『ギムレット・カラーに染めちゃって』書下ろし長編ハードボイルド・ミステリー(トクマ・ノベルズ)読了

ギムレット・カラーに染めちゃって (徳間書店): 1989|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

越沼初美 - Wikipedia

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不健康なこと大好き人間だった作者だが、それがたたって身体を壊し、健康的生活を強いられている。「あ~浴びるほどお酒が飲みたいっ!!」とは本人の弁である。

あとがきあり

カバーイラスト・ひろき真冬

本文挿絵・同上

カバーデザイン・矢島高光

 編集担当 池田孝

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巻末広告 トクマノベルズ最新刊

新井素子ディアナ・ディア・ディアスと同期だったのかと最初思いましたが、ディアナ・ディア・ディアスは単行本だった記憶があるので、検索したら、やはりそうでした。単行本をノベルズで出し直して、文庫にしてさらに別の文庫に。

ディアナ・ディア・ディアスとは - はてなキーワード

写真撮りませんでしたが、この広告の上のほうには、木谷恭介ヤッちゃん弁護士シリーズが入っていて、三宅裕司のラジオ番組の名物企画、恐怖のヤッちゃんからまだそんな日が経ってないことが分かります。あの頃、暴対法が国会通るなんて、誰が想像したでしょう。

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はさまってた徳間文庫新刊

徳間文庫は後発の文庫なので、ほかが品切れ再販未定にした本の出し直しが入っていると思います。檀一雄とか大佛次郎が最初からここのわけがない。この陳大人の書名は知りませんでした。なんだろう。
作者の本は『二日酔いクン』が面白かったので、それで他に、これが近隣の図書館にあったので読みました。

表紙の絵からは何も分かりませんが、舞台は横浜。ジョン・ローン似の華僑も登場するので、表紙の男性が主人公か分かりませんが、主人公は早大商学部(ママ)の学生で、六本木ディスコのウェイターのバイトをしてた時代、表紙の女性かどうか分かりませんが、横浜のディスコでナンパした相手に納豆くさいから茨城(石毛←ママ。両親はコンビニ経営)の田舎者だろうと看破され(田舎者とまでは言われてません。頁17。ダサいとも言われてません。当時の流行語なのか、よく「イモい」という単語を雑誌等で目にしたのですが、私は一度も耳で聞いたことがないです。「ダサい」は聞くが「イモい」は聞いたことがない)たその相手が実は14歳処女でその一晩で彼女は妊娠出産して、バブル期なのですが広告関係とマスコミしか受けなかった主人公はすべて落ちて、23歳で彼女の父親(現代人ですが丁髷を結った怪人物)が営む探偵事務所の手伝いをすることになります。で、かつての同級生のナンパ仲間で、証券会社に入社したはずの男が、実は秘密クラブがどうのこうのの様子で失踪して白人女性とその娘もどうのこうのして、ウッディ・アレン、否、ジャック・ニコルソンに似たデブでハゲだが超セクシーなおやじが巨悪として登場して、という話です。

美樹本晴彦とは関係ないと思いますが、主人公は美樹と言う名前で、場面ばめんで、ヨシキと呼ばれたりミキと呼ばれたりします。下記はディスコ入店時の服装。

頁21

クリーム色地のロゴ入りTシャツに濃紺のショート・パンツ、足元は黒の丸ぐつでキメて、頭の上にはクルーハット。

下記は彼のシャワーシーン。その後まだ寝てる妻と娘のために朝食を作ります。マンションから山下公園近くの銀杏並木が見えます。朝六時。

 頁27

(前略)摂氏42度の熱いシャワーを全身に浴びた。

 豚毛のボディ・ブラシにソープをたっぷりとつけ、マッサージもかねながらゴシゴシと洗う。

 身体と髪を洗ったあとは洗顔とヒゲ剃りだ。

 エビアン・ウォッシングクリームで内側から外側に円を描くように洗う。男は女の子より皮脂分泌が活発で肌がベトつき易い。だから、女の子以上にマメに洗顔しなければならない。

 美樹は男の朝の儀式であるヒゲ剃りをも済ませると、かかとをレデューサーでこすり角質を取りのぞいた。そして、鏡に向かい大きく深呼吸した。

 右手にデンマンブラシ、左手にターボドライヤー。

 髪型がバッチリ決まらないと、その日一日気分がすぐれないモノだけど、美樹の場合、毛質が柔らかくコシが弱いので、ナカナカ思うように決まらない。

(略)

 軽く流して、時計をみると午前七時。

 目薬をさし終わると、緑のジョッパーズパンツ一枚という姿で、木の暖かさがいっぱいあふれてるダイニングキッチンに入った。

季節は晩夏、八月末です。下は彼がベビー・シッターに行った時の服装。

頁30

本日のファッションのポイントは、白のステッチラインがかわいいコインローファーとウェリントンタイプのメガネだ。

 下記は、そのころもうレンガナントカと呼ばれていたかどうか知らない倉庫街に探偵として行った時の服装。

頁45

オフホワイトのスウェットパンツに黒白コンビのチロリアンタイプの靴というスタイルもバッチリ決まっている。 

 下記は、死体にゲロ吐いて、その死体との関係を疑われてしょっぴかれた警察の尋問。

頁48

 美樹は断わると、ズボンのポケットからトリイ・ユキのいちごプリントのかわゆいハンカチを取り出し、それで口のまわりの血を拭った。

(略)

 彼は美樹の端正な顔をじっと見つめると「お前、整形してるだろう?」と言った。

「エッ。……イエ、してないですヨ」

「ウソつけ。お前みたいにチャラチャラしてる女のくさったような奴はゼッタイ整形してる」

(略)

「お前、バーゲンに並んだことあるか?」

「はあ?」

「CDだかDCだか知らねェが、そんなもんのバーゲンに朝っぱらから並んだことあるかって聞いてるんだョ」

「はあ、ありますけど、それが……」

「それがじゃねェヨ」

 吉本は浦部から電話帳を奪い取ると、美樹の頭といわず顔といわず、肩、胸とボコボコに殴りつけた。

「ふざけんじゃねェ!! なんで学生の身分で十数万のスーツを身につけてんだっ。オレたちいっしょうけんめい働いてるオジサンたちは二着で三万だゾっ!!」 

鳥居ユキ - Wikipedia

DCブランドは死語かもしれませんが、つい最近までもスーツは二着三万もしくは替えズボンだった気がします。デフレ脱却出来てよかったのかな。

下記は1989年の田舎(設定は富山県。旧友証券マン蕪木かぶらぎ孝政の郷里)風景。

頁52

近頃はサーフィンやウィンドを楽しむ若者が来るということで、国道沿いにはオシャレっぽい店が出来ているが、やはり田舎は田舎だ。

 喫茶店にカルピスがおいてあったりする。

本書出版は平成の大事件、カルピスウォーター製品化前。

カルピスウォーター - Wikipedia

バブル期最大の貧乏くじのひとつ、証券マンの殺人的な仕事は何を読めば分かるのでしょうか。気分だけなら柳沢きみおの『妻をめとらば』ですが、気分だけなので。業務がまだ電子化されていないので、証券代行なんていう、株券の枚数を何故か手作業で数えるだけの業務があったり。

現在は、かなり相互理解が進んでいますが、下記は、当時、現実の男色と全く異なる、「やおい」黎明期の頃の女性側の認識と考えてさしつかえないかと。それが今世紀BLになって現在(オッサンズナントカとか弟の彼氏とか)に至る。

頁56

 四十歳までは女好きで過ごしてきたが、ある日、突然、めざめてしまったのだ。

 それは竹宮恵子女史の“風と木の詩”を読んだことがキッカケとなった。

(略)

 またリー自身も仲々のスマートな美中年であったので、周囲の人たちも彼がホモの道に進むのを割合、すんなりと認めた。

 ホモの道に、ブ男が入るのを人は認めない。

(略)

「ねえ、ちょっと変なこと聞いていい?」

「何?」

「アナタもホモくん?」

 透はびっくりしたように香織をしばらく見つめていたが、やがてのどちんこが見えるほど口を開けて(以下略)

 下記はそのリーのところに美樹がさぐりを入れに行く時の服装。

頁66

「これでバック・バージンは守れるヨ。それとあんまり、かわゆい恰好はしないでね」

 確かにそれは言えると思った美樹は、ブルックス・ブラザースの白いシャツと濃紺のパンツというシンプルななんの変哲もない恰好をした。

 しかし、美男子というのは、こういうシンプルな格好が一番かわいく似合ってしまうのだ。

  下記は美樹が蕪木の勤めていた証券会社に何か聞けるかもと行く時の服装。

頁98

 白のボタンダウンシャツにロイヤルクレスト柄のタイ、そしてイギリス王室連隊紋章のエンブレムを付けた紺のジャケットというスタイルで美樹はビルの中に入っていった。 

 下記は、大桟橋通りから、横浜港電話局すぐそば、八階建てのレンガ造りのビルの三階のバー、カウンターとボックスふたつだけの店、メリーゴーランドの小さな模型が奥の棚にあって、並んだグラスがすべてぞくぞくするほどきれいに磨かれている店で、主人公が背伸びする場面。

頁110

 美樹はスツールに腰掛け、「いい店ですね」と声を掛けた。

「そうですか。横浜で一番、お客さんが来ない店なんですヨ」

「いい店の条件は、まずグラスがキレイにみがかれていること。そしてキレイな女性がいることだ」 

 下記は、美樹が、秘密クラブに潜入するため女装する場面。

頁148

 美樹は額に垂れ下がっている前髪をピンで止め、下地クリームとしてベビーローションを顔に塗りつけた。

 ファンデーションは二色。肌色に近いピンク系のモノを全体に薄くつけてから、それより一段ダークな色を耳たぶの下からアゴのエラの方向にかけて頬骨の下にいれる。もちろん、眉頭の下の部分から鼻の脇にかけてノーズ・シャドウもいれる。

 パウダーをはたき、両手で軽く叩きながらファンデーションをしっとりと肌になじませた。

 そしてアイメーク。赤みがかったパープルのアイカラーを、上瞼と目の際から眉にかけグラデーションをつけてぼかし込み、上瞼の目尻寄り三分の一のところに濃い紫のアイカラーをいれた。

 アイラインはグレー。上下共に中央から目じりにかけていれる。上のラインは切れ長にさせるため、ちょっとはね上げるような感じでいれる。

 眉はふぞろいなところをそろえるためカットしてから、ペンシルを使わずに眉ブラシにグレーの眉墨をつけ、ナチュラルにぼかし込む。

 ここまで美樹は鏡と雑誌、両方とにらめっこしながら真剣にやった。

 一息いれるためキャメルに火をつけ、大きく息を吐き出した。

(略)

 キレイなのだ。

 美樹はもともと彫りの深いゴツゴツとした感じの美男子ではない。

 完全なる東洋美だ。 

 ものすごく化粧ばえがした。

 難点をいえば、ちょっとエラが張ってることだが、エラが張っててもオードリー・ヘップバーンはキレイだ。

 まったく気にすることはない。

(略)

 まっ赤な口紅が流行りだが、アイメークをパープル系でまとめているのだから、口許もパープルで決めようっ!!

 パープルっぽいローズのリップを塗った上に、紫のリップニュアンスを重ねた。

 そして唇を合わせてから、ニッと笑う。白い歯に口紅がついたので、あわててティッシュでふき取る。

 そこでタバコを再び口にくわえ、唇を肛門のようにすぼめ、細く煙を吐き出した。

 下記は蕪木孝政死体発見現場での美樹の服装。

頁166

 事件現場にちっともふさわしくない、ニコルクラブのトランプ柄の派手派手しいシャツを着こんでいる美樹をいまいましそうに吉本は見つめた。 

 ちなみにというか、ここまで毎回が服装が克明に描写されているのは主人公の美樹だけです。彼の美貌のワイフも、リーも、ジャック・ニコルソンも、ほかキャラなべて服装描写はもっと曖昧です。ブランドとか書かれない。ので、引用しました。こうした描写は、本書の特色であり、作者の執念だと思うので。下記は妻以外の美女と一夜を共にした(ご丁寧にゴムなし。しぼんで、漏れないよう外すサマが、どんな美男子でもカッコわるいからという論外な理由)後の服装。

頁176

 美樹は枕元に置いた ジュジュビーの角型ドレスウォッチを手にとった。

 全十三章で、ふたケタになってからストーリーがドトウのように流れ出し、併せて、今はなき西口屋台街で、医者から酒止めないと三年で死ぬって言われたエーンと泣くオッサンや、掃部山は井伊直弼由来というウンチクや、美味しんぼにも登場したらしい骨のない魚料理“煎醸鯪魚”など、普通の人にも分かるネタが流れ出します。作者は書きたくなかったろうなあ。船上パーティーなので、美樹チャンも特徴のない夜会服になっちまうし。

ケンヒー - Wikipedia

残念ながらこの小説の続編は出版されなかったですが、こうやって文章を引用しても、どういう服装なのかサッパリイメージ出来ません。残念閔子騫。でも作者の強い力は感じました。本書をタイトル検索しましたら、読売小町で、本書の書名が思い出せないという書き込みが出ました。どこかで覚えてる人がいる、そんな小説だと思います。以上