『切断』<ドーヴァー警部シリーズ>(ハヤカワ・ミステリ文庫)読了

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/91J1hp20ypL.jpgカバー・桜井 一 
解説は(S)というイニシャルのみの署名。

原題
"DOVER AND THE UNKINDEST CUT OF ALL"

切断 (ハヤカワ・ミステリ文庫 32-1)

切断 (ハヤカワ・ミステリ文庫 32-1)

関係ありませんが、表紙画像を検索してたら、浅羽通明の名前を冠したツイッターが出た。
以下後報
【後報】
ドーヴァーシリーズ中、最高傑作とのことでしたので読みました。ドーヴァーは、最初の作品ドーヴァーONEしか読んでないのですが(作者によると、絶対に刊行されないこと請負の『ドーヴァー警部とこぼれたミルク』という承前の作品があるそうで、21世紀にその原稿が発見されたらおもろい気もしますが、読んでみてツマラナかったら、これほど贋作づくりとしてアホらしいこともないと思います)一作目と比べると、部下のマグレガーが、若くして諦念のもと淡々と枯れた仕事をするようになっており、一作目の、己を知らない増長とか出世意欲のギラつきとかが、影を潜めてしまったなと思いました。大谷翔平のようにいい子になっている。ドーヴァーのほうは、一作目は完全に偶然に頼った事件解決で、不平不満と罵詈雑言と喰っちゃ寝ともらいタバコしかしてないのですが、本作では、いろいろ推理をこらして囮捜査を試みたりしています。踊る大走査線のよう。
で、シリーズ最高作のはずですが、アマゾンのレビューには、最後まで犯人が分からないまま終わるのはアリ?みたいな感想が書かれていて、私も読了直後は、なんだこれ事件解決してないだろと思ったのですが、それから仮眠して起きたときには、なんとなくぜんぶ分かった気になって、これは確かに名作だわい、と、何の根拠もなく思いました。
http://4.bp.blogspot.com/-utRXbvBZJBY/TuooxEXA6wI/AAAAAAAABNc/iSz8VZTQB-M/s1600/083007_hist_hillgraphic_sub.jpg婦人団体がホントにそこまで隠然たる勢力を振るうことが出来るのか、と疑問に思う向きには、トランプ大統領ですらなかなか出来ない合衆国憲法の修正を、不屈の努力で成し遂げ、全米に禁酒法を普及させた母体組織が、「婦人キリスト教禁酒同盟」(Woman's Christian temperance Union)であったことを指摘したいです。前に本でそれを読んだ私は、さもありなんと思いました。同組織の「禁酒科学教育部会」(Department of Scientific Instruction)の禁酒教育教科書編纂事業と、ジョージア州を除くすべての州で成立した「禁酒義務教育法」(Compulsory Temperance Education Law)が呼び水となり、その禁酒教育を受けた世代が成人して選挙権を行使する年齢になった時、憲法修正第一八条が成立、全米禁酒法が発布されたのです。
2013-11-19
アメリカ禁酒運動の軌跡―植民地時代から全国禁酒法まで』 (MINERVA西洋史ライブラリー)読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20131119/1384850197
http://www.pdimages.com/BX0031.JPG

頁178
 ドーヴァーがお茶のテーブルの上座につく頃には、いくつかのことがだんだんはっきりしてきた。テーブルにはふちどりしたレースのまるいテーブル・クロースがかけてある、このことからしても、お茶はともかくアルコール類は出そうになかった。それにまた、壁には宗教画がかけてあるし、炉棚には七個の寄付金箱がおいてある。もしこれらのものが夫妻の生活信条の一端を示すものだとすれば、残念ながらこの家庭は厳重に禁酒を守っているのだ。

本書の婦人団体にも酒浸りはいます。老女優。為念。
ねたばれかもしれませんが、上記の全米組織が崩壊したのは、彼女らが信奉する教会団体トップの性的醜聞、セックススキャンダルが原因です。
解説によると作者のライバルはパトリシア・モイーズ(私は未読)だそうですが、私がドーヴァーを読み進めているのは、なんとなくクレイグ・ライスとのいきがかりもありますので、クレイグ・ライスとの比較も考えてしまいます。本作『切断』には、マローンという名前のキャラも出ます。ライスが、ミステリ界のフラッパーガール、遅れてきたグレート・ギャツビーなのに対し、ポーターはどっしり構えて、落ち着いています。ライスは騒々しく、いつも泳いでいないと浮袋を持っていないので沈んでしまう鮫のように場当たり的に動きますし、そこで息詰まるとキャラを変えてすぐ場面転換します。ポーターは、腹が座っているので、少々主人公がバカをやっても、動ぜず話を進め、冷静に主人公を困難に追いこみます。ライスもあと二冊読みますが、ポーターももう一冊読もうと思いました。

2018-10-07『ドーヴァー 1 』(ハヤカワ・ポケミス)読了
http://d.hatena.ne.jp/stantsiya_iriya/20181007/1538912211
以上
(2018/11/14)