯母と同居する形で「フランコニア・ホテル」に移った。これは母親と暮らしていたホテルよりも粗末なものであった。
最晩年、彼はひとり、豪華なホテルに住まいを移すが、自分の体をいたわることのない生活はそのままであった。絶えず喫煙し、酒量も増え、糖尿病やアルコール中毒に苦しめられた。また、足に合わない靴を延々と履き続けたことから壊疽が起こるも、医者に見せようともせず、結局医者に見せたときには既に手遅れで、足を切断する羽目となった。
1968年に死亡し、ニューヨークのハーツデールのファーンクリフ墓地に埋葬された。遺族はおらず、葬儀への参列者は5人だけだった。また死亡時、彼の体重は89ポンド(40kg)しかなかった。人気作家であった彼の口座には、死亡時、百万ドルの残高があった。

その時刻、彼は、ただ一人街をさまよっていた。たまらない不快な想いを胸に、バーに立ち寄ったとき、奇妙な帽子をかぶった女に会った。形も、大きさも、色まで南瓜そっくりなオレンジ色の帽子だった。彼は気晴しにその女を誘ってレストランで食事をし、カジノ座へ行き、酒を飲んで別れた。そして帰ってみると、喧嘩別れをして家に残してきた妻が、首に彼のネクタイを巻きつけて絞殺されていたのだ……!
刻々とせまる死刑執行の日。唯一の目撃者“幻の女”はどこに……? サスペンス小説の巨匠アイリッシュの最高傑作!

この顔写真は画像検索で出てこないのですが、特に権利云々明記しておらず、置いていいかな、ダメかなと逡巡してます。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/6/6a/PhantomLady.jpg

Phantom Lady

Phantom Lady

https://en.wikipedia.org/wiki/Phantom_Lady
原題"Phantom Lady”ボトムズの冒頭に出てくるスキンヘッドのヌードの姉ちゃんがまず思い出されましたが、ああいう煽情的な場面で視聴者を引きつけて毎回見させようとする戦術は、現在でもあるんでしょうか。今夜昼顔というよろめきドラマの映画版が地上波でやるそうなので「やっぱエロいんですか」「上戸彩ですよ(大御所なのでそんなに露出はないと言いたいのだと理解しました)」という会話をしました。西郷どんに登りつめた二階堂ふみ。そして検索したらボトムズは「ファンタムレディー」だった。アフリカの太鼓。力石徹のいた階級。ひげをなでる。

ファントム・レディ Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%83%87%E3%82%A3
フィアナ pixiv百科事典
https://dic.pixiv.net/a/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%8A
正直、これだけ特徴を捉えてなくても、自称すれば勝つ世界の素晴らしさにめくるめく思いです。

幻の女〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

幻の女〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ネタバレにならないように書きたいのですが、乱歩オキニということで、暗黒星か何かで同趣向のサスペンス書いてなかったかなあと。少年少女向けの書き直し版しか読んでませんが。

頁110
「煙草は?」
 ヘンダースンは嘲るような顔をあげた。
「煙草が、どうしたというんです?」
「まあ、そんなふうに言わないでくれ」
 刑事はかすれた声でいい、差し出した手をそのままにしていた。
 ヘンダースンは不承々々、一本ぬきとった。煙草なんか欲しくはないが、そうすることでバージェスが退いてくれやしないか、と思っているようだった。眼つきはいぜん厳しいものだった。彼はその小さな円筒形のものを袖口でふいてから、口につっこんだ。

こういう文体です。頁307、蹌踉とした足どり。

蹌踉(ソウロウ)とは - コトバンク
https://kotobank.jp/word/%E8%B9%8C%E8%B8%89-553442

頁334
「あのひとの圧力は、そんな程度のものではなかったの。もしあたしが口をひらいて、あのひとの名声や地位を汚すようなまねをしたら、あたしをアル中患者のための施設に放りこむ手続きをするぞって、おどかしたの。あのひとには勢力もお金もあるんだから、そんなことは簡単にできたでしょうよ。そうなったら、あたしはもう二度と陽の目をみられない。気ちがい用の拘束衣をきせられ、冷水療法で痛めつけられて――」

ここは本題とは関係ありませんが、なんとなく引用しました。

この小説がなぜ日本人に大きな衝撃を与えたかというと、あとがき情報で、昭和二十五年五月号の《宝石》に一挙訳載された、その時代にあるのではないかと。カストリ小説時代にマッチした内容で、戦中ずっと読めなかった海外ミステリで、なにより、復員後の男女や、戦後著しくバランスが狂って男女比で女性が多かった時代の、日本人の琴線に触れるところが大きかったのではと推測します。
目次じたいがどんでん返しという、目の行き届いた構成はびっくりしました。途中で目次見返して、どうなるのかとやきもきした。
かみそりと依存症の性格についての個所は、そうなのかもしれないし、そうでないかもしれないと思いました。誰にでもある習慣的行動と、強迫的概念観念の境界。以上