『BAR レモン・ハート (33) 』 (アクションコミックス) 読了

このマンガの単行本は、数年前からコンビニで見かけると買ってるかんじですが、今回は書店でかなりオンタイムに買えました。どっかで新刊告知も見てたかしれないです。沙村広明の新刊と入江喜和の新刊買いに行って、後者は買えませんでしたが、これを買った。
西遊妖猿伝の連載がスーパーアクション休刊でアクションキャラクターに移った時に、この漫画がアクションキャラクターに連載してたので、それで読んでた感じです。当時。アクションキャラクター、ほか何が載ってたろう。思い出せない。ルパン三世でないもんきぃ・ぱんちの漫画はんきぃ・ぱんきぃとか、キリンでブレイクする前の東本昌平の兄ちゃん姉ちゃんが出てくるだけの漫画とか、が載ってたと思ったのですが、よく考えるとそれらはすべてスーパーアクションだったのではないかと。スーパーアクションには、ほかに、山上たつひこの面白くない漫画(正直面白くないと思いました。この人は小説に移行してよかった)とか板橋しゅうほうの凱羅とか坂口尚の紀元ギルシアとかがあったと思います。星野之宣2001夜物語はこの人の代表作のひとつと思いますが、三巻になるとかなり粗い当時のコピーが貼られた原稿が多く、今のデジタル技術で原稿をリマスターさせて、見違える見栄えの完全版があってもよいなとは思います。まんだらけの人に聞いたら、星野は諸星と違って本の値段があれなので、完全版出しても「知ってる人しか知らない」2001夜だとどうか、かもしれませんが。
古谷三敏とファミリー企画はそののち、私が日本における「中国」の受容と変遷みたいなことに興味があった頃、式亭三馬の『浮世床』を漫画化していたので、そちらを読ませて頂くかたちで再会しました。
浮世床―マンガ日本の古典〈30〉 (中公文庫)

浮世床―マンガ日本の古典〈30〉 (中公文庫)

いろんな日本の古典文学を巨匠とか言われるような漫画家が分担してひとり一冊、全三十巻ほどにしたてたシリーズの一冊で、よく式亭三馬をまんがにしようと思ったなと、まずそこに感心しました。浮世床は巻頭文からして「大清中華」という耳慣れない単語が登場するので、今でも私にとっては新鮮です。清朝を建てた満州族を正統中華でない異民族とする視点、滅満興漢みたいな視座からは、パクスタタリカ的な中華という発想はなかなか出てこないと思うのですが(どんな民族であっても舞台が大陸ならそして誰もが中華の主人公、みたいな)、江戸期の日本には、すでにしてそうやって大陸を眺める大衆文学があった。さらに浮世床にはクサレ儒者が登場しまして、そこもよかった。確か名前からして孔糞(こうふん)先生だったかと。私がこの日記でよく使うことば、<残念閔子騫>は、孔糞先生の口ぐせのパクリです。残念と顔淵をかけた洒落であることは、コトバンクでもなんでも検索できると思いますが、「残念」は"n"音の「nぬ」で「ざぬねん」ですが、「顔淵」は"ng"音で「がんえん」、「がぬねん」とは言わないので、ひっかけたことにはならないだろうと私なぞは耳で聞いて思うのですが、江戸の庶民にはこれが同音の洒落に聞こえたのかと妄想すると、いとおかしです。

表紙にも中表紙にも「気持ちがすごくあったかい!!<酒コミック>」と書いてあるのですが、背表紙にも書いてあるとは思いませんでした。細かいな。裏表紙はギムレットマティーニで、下記の撮影協力店の一品だそうです(そう書いてある)

装 幀◎古澤隆人(st.MOO)
カバーphoto:山田 茂
カバーphoto:協力店 D-Heart man
(2018年現在のURL記載)

帯は、「守りたい、残したい」という、本編のひとつのエピソードに準じた文句と、シリーズ累計894万部という、細かくて正確な数字という、作り手の気質を現わした宣伝文。帯裏は関連本告知。

この巻くらいまで来ると、もう蘊蓄も人間社会の日常では計り知れないAIとかが開陳してるんじゃいかと思うくらい凝っています。朝摘みカシスのカシスオレンジと夜摘みカシスのカシスオレンジの味の違いを、まずほんもののバーテンダーがいる店でちゃんと作って貰うカシスオレンジは居酒屋チェーンのとはそら違う罠、の後にたたみかけるように攻めてきて、その蘊蓄を聞く客も、青森から上京して男に振られた娘を元気づけるためバーに誘う初老の母、とか、どうしてそこまで設定を盛れるんだ(お話自体の味わいはとてもシンプルであっさりしてるので、あれこれ詰め込みすぎだろうとか、一切感じさせない)という…
この調子で12話。航空自衛隊のひとつの基地が贈答用として非売品で作ってる日本酒とか、メキシコでボトリングして売ってるカナディアンウイスキーとか、砂時計の話とか、ジョニ青に結実する前のヴィンテージとか、チーズフォンデュという言葉を出さずラクレットという料理を紹介するとか…

ラクレット - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88

コクヨが終活ノート出してるなら(頁189)私も今度大型書店の文房具コーナーなんかで覗いてみようかと思いました。

頁196、オールドパーを愛した日本人の名前、最初の首相経験者ふたりの後に、ヨッパライの田村隆一はおいといて、池部良古川ロッパというのが渋かった。私にとって、見るたびにその酒を愛した著名人が思い出されるお酒は、アルメニアンコニャックのチャーチルと、シーバスリーガルの朴正熙です。

頁52はファンタジーとも思います。子どもって結構残酷なので。

頁62、中秋の名月の話で、中国の菊花酒が出るのですが、えっこれ飲んでほめるとかありかな、と思ってると、一同が飲むのはそれとは別の栗のリキュールで、うまいことやるなと思いました。

航空自衛隊の輸送機から頁134のような会話になるくだりは、ほんとの酒場の会話のテープ起こしかと思うくらいです。実際の人間の会話はこれくらいリープする。

頁166、メキシコトークしてるからって、すぐ「サルー」「サルー」と乾杯出来るあたりが知の座標持ちばかりでえげつないなと。フィレンツェトークだったらすぐチンチンなのか。

頁176、ノンアルコールのカクテル、モックアップのモックとカクテルをくっつけた「モクテル」ということば、これには弱りました。この話で紹介されているネクター・ダブリコという濃厚なアプリコットジュースを使ったバレンシアというモクテルは、読んでるだけだとケチのつけようがないので…

Yahoo!知恵袋【日本コカ・コーラ公式】お客様相談室 よくあるご質問
『モクテル』とはなんですか?
http://j.cocacola.co.jp/info/faq/detail.htm?faq=21090
朝日新聞DIGITAL 2018年2月28日15時33分
模造カクテル=モクテルいかが ノンアル志向の若者狙う
https://www.asahi.com/articles/ASL2J4GY7L2JPLFA006.html

MOCKTAIL モクテル 魅力広がるノンアルコールカクテルの世界

MOCKTAIL モクテル 魅力広がるノンアルコールカクテルの世界

http://asahiya-jp.com/book/9784751112410/

私は世の中のノンアルに関してはかっちり線を引いてますし、市販のそれはよく知らないので、知りませんが、このまんがのネクターは、レシピだけ見ると、ケチをつけづらいです。困った。以上