『マローン御難』(ハヤカワポケミス)読了

原題は"KNOCKED FOR A LOOP" 解説は都筑道夫で、「ライス遺作」というタイトルがついています。解説によると、原題は、第一ラウンドでノックダウン、イチコロ、といった感じの俗語だそうです。
ポートレイトについての感想、49歳には見えない、老けてる、は、私だけの感想ではないと思いますが、『スイート・ホーム殺人事件』での、育児に執筆活動に輝いてるシングルマザー作者のセルフイメージから、ここまでのあいだの道のりを少し考えたりもします。

Like many of her characters, Rice developed chronic alcoholism and made several suicide attempts. She also suffered from deteriorating health, including deafness in one ear and blindness in one eye with incipient glaucoma in the other. She died of apparently natural causes shortly before her fiftieth birthday.

クレイグ・ライス Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%B9
なぜこの作品を読んだかというと、以前、中島らもの『酒気帯び車椅子』を図書館で手に取って、三十分で読んでしまったとき、これは死んでしまう人の文章だ、と強く感じたことがあり、『今夜、すべてのバーで』で、知ってるくせに(おそらく)、アルコール依存症の精神科診察/入院でなく、内科入院再飲酒の道を小説に書いて世に広く流布させた作者の、方向づけられた人生の、断末魔にも似た咆哮が、『酒気帯び車椅子』に出ている気がして、それで、「晩年の作品」というものを意識するようになったからです。『スイート・ホーム殺人事件』の解説を書いた小泉喜美子の最後のほうの作品も読みましたが、健康状態がよくなくなると、筆が荒れるということくらいしか、分からなかったです。この、マローン最後の作品は、それすら感じさせない。ただ作者はこの作品のあと、しばらくして死ぬ。それだけです。私が読む狭い範囲の文章では、田村隆一が、晩年、ヒドい出来のものしか残してないな、というくらい。

2015-03-19『酒気帯び車椅子』読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20150319/1426769844
2012-10-25『今夜、すべてのバーで』再読
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20121025/1351112383

この小説でも、登場作ではライ・ウイスキーを飲んでいたマローンが、ジンを入れたビールばかり飲むようになっていて、より強い酒を求めるようになっているのだな、楽しんで飲んでいるのだろうか、と思ったくらいです。
作者の小説はあとふたつ読んでみますが、幻影というか、あるべき素晴らしい自分の姿というものを、永遠に追い求めていたような形跡を、読み取りました。それくらいです。以上
【後報】
マローン御難 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 479)

マローン御難 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

マローン御難 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

https://kotobank.jp/word/%E3%83%9E%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%B3%E5%BE%A1%E9%9B%A3-740283
マローン、別に酔いどれとか酔っぱらいとはぜんぜん思わないのですが、なぜそういう異名をとっているのでしょうか。白を黒と言い含めるような、法律知識を兼ね備えた言葉の魔術師らしいのですが、その辺は法の解釈とかの箇所をてきとうに読み飛ばしていたこともあって、よく分からないです。でも事件は解決される。ばんざいです。
(2018/11/4)