『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』読了

 ビッグコミックオリジナルの保護観察漫画で、主人公が私鉄車内で読んでいた本。

村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝

村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝

 

 読んだのは二刷。あちこちの写真の出典一覧は巻末にありますが、装幀者の名前が何処に書いてあるのか、探し出せていません。カバー折に略年譜つけたり、中表紙も実にイイふいんきなので、誰の仕事か分からないのは残念です。

タイトルのことばを、伊藤野枝が言ったのかと思ったら、伊藤野枝の小説『白痴の母』『火つけ彦七』を読んだ作者が心の赴くままお筆先として書き飛ばしたことばでした。ほかにも、あしたのジョーの主題歌とか、キルビルルーシー・リューの台詞とか、いろんなものから自由自在に文句をもってきてつむいでいます。巻末の作者プロフを見ると、長渕剛が好きだそうで、コンサートで腕が上がらなくなる迄上下動を繰り返しても、それは強制じゃない押しつけじゃない、はおいといて、乾杯とかとんぼの歌詞があるかなと思いましたが、ファンキー末吉と違って、ジャスラックと戦うのも岩波さんにあれだしみたいなことなのかまた別の事情なのか、歌詞はありません。もしくはあっても私は気づきませんでした。長渕の歌とんぼと乾杯以外知らないので。ド根性ガエルの歌詞っぽいのもあったような気がしますが、ド根性ガエルの娘とこの本と、どっちが先だったのか、作者はド根性ガエルの娘知ってるのかどうか。

前半はひらがながおおいので、いまどきめずらしい手がき(林真理子も万年筆派でそうらしいですが)なのか、あるいはじすうかせぎかと思いましたが、後半漢字が普通に増えます。AIによる口述筆記とかしたんだろか。まさか。

ビッグコミックオリジナル岩波書店のマーク見た時は、さぞ立派な本なんだろうと思いましたが、手に取ってみると、ソフトカバーで、日経BPダイヤモンド社リトルモアから出ていてもおかしくない本(ウソ)岩波は、下記も、確かに類書はないけど、それほんまに岩波はんでださはってええんでっかと思ったものです。出版不況。 

中国温泉探訪記

中国温泉探訪記

 

伊藤野枝 - Wikipedia

1979年生まれの作者36歳の著書。大杉栄が死んだ歳よりふたつ下。三年ぶりに出来た彼女は作者の著作もぜんぶ読んでるそうで、じゃーやっぱアナーキストか。前カノはおない年の看護師で、六本木ヒルズで生き方の違いが露見し、約束は破れといいつつ破ると相手は激怒するので新宿らんぶるで土下座したそうですが、高田馬場のらんぶる跡地で土下座してほしかった。今カノが大杉漣、もとい大杉栄伊藤野枝と同じ10歳差かどうか知りませんが、やっぱそんなことを思う年齢なのかと。野垂れ死に孤独死上等といいつつ、相互扶助に甘えもし隊。

病気になっても家族を医者に見せられどうのという個所があり、やっぱ国民健康保険払ってないのかなー、非常勤講師は大学で保険強制加入にならないのかな、年金まで聞くつもりはないけど、どうなんだろうと思いました。知りあいで国保入ってなかった人が会社に入って保険証もらって、奥さん泣いてましたよ。娘を医者に見せられるって。その後別れるんですけど。女性が以下略で。

頁ixの野枝の墓は、どうやって動かしたんだろうと思いました。でも墓石だけで、骨は埋まってないんですよね、文脈からすると。ちがうのかな。墓石だけだったら、信長が築いた安土城の石段にも使われてるし、中国の農村部なんかかつては文革で迷信は捨てろみたいな感じで、小川の橋にされたりしてましたし、墓石。

伊藤野枝の父親は働かないのに腹いっぱい食べる人だったとか。で、野枝も腹いっぱい食べる子で、四キロ先の島まで海流に負けずに泳げる子だったとか(普通は溺れて死ぬ)働かない親に育てられて、親の働く姿を見ないで育つこどもの話は、東直巳の小説に出て来るなーと思います。野枝の母親は身を粉にして働いていたわけですが。

石の写真の前のページで、アナーキストはアカでなく黒、という作者の指摘がありますが、黒はムソリーニの黒シャツ党に取られたと思います。ファッションの語源になったイズムに取られたんだから、アナーキストは泣き寝入りするしかないかなと。それがイヤなら抵抗しないと、アナーキストじゃないとも思いますけど。

頁59で平塚ライチョーが野枝の料理というか素材と調理法(鏡を俎板にしたり、金ダライで鍋をしたりする)をこきおろすのを引用してから、頁108で大杉栄が野枝の料理を絶賛するくだりを入れたりしてますが、はたちそこそこの小娘から、二十代後半まで時間の経過もあるので、料理上手くなったと考えてもいいと思います。こどももたくさん産んで育ててるし。おしめは洗わなかったとあり、21世紀はでも誰も洗わなくなった、技術革新スバラシイですねと思います。人間を労苦から解放してくれる。

そう、作者は中東の笛みたくどの論争も野枝の勝ちにしてますが、やっぱし負けは負けじゃいかと思います。野枝の時代の堕胎はリスキーでしたが、60年代くらいの技術、そう、堕胎でなく「中絶」という言葉で表現される時代だったら、野枝はオノヨーコ並みにバリバリだったと思います。そのほうがラクだし。アナーキストとエピキュリアンを私は混同してるのかな。あと、産後の肥立ちが悪かったら、野枝はぜんぜん違う展開になってたと思う。遠泳で培った頑強な肉体。

頁110で、野枝は労働者に指図されるのもキライで、労働者ばっかしの銭湯女湯ではまったく受け入れられなかったとあります。さもありなん。頁129で、野枝は機械と書いてるのに、作者が、野枝は機械はミシンしか知らないからここで書かれてる機械はミシンのことだ、と決めつけて話をおもしろくしてます。いいのかよ。遠心分離機とかスシロボットかもしれないのに(当時ありません)

www.shogakukan.co.jp

なんでこの漫画の主人公がこの本を読んでたのかかいもく分かりません。いつか漫画で解き明かしてほしいです。

墓石の写真撮った人のプロフが分かりませんでした。下記の人。

xn--n8jub3ccob1a5ex127cqzwaia.jp

見沢知廉読んだ時と同じ感触です。この本は。通ずるものがあると思います。以上