「金子文子と朴烈パクヨル」(原題「박열」)"Anarchist from Colony" 劇場鑑賞

だいたい上映館が一巡したので、もう劇場で視る機会はないだろうなと思っていたら、よりによって九月一日の週にシネマリンでやってくれたので、見に行きました。三十人以上入ってましたが、その次の京マチ子のほうが入ってたかも。とまれ、新作だけを追っかけずとも、クレしんとかコナンとかもかけつつ、時間をあけて、例えば、朝日新聞が八月初旬にマッチポンプで煽った後でなんとなくかけてみるとか、そういう映画館の在り方もありだと思います。

どの役者さんも、日本語がぎこちないというかハングル訛りがあるように聞こえる瞬間があって、それは日本人の役者さんの時もそうなんですね。耳なんてそんなもんです。ただ、明らかにハングル訛りの日本語を喋らせようとする場面と、そこは意識させたくない場面があって、さらに、日本語指導の人が複数いて、気が弱い人でも混じっていたのか、魂のこもってない棒読みでもおkしてしまった箇所があったと思います。文法だと、たとえば、

 ◯ のぞみどおり

 ✖ のぞむどおり

 ◯ のぞむとおり

私も意識しないで喋ってますが、連用形だと後ろが濁って、連体形だと濁らない、がごっちゃになってるというか、発音指導の先生が、どっちがどっちか分からなくなったが正直にそれを言うとメンツが潰れるので、適当にごにょごにょとした発音で言わせた、部分があったように、思います。

主演女優さんは、日本で幼少期の一時期を過ごしたこともある韓国人だそうですが、インターナショナルスクールでも行ってたのかと思いました。表情の付け方の多様性や、ハスッパな日本語が、どのような交友関係のもとで形成されたのか、想像しても、それくらいしか思いつかなかった。あと、知り合いに似てました。あの女性の化粧は、この辺意識してたのか。

映画『金子文子と朴烈(パクヨル)』公式サイト

この主演女優さんのハングルは、母音過多の日本人のハングルで、しょうがねえだろうそういうはっちょんしか出来ねえんだから、と私も彼女の肩を持ちそうになりました。韓国人の女優さんなんだから、もっと自然なハングルも当然喋れるわけで、この母音過多のハングル、わざとですよね。パッチムがくれば母音。余り流暢でない在日僑胞 / 僑朋(どっちの漢字か忘れました)の末裔の人とかがもし見たら、どう思ったろう。

朴と共に死ねるなら、
私は満足しよう―――
韓国で235万人動員を記録した、激しくも心揺さぶる真実の物語。
1923年関東大震災後の混乱の中、
囚われたふたりは、愛と誇りのため、
強大な国家に立ち向かう

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https://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/d/d2/Anarchist_from_Colony.jpgいろいろ時代考証がおかしいのかおかしくないのか、チョンマゲ帯刀の大陸浪人みたいのが、オデン屋で主人公たちに絡んできたり、俥引きが、明治の写真みたいな水をはじく油紙を貼った笠をかぶったりしてます。ご愛嬌かな。柄本佑みたいな顔の主人公の名前、リエゾンして「パギョル」にならないのだろか、なんでパクヨルなんだろか、と不思議でした。上記トレーラーでも、冒頭「わだしは犬ころである、この詩誰が書いたの」とふみこすが聞くと「パギョルリラゴォ~」とチングが答えてるし。

ただ、韓国風にフルネームで呼ばず、苗字だけ「パク!」「パク!」とふみこすが呼ぶ音の響きは、日韓どちらの耳にもここちよいのではないかと思いました。ボインボイン、母音キラー♪ 実際日本女性がそういうふうにパートナーを呼ぶわけではないですけどね。ファンタジー。彼氏の姓だけを「山田!」「山田!」「鈴木!」「鈴木!」と呼ぶ女性は見たことない。名前ならありますよね。京都サンガの試合に行ってた頃、しょっちゅう「チソン!」「チソン!」と女子サポが連呼してた。「いや~ん、チソンお肌ツルツルやん」川崎でも「テセ」「テセ」ゆってたし。毎日ボク、眠れない、やるせない、(安英)学學学。リャンヨンギでしたか、2ちゃんで、クッカ(調理師ではない)デピョ招集のチョナヘッソッソなんとかがあると、ハングルモルゲッソなんとか、のふりをすると書かれたりして。

このチングの人は、すごむ時の言い方も、日本語も、ハングンマルも、すごく、我らが他者なる隣人Ⓒ四方田犬彦な感じがしました。見知った韓国人のイメージ。柄本佑は、検事の取り調べの時、最初相手に歳を聞いて、相手が年上なのを知ると、それでも、ためぐちにしようやと自分勝手に決めてしまう場面が、年長者を敬うのが韓国人のはずが、なんなんだあいつは的に、すごくよく日本人が出会うあるタイプの韓国人ぽいのですが、韓国人同士でも、年長者が空気読みすぎだったりおどおどしてたりと、年下なのに横柄なタイプとの組み合わせは、民族学校の部活はどうか知りませんが、徴兵制の軍隊の中では、けっこうあると思います。こういう図々しいタイプが女性に強いのは言うまでもない話で。戦前、ヤンバンの学生が内地の学校に進学して、庶民の日本人女性とデキて、連れて帰って、女性があちらの氏族社会で苦労する話は、よく聞く話で、慶州ナザレ園とかで読んだのかなあ。金素雲四方田犬彦が評した文章で読んだのか。金子文子と朴烈も、そうなってたかもしれないです。ふみこすが獄死したので、そうなりませんでしたが。park準植さんは常民かもしれませんが、知りません。

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まーでもほんと、日韓の映画は、韓国人男性と日本人女性の組み合わせばっか。いかに逆の組み合わせの「パッチギ!」が特異点だったか。だからパッチギは、その恋が破れた後のツーを作るべきではなかったと。

柄本佑が、検事がハングルを学んだ理由を喝破する場面は、そのまま鏡ではないかと。自らがイルボンマルに長けていない同胞から言われることば。朝鮮人が日本語を学んで栄達にトライする、インド人が英語を学んで、セネガル人がフランス語を学んで以下略

柄本佑が力説する天皇のくだりは、お馴染み三島由紀夫の「日本の革命の原理は天皇である」を、ふみこすがバンザイしまくる場面は、北一輝が二・二六、死刑判決の後、「天皇陛下万歳を三唱しますか」「いや、やめておきましょう」と言った逸話を、それぞれ思い出しました。作り手のスタッフの中には、そこまで当然知ってる人と、そうでない人が、混在してると思います。それもまた韓国。おおいなるみこころがどうとかいう、恩赦にまつわる最高敬語は、皇民化教育の優等生だった人のほうがぺらぺら喋れると思うんですが、もう流石にいらっしゃらないのかと。開戦の詔勅あたりの新聞読めば、もっと玄妙な語彙がバンバカ出ると思います。

自分の国の裁判官や弁護士の服装を知りませんで、この映画観た後で、ホントかよと検索しましたら、ホントでした。しかも映画の弁護士の布施辰治の写真が使われてたw もう香港映画、プロジェクトAとかの、香港人なのに英領なので巻き毛のカツラつけた法廷姿を笑えません。學刈也。

法服 - Wikipedia

金子文子と朴烈 - Wikipedia

Anarchist from Colony - Wikipedia

冒頭「金払え」の字幕にケーセッキの声がかぶる時点で、ありゃりゃと思いましたし、字幕が「強力な」で音声が日本語「スバラシイ」だったりとか、ハングルの中に日本語が混じっている時に、混じった日本語と違う日本語が字幕で出ることもありましたが、それもご愛嬌かと。虐殺数六百人と四千人の数については知らないのでノーアイデアです。訛りを調べる符丁の言葉は、他の言い回しだったような気もします。根本敬『未来精子ブラジル』では、とんでもないことばを言わせています。これがポストモダーンだ。→『未来精子ブラジル』ではなく、自警団の話は、その三部作の一作目でした。確か。未来精子創氏改名

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英語版のトレーラーを見ると、同じ映画とは思えないです。

本当に暴動を起こしたと信じてた人、逢ったことあります。余震が絶えない頃、怖くて屋内に寝れないので、竹藪なら、根がはってあるからまだ安心と、竹藪に布団敷いて寝てて、で、徒党を組んで暴れてて、物取りや乱暴があるとのことなので、自警団が結成され、しかし喧嘩に強い実戦慣れしたものもろくにいなくて、テンションが上がっている中、茂みからがさがさ音がするので、キタ――(゚∀゚)――!! と一同総毛だったら、「も~」といいながら牛が茂みから出てきたそうです。

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エロはありません。きよい映画です。原題が柄本佑だけなので、映画見始めて、しまった羊頭狗肉か、ヤラレタ、と思ったのですが、しだいにまあまあふみこすが柄本佑を食っていくので、邦人女性の名前を韓国人男性より前に置いた邦題にして、合っててよかったと思いました。ふみこすがなくなる個所では、すすり泣きが聞こえました。それ以外だと、柄本がハンストやめるくだりで、笑いが起きてました。

見なくてもよかった映画とは思いますが、韓国も少子高齢化なのに、まだこんな映画作るか、とか、現在の日韓関係は既定路線で、行き着くとこまで行くな、とは思いました。なるようにしかならない。该怎么样儿就怎么样儿 最近読んだ中国ルポで、今の中国がこんなに強権国家なのは、文革下放世代が政権を握ったからで、彼ら紅衛兵はそれしか知らないから、と説明があって、妙に納得したのと同じです。韓国はいちご白書世代が政権を担ってる。彼らの発現はこうです。多分そんな感じで。以上

【後報】

映画中、「サンイチ」を「サンニチ」とはっちょんするのも何故だろうかと思いました。韓日と羽生って、似てる発音だと思います。ハニルの宿。朝日と産経、それぞれエンドロールの協賛企業にありましたが、サンケイは、産業経済新聞と書いてありました。朝日の社旗は勿論なし。

(2019/9/5)