フォークナー全集 (富山房): 1984|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
フォークナー全集. 25 - 国立国会図書館デジタルコレクション
森岡裕一さんの『飲酒/禁酒の物語学 アメリカ文学とアルコール』に出て来た『エイカリウス氏』を読もうと思い、それが入っているので借りました。装丁 笠原須磨生
オマケの「月報21」には、宮林太郎と言う人が、フォークナーとヘミングウェイをアメリカ文学の二柱として、どちらもしんじまってアメリカ文学は停滞だわいな、と書いていて、それと、林文代という人が、フォークナーの素材のなかで、水と夢に特化した批評を書いています。あと、岡本文生という人が、フォークナーの南部もの頻出キャラについて、登場人物解説をしています。
巻末は訳者解説を小野清之さんのほうが書いていて、そこに初出年代と初出誌の記載があります。あと、大江健三郎ならぬ大橋健三郎という人が「体験と小説」と題して、これもヘミングウェイとの比較を書いています。
1984年の本ですが、検印があった。
英文タイトルは下記から。
<目次>
「妖精に魅せられて」"Nympholepsy" 小野清之訳 1925年完成 1073年発表
⇒初期の習作ということでしょうか。性欲の抑圧の話。
「フランキーとジョニイ」"Frankie and Johnny" 牧野有通訳 1925年完成 1978年発表
⇒貞操を大事にしなかった娘の話で、ミッキー安川の米国滞在記を思い出します。妊娠だけはさせちゃいけないというキリスト教風土。でも小説だとこうやって、そこから漏れる例ばかり描かれるので、それだけ読んでると本質をみまがう。
「聖職者」"The Priest" 牧野有通訳 1925年完成 1976年発表
⇒これも性欲の抑圧の話。せいしょくしゃだけに。
「密輸船に乗りしころ (I)(II)」"Once Aboard the Lugger (I), (II)"牧野有通訳 1973年発表
⇒船長が絶対禁酒主義者というのが目につきました。薬と同じ理屈かと。
「ジルフィア・ガント嬢」"Miss Zilphia Gant" 小野清之訳 1928年完成1932年発表
⇒母親の支配と独身の話。
「倹約」"Thrift" 小野清之訳 1930年
⇒軍隊のわらしべ長者の話。正直者の話ではないです。
「砂漠の牧歌」"Idyll in the Desert" 小野清之訳 1930年1931年
⇒南部の田舎に出来た都会人用結核療養個室コテージの話。あるんですね。
「ニドルの妻」"Two Dollar Wife" 牧野有通訳 1933年1936年
⇒結婚証書は、然るべきすじから2$で購入しなければならず、それを購入したが結婚自体は見合わせることにして、でも名前書いちゃったさ、という話。
「ある牝牛の午後」"Afternoon of a Cow" 小野清之訳 1937年1947年
⇒フォークナー先生のところでいつも代筆してる書生が書きました、というスタイルの小説。こういうアホ芸もやるのかと思いました。フォークナーという人は。
「エイカリウス氏」"Mr. Acarius" 牧野有通訳 1953年1965年
⇒あるインテリが形而上学的な理由からアル中病棟に安逸を求めて逃げ込もうとし、遊人友人の医師の手を借りて富裕層向けのそこに入院するが、さっそく古株患者で隠し酒のプロと、酒瓶持込手引きのため常時閉鎖病棟の下で待ち構えているプロ女性につかまり、さらにそのアル中病院は、禁酒断酒療法になる前のそれで、適正飲酒の訓練うんぬんなのか、毎晩一杯ずつ寝酒のナイトキャップが供給されるという、日本でも古老から聞いたことがあるような病院で、そのスラップスティックの混乱のうちに彼の厭世もどうのこうのという話。ぜんぜん南部じゃないし農村でもない。さらにいうと、ユーかイーかエッチから始まる綴りかと思ったエイカリウスさんが、エーから始まる綴りで驚いたという(私が)
「南部の葬送-ガス灯」"Sepulture South: Gaslight" 牧野有通訳 1954年
⇒銀の匙を咥えて幼少時のお葬式を回想する話。
「朝の狩り」"Big Woods Race at Morning" 小野清之訳 1954年1955年
⇒爽やかで清々しい山の日々の話。本書解説に、フォークナーもその上に乗っかった、シャーウッド・アンダソンからの小説の系譜に、中上健次の革パンの男とその息子シリーズがあげられてますが、この小説はそのまんま紀州山麓のやまがの朝と朝餉を炊く煙としても、通用する気がします。
「おとりの豚」"The Mansion Hog Pawn" 牧野有通訳 1954年 未発表
⇒もめごとの話。私のところのもめごとも、このようにシンプルに解決すればいいのにと思いました。散弾銃は、もっと威力があると思っていたのですが、このように弱い散弾銃もあるのでしょうか。むかし鹿うちとかやってた人の家で見せてもらった散弾や薬莢は、もっとすぐれものだった気がします。この小説のだと、豚を威嚇するくらいの効果しかない。でもこの小説のでも当たりどころが悪ければ失明くらいはするだろうと思いました。
最後のふたつの話はまだ読んでる途中なので、追記予定です。⇒2019/1/25 追記しました。
Uncollected Stories of William Faulkner (Vintage International) (English Edition)
- 作者: William Faulkner
- 出版社/メーカー: Vintage
- 発売日: 2011/05/18
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
以上