「ムアラフ-改心」"Muallaf" "The Convert" "改心"(シアター・イメージフォーラム 没後10周年記念 ヤスミン・アフマド特集 Yasmin Ahmad Retrospective)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/3/31/Muallafsg.jpgセペットの感想で、私は監督を、かなり強引グマイウェイな人ではないかと書いたのですが、この映画は、オーキッド三部作を撮り終えた監督が、自分を分析するために、あえて実際の自分の家族像の真逆で作った映画ではないかという気がします。イギリス留学では、ニューカッスル大学で心理学を学んだとプロフにある監督ですので、そういう実験を自分に課すことで更なる上昇を試みてもおかしくない。

一卵性母娘だった母はステップマザーとなり、優しく寛容だった父はDVで娘を支配するマフィアになる。性格の違いなどから、性格が違い、得意な学科も違い、体格も運動能力もおそらく違ってて、ので往々にしてバトルがある姉妹は、百合にしか見えない姉妹となる。

このショートヘアのお姉さん役の女優さんがオーキッドとは、観終えても気づきませんでした。日記書いてるうちに分かった。ただ、髪を切られる理由は、現実にそういうことがあってもおかしくないと思いました。

劇中の妹さんは、サヴァン症というわけでもないのでしょうが、暗唱する古典の中に、日本語字幕では「老子」、英語字幕ではタオツェーチンと書かれた言葉があり、これは"道德经"ピンインだと"daodejing"が、ウェード式だとそう書くと、後で調べて分かりました。

Tao Te Ching - Wikipedia

教師役の人は、海老蔵みたいで、イポとペナンを毎週末往復するのは、実はけっこう大変ではないかと思いました。基督教と華人の親孝行のあいだを行き来する存在。猫の餌がプシキャットフード"pussycat food"だったりするのは、猥褻な洒落かと思いましたが、みな真面目でした。

Muallaf - Wikipedia

改心 - 维基百科,自由的百科全书

ヤスミン・アハマド - Wikipedia

没後10周年記念 ヤスミン・アフマド特集 Yasmin Ahmad Retrospective | シアター・イメージフォーラム

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2007年 第5作
ムアラフ-改心 Muallaf
2007|カラー|出演:ブライアン・ヤップ シャリファ・アマニ
東京国際映画祭アジア映画賞スペシャル・メンション
父を嫌って家出したマレー系の姉妹。叔母の所有する空き家に暮らす2人は、中国系のキリスト教徒の青年教師と出会う。彼は子供時代のつらい記憶から宗教を憎悪していたが、信仰を大事にする姉妹に惹かれるうち、自分を前向きに変えて行く。
提供:Orked Binti Ahmad 協力:一般財団法人コミュニティシネマセンター

 気になったのが、姉妹がコーランの研究に際して、アラビア語の学習の要否を検討する場面。精神を学ぶのだから原典に当たらずとも、という考えで、アラビア語に向かわないのですが、これはおかしい。アッラーアラビア語で話したのだから、神の意志を知るためには、アラビア語を学んでアラビア語コーランを読まなければならない。これはムスリムの鉄則のはずで、岩波文庫の翻訳読むのは異教徒なわけですが、何故監督はアラビア語に入ろうとしないのか。老子まで出してくる監督なのに。

ひょっとしたら、これが監督のマルチカルチュラルナントカの限界ではないかと考えます。なまじイギリスで学んで英語堪能な、欧化したユーラシアンであるばかりに、神学校でアラビア語を学び、アラビア語コーランを斉唱する、ともすればファナティックになるマレー人たちの世界には入れないのではないかと。だから映画に出す。グブラに登場する若いアホンの夫婦のように。海を越えてインドネシアに行けば、漢字の看板を出すことも認められない少数民族華人は、自家用車の後部に"I LOVE 💛 ISLAM"のステッカーを貼って、暴徒や嫌がらせに遭わないようにしている。その暴徒側には立てない。他者への理解はそこまで及ばない。

この後遺作となるタレンタイムでは、モスクの中庭でひとり祈る場面や、これまで登場しなかった多民族国家マレーシア第三の民族であるタミル人とムスリムインディアンの反目まで一気に描かれます(「細い目」のラスト近くに一人インド人は出るのですが、主要キャラとしてインド人が出るまでにはとても時間がかかった)アラビア語という、マルチリンガルヤスミンアハマドの弱点は、タレンタイムでどう昇華されたか。

マレーシア映画の母 ヤスミン・アフマドの世界――人とその作品、継承者たち (シリーズ 混成アジア映画の海 1)

マレーシア映画の母 ヤスミン・アフマドの世界――人とその作品、継承者たち (シリーズ 混成アジア映画の海 1)

  • 作者: 山本博之,秋庭孝之,及川茜,金子奈央,篠崎香織,宋鎵琳,西芳実,野澤喜美子,深尾淳一,増田真結子,光成歩
  • 出版社/メーカー: 英明企画編集
  • 発売日: 2019/07/31
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 監督の母方の祖母が日本人だったというと、実は私はすぐ、からゆきさんではないかと考えてしまいます。『ザンジバル娘子軍』でも、マレーの何処かで、ひかしてにょうぼにしてくれたのはマレー人、みたいな記述があったはずで(インド人だったかもしれない)実際どうだったのか。監督ご本人がなくなられたので、確かめるにも、ご家族ご兄弟に聞かねばなりませんが、分からない気がする。本には書いてあるんだろうか。

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以上

【後報】

タレンタイムの後、日本人の祖母を映画にして、そして、ムクシンとセペットの間になる、小学生の頃の華人少年との思い出をいよいよ映画にする、そんな計画があったとして、亡くなってしまう、残念だけれども、誰かが遺志をついで、その人の多様性の物語をつむいでくれたら。そう思います。合掌。

(2019/8/21)