公益財団法人大同生命国際文化基金 アジアの現代文芸 MYANMAR[ミャンマー]⑧『短編集 買い物かご』読了

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買い物かご : 短編集 (大同生命国際文化基金): 2014|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

これから読みます。以下後報【後報】

装幀 山崎登 挿絵 樹下龍児

冒頭に東外大名誉教授の方による訳者紹介、作者まえがき、訳者あとがき、両者の略歴あり。

Khin Khin Htoo - Wikipedia

上記英文版ウィキの本書タイトルは"Zay Chin Taung Wuttu-to Myar"で、本書の版権等記載ページのアルファベットタイトルは"Zae Chinn Daung Wuhtu Do Myarr”です。ビルマ語とミャンマー語の違いでしょうか(そうではない)ビルマ語表記はどちらも同じ「ဈေးခြင်းတောင်း ဝတ္ထုတိုမျာ」でゴワス。このミャンマーの文字をグーグルで日本語に自動翻訳すると、ちゃんと「買い物かご」になります。21世紀おそろしい。

 訳者あとがきでは、ビルマということばを、より現地発音に近い?バマーと書いていて、ミャンマーとの違いは、ニホンとニッポンのようなもんです、と、バッサリ唐竹割りしてます。韓国と朝鮮の違いではなく、支那と中国の違いでもない。訳者の方は専門が、何世代も前からビルマに土着するムスリム、バマー・ムスリムと自らを呼ぶ人々だそうです。巷間よく報道される「ロヒンギャ」は政府筋の言い方だとバングラディシュなどからの不法入国回教徒だったような気がして、その言い方でない自称の人たちというのは、これは報道されてるんかいな/されてるかもしれないが私はあんまり新聞読まないしニュースも見ないので知りま千円と思いました。

ミャンマー土着ムスリム―仏教徒社会に生きるマイノリティの歴史と現在 (ブックレット アジアを学ぼう)

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 でも本書はそれとは関係なく、渡し船の船頭の父とマーケットの小商いの母に育てられた子だくさんの兄弟のうち、大学に進んで中流文化人の仲間入りして階層脱出した著者が、往時を回想した小説のうち、市場と最もリトルな貨幣経済にまつわる事象をおさめた作品をまとめた短編集です。どこの国も、爪で火をともすような、儲けから翌日の仕入れ代を捻出して自転車操業の日々を描く小説はある程度似てくるもので、タイの『東北タイの子』や『中国じいさんと生きる』を思い出しました。

タイの類書とビルマの本書の違いは、タイですと、商売が上手い華僑やベトナム人が市場でのさばってる様子が描かれてしまっているのに対し、本書はビルマ人しか出てこない点です。シャン族料理とか、ちらっと国内民族の多様性は匂わせてますが、かつて社会主義軍政で華僑を排斥して国外追放したため、ビルマ組の華僑は負け組と言われた、その影響が本書にあると言ってもいいかもしれません。この大同生命ミャンマー小説シリーズの別の巻で、江沢民以降の膨張中国とその民がミャンマーにも浸透して、幼なじみが中国商人尖兵のワイフになって豪邸に暮す話があります(おさななじみはもうかつてのおさななじみではなく、箸を使って食事をする女性になっているという)が、本書にはそういう話もありません。わたし的には、華僑もインド人も出てこない東南アジア小説は、ちょっとさびしい。

頁54に、マ・タヨウッマ(中国人女性という意味だが、色白の人にも使う)と、ドー・カラマ(インド人女性という意味だが、色黒の人を指すこともある)という注釈があり、チベットもギャミとかギャワとかいうのと同様、両亜大陸にはさまれた地域の人々は、自然両民族を意識した語彙を持つようになるのだなと思いました。

また、頁193に、純粋なビルマ人が開いている中華料理店、というフレーズがあり、読んでてのけぞりました。純粋な中国人が開いているタイ料理店は欧米にけっこうあるそうですが、中華料理店はナニ人が開いてもいいような気がします。

本書収録作品の発表時期は、'90年代がふたつで、後はみな2000年代前半です。スマホ普及は2000年代後半ですから、スマホによる社会変動を描いた作品はないということになり、そこはなんとなく残念でした。スマホビルマ人の日常をどう変えたか、ちょっと読みたかった。

 市場、マーケットでござとかカートの上にさして新鮮でもなさそうな生鮮食品をならべて売ってる人たちはカネはないけど気楽な人生かというと、深夜二時三時起きで問屋街マーケットに行って卸売りから商品を仕入れて、乗り合い馬車やバスで自分が小商いをしている小マーケットにおもむく場面(頁57)を読んで、えっそんな長時間労働なん?と思いました。そんで、私も中国で天秤はかりを買った時、併せてインチキのやり方を教わったのですが、同じような新米商人のサマを見破る話があり、見破られたシロウト商人が、仕入れ値考えると小売りはまるで儲けが出ない、インチキ分だけが儲けになるので、見逃してくれよん、と反論したりします(頁105)インチキ分だけが儲けになるって発想は、私にはありませんでした。一国一城の小商いとかやめればいいのに、工場とか探して働きよし、そううまくはいかないのかな。

以上です。(2019/4/13)