『さいはての中国』(小学館新書)読了

 『和僑』『バージウリウスー』の作者のほかの本も読んでみようと思い、読んだ本。

さいはての中国 (小学館新書)

さいはての中国 (小学館新書)

 

 ブック・デザイン:松田行正+日向麻梨子 本文DTP/ためのり企画 地図作成/infographics 4REAL 写真/作者

さいはての中国(小学館新書)

さいはての中国(小学館新書)

 

 サピオ連載の各記事を四倍以上膨らませた、実質書き下ろし本だとか。連載時も、見出しはサピオ調だが、本文は作者のカラーを尊重してそのままにしてくれたそうで、担当編集の誠実さに、あとがきで謝辞をのべています。

 序章でいきなり西川口探訪というか、中国人のフリして潜入取材してどこまでバレないか、という「摑みはオッケー」記事があります。金満中国人のフリをするにあたって、腕時計のみオメガの高級をレンタルして着用し、それ以外は、ユニクロのパーカーと無印良品ジーパンとアディダスのスニーカー(新品)とのこと。髪は切りたてジェルコテコテ。スマホiphone X。体形はもともと小太り。それで中国人になれるのか分かりませんが、在日華僑二世の大学生をアシスタントに雇い、ほとんど彼に喋らせるという、ある意味それなら俺にも出来るよ企画なので、KTVで黨や革命関連の馬鹿歌ばっか熱唱してみたり、シーメは私も気になっていた駅から数分のウイグル料理(本文では「新疆料理のラグメン」としている)とかを、じゅうぶんにチャイナウォッチャーたちがあなどって読み始める体裁になっています。蟻地獄のようだ。

最初が深圳の三和地区というネトゲ廃人の溜まり場で、そういうところの女神的床屋売春というかフリーの私娼が以前はこれこれのお値段だったが当局が取り締まりました残念閔子騫とか(海老名図書館に置いてあったイケナイ海外旅行ガイドブックみたく、こういう記事はネトウヨ青年も好むかもしれない)、中国の多重債務者は、当然ウィーチャットで知り合いからも金を借りまくる("红包"と称するスマホを通じた金せびりって、隅々まで普及してるんだなあと)とか、そんな記事です。何故ゲーム依存になるのかの説明が、父母出稼ぎの留守児童で祖父母の養育が放置プレイなので(主観的に)、承認欲求が満たされるのがゲーム世界だけだった、となっています。父母に育てられない農村子弟なんて、バイフェンジーイーバイ(100/100)と私は思うので、それでそう言われても。嫁さんはリストカッター

次の広州アフリカ村は、今年当局が一掃したと中国語の先生に聞きましたが、本書あとがき時点ではまだそこまでは。あとがきでは、その後、本章の経堂取材者と、ナントカペイは中国ではそこまで支払えるか、で、再度このへんにトチュゲキし、屋台や床屋売春でも使えることをつきとめたりしてます。

 続編では、アフリカの孔子学院で儒教教育を受ける黒人学生たちを取材してくれてたらいいなと思います。

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その次が、個人崇拝というタブーを復活させた習近平の、パパの陵墓と彼の下放先観光。外国人非開放地区なのか、入れてくれなかったり目を盗んでするっと入ってそれがバレて公安に捕まって連れてかれたり。個人崇拝というと、薄熙来打倒の大義名分のひとつがこれだったはずですが、打倒する側も同じことをやってるとは、日本では、韓国と中国を同一視する人がまた増えるなあ、これ読むと、と思いました。

頁84

陕西是根,延安是魂,延川是我第二故乡 习近平

個人でブラッと行くと、拘束されてリーゴウジエンディエ、ジエグオルーツー、となって帰って来れないかもしれないので(とは書いてませんが)旅行社にアテンド頼んだら、正体不明のサングラスはずさない女性が「ダオヨウダポンヨウ」みたいな感じで付いてきて、ぜってーゴンアンだよと作者は思うのですが、シーメのさい、何も言わないのに彼女はAA支しなくて、作者が彼女の分まで支払って、なんだよムカツク小气公安绝对去死吧とか、そういうアホな展開になります。

その次が、胡錦濤江沢民にはりあって習近平が地方創成を目論んで河北省の田舎町を首都移転の候補地にしたら、の現地ルポ。頁120に、ベイリーヨウの説明があります。下記みたく使うんだなと。

news.ltn.com.tw

第五章の内モンゴルの"鬼城"は私も行ってみたいです。ビエリ守山が東京ドーム何個分だろう、というくらいのゴーストタウン。利権目当てで開発だけされた開発特区。ここ、モンゴル人との会話で、「モンゴル人」だったり「モンゴル族」だったり、犹豫不定

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kotobank.jp

その次は、日本に追いつけ追い越せの、中国ラブドール工場。少子高齢化で日本の市場は先細りなので、首から上だけ国産で、下は中国に発注してる国内メーカーもあるんだとか。私は、TENGAが生んだパラダイムシフトだと思うんですが、違うのかどうか。

その次は、中国の一部と化しつつある国のひとつとして、カンボジアインドネシアが日本でなく中国の高速鉄道を選んだ時の話を思い出しました。あと、ポル・ポトヘンサムリンフン・センそれぞれの中国との深いつながりは分かりますが、シアヌーク殿下も北京とはつながっていたじゃんと思いました。あと、カンボジア人のベトナム嫌いも、中国受け入れの遠因な気がします。ヘン・サムリンは中国じゃなくてベトナム寄りの政治家だったorz

その次でズドンと中国国内の慰安婦を巡るルポ。その次はカナダの香港系が組織した、日本の戦争犯罪追求団体。油断していたので、キタ――(゚∀゚)――!!という感じ。

以下後報

【後報】

中国の慰安婦というと、はてなブログで交流のある方が紹介されていた、『蓋山西』の本を、まだ読んでないなと思い返しました。『さいはての中国』出版時点で、中国でカミングアウトしてる存命の元慰安婦は16名しかいないそうで、『蓋山西』はおなくなりになってるし、だいたい戦争中の性犯罪という位置づけで、セックスワーカーのコンビニエントガールではないという感じを、読む前に抱いています。セックススレイブといえばそうかもしれませんが。

血泪"盖山西" : 日军山西性暴力十年调查 (中国文联出版社): 2006|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

https://www.toho-shoten.co.jp/toho-web/search/detail?id=208070&bookType=ch

本书所记述的,就是山西省阳泉地区盂县周边21座日军炮台中的一个——进圭炮台诸多受害妇女中几位幸存者的惨痛经历。 

『さいはての中国』では、南京の慰安婦について、遺族肉親にインタビューを試みてますが、日本人のプートンホワでは理解出来ない江浙方言で、普通話訳者をあいだにおいてのインタビューとなり、自然、エッセンスがどこまで抽出出来たか、という話になり、日本軍より軍属の朝鮮人のほうがワルかった、という話がまず出るので、あーこれ日本人が取材したからじゃいか、と思いました。韓国人が取材に行ったら、ぜんぜん違う話になると思う。確かに"高丽二棒子"という言葉は私も知っていて、伊藤桂一でも、洲之内徹でも、大卒皇軍士官の主人公がやはり大卒で農村に潜り込んだ抗日スパイ美女に、スパイとしりつつ心を奪われてゆくが、実はもうとっくに朝鮮人軍属が彼女の弱みを握ってモノにしていた、なんて話があるので、そう言う話をまず現地でされたら、眉にツバつけてもいいと思います。

でその後慰安婦関係の施設を参観し、取材しようとしますが、日本人ということで、なかなか壁が厚かったという。

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阿嬤家-和平與女性人權館 - 维基百科,自由的百科全书

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作者が行ったのは南京ですが、検索すると、上海と台北にもあるそうで、山西にもあるんだろうかと思いました。開封に作るんなら、劉少奇が幽閉されてた家とコンボで見学するのに便利なところに作ってほしいです。開封河南省だから作らないか。

で、最終章、カナダで日本軍の戦争犯罪を追及する組織の香港系リーダーにインタビューします。

www.alphaeducation.org

で、予想に反して、ぜんぜんふつうの人だったので、作者は拍子抜けするのですが、だんだん分かってきたこととして、彼らが、ウヨサヨともに両極端な日本人としか逢っていないのに気づきます。北米日本人社会も、アイリス・チャン精神疾患でその後自裁したとは知りませんでした)の本を積極的に後押しする彼らに対し、懸念やら遺憾の意やらを評するのですが、穏便な多数派と、チャンネル桜しかみてない、チャンネル桜イコール日本のオピニオンと考えている少数派に、現地日系人社会も分裂していることに作者は気付きます。

作者は、自分で英語レターが書けないから、コピーアンドペーストしたテンプレ抗議レターを大量にあちらに送りつけるメールボムなどの手法に疑念を抱いていて、それが逆効果で、あちらの保守派の態度を強硬にして反日法案可決に力ありになると書いてるのですが、私は、まあ自分でいろいろ学びながらやるほうが、やらないよりは異文化理解の点でいいんじゃん、と楽観的です。

上記日本軍戦争犯罪アソシエーションの幹部が、ぽろっと、最初は正しく歴史を理解するためのいいことしてると思ってたけど、こんなに麻烦というかめんどいとは… と本音を漏らす場面がよかったです。

で、右でも左でもない作者とアソシエーション幹部は、フェイス2フェイスで語り合ったせいか、分かり合えて、メールベースでの交流を続けていたのですが、ある時点から向こうから切られて、不審に思って、彼らが来日の折に接触すると、中日友好文士の日本人たちが彼らにバリアを貼っていて、「あの日本人は偏向雑誌サピオに書いてる悪い日本人、オッスオラ極右ですよ」と告げ口をしていたことが分かります。内憂外患、右を見ても左を見ても敵ばかり、妻も敵なりは宮脇純子の宿六の著書。作者は彼らの誤解を解きますが、

頁268

 言語の通じない他国に接触する際に、特定のイデオロギーを持つ陣営のチャンネルだけを理解の窓口にする行為は危うい。AE側の「誤解」を解きながら、つくづく自省を込めていっそう感じたのであった。 

 もうひとつ方法はあって、大多数同様、関心を抱かず無視して生きるという方法です。関わらない。先行する人たちから承認されたいという欲求がなければ、それでもいいかも。でもふと摩擦する文化圏に属する相手と交流すると、論破されたり、取り込まれたり、最初取り込まれてその後論破されたり、結局論破されます。テンプレメールボムが出来るようになれば反論出来るわけでもないので、作者のように、本来多数派に属してるはずなんだけど、他の人があまりにめんどいのがイヤで無関心を装っているので、少数派だが声高の左右両派(右は少数派でもないかな?)に挟まれてヤイヤイ言われてつきあげられて、の茨の道を歩む人士に、エールを送って、終わりにします。しかし最後の章は面白かった。『和僑』で、古希を過ぎて中日友好人士からネトウヨに華麗なる転身を遂げる女性を描いた女性を描いた作者ならでは。

でもこういう記事って、むかしはサーチナ(中国情報局)とかレコチャイ(レコードチャイナ)とかで発信してた気がするのですが、両方とも潰れたんでしょうか。検索してません。以上

(2019/9/10)