他の方のブログで知った小説。初出は「読楽」2014/9月~2015年7月号。加筆修正。
読んだのは単行本。装画:杉田比呂美 装幀:AFTERGLOW
あさのあつこといえばW浅野ではなくてバッテリーシリーズで、私は一巻しか読んでないのですが、基礎練とかランニングとかサボると、なんとなく調子でないというか、ねばならぬをし残した後味の悪さがあって、なのでどんなに忙しくてもルーチンワークをこなしてしまう主人公に、オバトレ症候群に気をつけろっ!!と心の中で叫んだものです。
のー先生の「フットボールの憂鬱」二巻に、フィジコによる超負荷→超回復の理論が描かれてますが、(しかもクラブは諏訪ドラクーンとかいうクラブで、監督はポイズン似)クールダウンとか、休む時は休むのもプロのうち、とかを思います。
なんでそんなことを考えたかというと、この小説はハウスキーピングの話で、最初は「HKって書いてあるのにホンコン出てこないじゃねーか」と書くだけで感想終わらせようと思ってたのですが、ワーホリとは言いませんが、一般家庭の清掃業務もまた、単純反復の肉体労働の要素が大きく、それって…と思ったりもしたのです。しかし、単純反復作業、適度な負荷が筋肉にかかると尚可、は、私も昔池の水ひとりでぜんぶ抜く、などを何度もやってその度にバカみたいな達成感と、あと意味もない焦燥感が汗と共に消えてゆくあの素晴らしい感じを体験してるので、それが描かれているだけで、さすが作者は分かってると思いました。きゅっきゅっと、窓を拭いてゆくだけで、こころがととのってゆく。
頁166
「えっ、先生、スランプだったんですか? そんな風には見えなかったですけど」
「うん、症状が軽いとね、わりに気が付かないんだ。本人も気が付かない振りをして、妙に陽気になったりしちゃうからねえ。でも、その症状を放っておくと、どんどん悪化しちゃって、もう、どよーんとなっちゃうの。そうなると、なかなか快復しないから、厄介。今回は早目に気が付いて、早目に手が打ててよかった」
「あっ!」
「え? なに?」
「チーフ、もしかして、先生に窓ガラスを磨かせたのって、スランプ脱出のためなんですか」
日向が瞬きをする。美菜子を見詰め、ふわっと笑んだ。いろんな笑い方ができる人だ。
「当たり。ミーナ、いい勘だよ。身体を動かして汗をかいたり、普段、絶対にやらないことをしたりすれば、意外に心身が軽くなるの。先生には効果的な脱出方法かな」
これがニューヨーカーならスカッシュとかで汗かくんでしょうけれど、スカッシュなんか、京都の元田中のジムで話聞いたことがあるだけです。あと、この小説の構造は、坂木司の和菓子のアンと同じで、ツンデレのオネエ系美形男子と、彼にイジられっぱなしの純なおなごのかけあいで話が進みます。ただし、おなごにはオットがいますし、一姫二太郎のこどももおります。美男子はふつうの暮らしが営めない天才肌の汚い部屋ぐちゃぐちゃ野郎。ふたりとも和菓子のアンより、2ダースほど年長です。そういう設定書の売り買いでもしたんだろうか。あんさんもまあようそない人聞きの悪いことぽんぽん思いつかはりますなあ。
あと、ネタバレでいうと、「殺人者の献立表」は作中に登場する架空の事件名で、こけおどしです。もうひとつ「魔女の腐乱死体」事件も登場します、同様に架空で。
以上