関川夏央著『水の中の八月』読了

検索すると、石井聰亙の映画も出るので、あえて作者名を入れました。石井聰亙、改名して、もう聰亙でないとは。

関川夏央版水の中の八月(NHKのドラマも含む)Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B4%E3%81%AE%E4%B8%AD%E3%81%AE%E5%85%AB%E6%9C%88

水の中の八月 (講談社文庫)

水の中の八月 (講談社文庫)

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水の中の八月

水の中の八月

エッセーかなと思って借りたのですが、短編小説集でした。すべて在日コリアンが登場します。表題作だけ新井姓のパチ屋の息子で、あとは皆女性(´Д`)。主人公の独身中年ライターや、そうなる前の少年時代や青年時代と、かかわりがあります。そういう小説集。作者のエッセーで、作者を麻雀の役に喩えた女性も在日コリアンとして登場しますし、作者がコリアン世界をルポして名前が売れたのちに電話番号を調べて深夜掛けてきた女性も在日コリアン(いやがらせでなくてよかったですよね)です。読んだのは単行本。表紙の、いかにも八十年代な女性の服装がよかったのですが、内容は無関係でした。全七話で、ぜんぶの話に在日コリアンが登場するとなると、だいたい人口比で考えると百人にひとりくらいですから、この主人公は、かなりの高確率で在日コリアンがそれまでの彼の人生に関わってることになります。帰還船とか、在日コリアンだが勉強しなかったのでハングルが読めず主人公の学習ぶりが鼻につくとか、そういうネタを、随筆でも書いてるけどフィクションとしても書きたかったんだなあ、と。何も考えず親がひろし、博と名付けて、気がつくと本名も朴だったので、パクパクと名乗るのもあれなので、とりあえず通名はやめるけど、ボク・ヒロシと名乗ることにした、という話は、そこだけ切り出されてフォークロアになっててもおかしくないと思いました。私が知らないだけかもしれません。

そういう部分とまったく関係なく、ディセンバーリトリートを体験したカメラマンのせりふ、絶望しすぎると希望よりも眠りを求める(頁116)とか、今でもそうなのかちがうのか、白岩とか平海とか竹辺という地名の、砂浜の海岸と鉄条網の風景の描写がよかったです。ストリートビューで出ないかささっと見ましたが、砂浜の鉄条網出なかった。こないだ南北会話の時にはニュース番組で出ましたけどね。記者が電車に乗り合わせた初老の夫婦にインタビューしてた。鉄条網の砂浜を背景に。

イラストレーション/福井真一
ブックデザイン/日下潤一
カバー写植印字/前田成明
初出は'80年代後半の小説現代と別冊小説現代

以上