『ランチ酒』読了

裏表紙の絵が気に入ったので借りました。

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 装画 agoera 装幀 名久井直子

ランチ酒

ランチ酒

 

 読んだのは同年12月の三刷。早い。これが裏表紙そのままに、主人公の職業を表す『見守り本舗』的タイトルだったら、この成功はなかった気がします。私はいつも仕事に持ってって休憩中に読む本を、食堂の食器棚のマイスペースのドンブリの上に置いておくのですが、今回は珍しくタイトルに二人ほど反応した人がいました。どちらも、孤独のグルメを想起する、というものでした。

ランチ酒

ランチ酒

 

祥伝社ウェブマガジンに下記連載され、それはそのまま残っていて、読めます。⇒うそです。加筆訂正前の第一話のみ読めます。 

ランチ酒|コフレ|祥伝社WEBマガジン

まったく余計なことですが、上の裏表紙画像を検索した時(本当はアマゾンの画像でなく、祥伝社編集部のツイッターから引っ張りたかったのですが、うまいこといかなんだ)作者の2018年とか2019年のインタビュー画像が出たのですが、過去のものも混入している気がします。第十四話って関係あるのかなあと、本当に余計なことを考えました。

honsuki.jp

hon.booklog.jp

www.shosetsu-maru.com

全十六話で、すべて実在するお店が登場するそうで、そういうまとめブログやサイトも速攻検索で出ます。が、本書では実名や価格を出してません。一期一会だし。第一話の、牛タタキの肉丼は、ローストビーフでなくタタキというのが強盗秀逸と本編にも書かれていますが、ナマ肉なので、保存など神経使うだろうなと思いました。また、主人公が、入店前、いちおうスマホでグルメサイトの評価などを確かめる場面は、逆にそういうの見ないで入店する方が不自然だと私も思いました。新宿でルミネと戦ってる?店でやっと私は実在の店なんだなとぴんと来たのですが、ここの客層はそんなに昼酒率高いのだろうか。

なぜ主人公がランチ酒なのかというと、徹夜で顧客のナイトライフを「見守る」仕事で、仕事明けにその都度異なる訪問先から駅前商店街に出ると、ちょうど昼メシ前の開店時間の十一時で、行列店もそれほど並ばずともゲット出来るし、自分は明けであと寝るだけなので寝酒代わりにいっぱいもやってしまおうという、そういう話です。

世の夜勤がそんなに遅く明けるわけがないので(モーニングに間に合い、朝蕎麦にギリ間に合わないくらいが私の勤務)、そのへんのボロが読者につっつかれ、ウェブ連載のリフレクションの速さで、主人公が小一時間二時間、時間も潰さずにピッタンコランチ営業開店前に店に辿り着けるのは今回のバヤイこういう展開だからなんである、みたいな説明がときおり挿入されます。まー朝昼抜いて夜ドカ食いすると太りますが、それの昼夜逆転、という。

主人公の職業はスキマ産業でよく分からない仕事ですが、離婚後、同じく上京してる北海道の同級生が、親が代議士の一族でなんか東京でそういうよく分からない仕事をしていてもいい存在で、彼に拾ってもらうという話です。オレオレなどの隠れ蓑ではありません。そんななので収入も知れてるようで、昼酒込みのランチ以外は自炊とあります。まーそうですわね。作中、下記マンガと似てるねという発言があり、主人公もその漫画を読むという入れ子の展開があります。

 主人公はバツイチで、シングルマザーで娘を育てるのに自信がなかったので、元夫の二世帯同居家族に育ててもらっています。元夫の母との同居が離婚の婉曲な原因であり、娘を育てるかいしょうがないことが彼女の飲酒原因だったりしますが、でもさらに養育費毎月払ってる立場に比べればマシ、と男女共同参画社会的発言をしたら、逆襲食らうこと必死でしょうか。昼酒で度が過ぎて、足腰が重くなって沈んで立てなくなって、家に帰れないとかまでのことは幸い起こりませんでした。よかったよう。ネカフェに泊まる話が一話ありますが、それは「見守り」業務に失敗して、モンスター顧客に追い出されるから。

主人公がそもそも結婚したのは、初めてのホテルで避妊に失敗したからであり、結婚してみたかったからであり、自分が二十代前半で相手が三十男で、合コンの員数合わせの年上男に話しかけられてであり、しかも相手は自分と付き合う前から自分と同年齢くらいの職場の後輩とつきあっていて、物語が進むにつれ、その女性との再婚、娘は彼女を受け入れている、という展開になり、という、仕事も恋も流される、主体性のなさがあり、それを酒で逃避する人生から、どう背筋を伸ばすかというテーマが、たぶんあったのでしょうが、よく分からないまま人生はハッピーです。

頁13、黒こしょうは「がりり」とかかる。

頁127、パクテーは現地では朝食とあり、ホントかと思う。そしてパクテー肉骨茶にヨウティアオ油条を合わせるセンスも初めて読みました。かたや福建語、かたや北京語。漢方薬で煮込むのがマレーシア流で、肉のスープそのものを楽しむのがシンガポール流とあります。まあでも、ハッカク(アニス)のにおいだと思うんですが。

頁181、眠と書いて「みんざい」と読ませています。眠と書いていない。下記、田辺聖子が「炊く」と書かず、「煮く」と書いていた記事のようなものでしょうか。

www.asahi.com

頁215、房総の道の駅は「富楽里」と書いて「ふらり」と読むとか。一日も早い復興を祈念しますが、今回、地元主体のボランティアで行く、県民主体で負荷軽減を地元が表明してるのに、受け入れ団体とコンタクトもとらずにおしかけようとする人はなんなんだろうと思います。毎回やってるのか。

娘さんの名前「明里」を読めず、ミョンリだろうか、そして元夫はあちらの人、そういう齟齬なのだろうかと勝手に推測し、読了してからもう一度最初から頁を繰ると、「あかり」と書いてありました。私はばかばかばかです。以上