『鉄の胃袋中国漫遊』(平凡社ライブラリー)読了

 装幀…中垣信夫 解説…嵐山光三郎 写真…伊藤千晴 カバーデザイン…製本工房リーブル?(図書館カバーの関係で切れてて読めず)

鉄の胃袋中国漫遊 (平凡社ライブラリー)
 

 「太陽」に1983年1月から12月まで連載された記事に加筆して、1984年『ハオチー! 鉄の胃袋中国漫遊』として出版された単行本を1996年に文庫化したもの。文庫化に際して、中国の変化は凄まじいので、歴史的な記録のスケッチとして読んでほしいと作者は記しています。それからさらに二十余年。社会や制度はさらに変化しましたと。

あとがきに同行編集者明記。同行した日本旅行開発社員明記。中国国際旅行社へ謝辞。中国研究所田中静一、国立民族学博物館周達生、宮内庁林左馬衛の各氏へ協力謝辞。簡体字は原則日本の漢字へ書き換え、ルビは普通話の音だが、広東だけ広東語のルビを振ったと注記。

回ったのは上海(西洋料理含む)、鎮江(精進料理含む)、揚州、南京(ハラルの清真料理含む)、重慶、済南、広州。北京や東北、福建などを回っていない点をあとがきで述べてますが、長江流域ラインナップに広州はともかく、済南を入れ込むあたりが特色だと思いました。黄河の鯉や徳州扒鶏が出て来ます。各地で普通の一般市民の食生活が見たいと言って、80年代に出来うる取材の精一杯をやってます。精一杯というのは、取材対象家庭の栄光をゲットした現地の人が見栄をはって、ふだん食でない多彩なメニューを奮発して作る、その豪華さも80年代という意味を含めて。インスタントラーメンも試してますが、まだこの時点では箸にも棒にもかかってない。ビールは常温。

 写真は多彩ですが、ホテルのレストラン(と屋台と一般人の家)が多かったので、一軒家のレストランというと上海の紅房子くらい。これだけ写真お借りします。

www.shanghainavi.com

shvoice.com

現在ではこういうレストランが、解放後からのことだそうですが、1982年当時、エスカルゴは調達もままならず、日本ではハマグリの字ですが別の二枚貝を、たこ焼き器のような専用の調理器まで自作して、代用調理していたとか。バターを「白脱」とも書くんですね。広東語由来でない外来語の音訳。咖啡、三文治(三明治でなく)威士忌(ウィスキー)のようなものかな。

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現在ではぜんぜん一軒家ではない感じですが、上のサイトだとまだ「国営」とあり、経営資本がどこか等うんぬんは分かりません。1982年のデザートはアラスカで、作者によると、当時中国料理のコースでも、見栄えがするのでデザートはけっこうアラスカだったとか。

頁63の鎮江自由市場の写真に、鮰魚といういっけんサメみたいに見えるナマズの仲間?が載っていて、揚子江は鎮江あたりではまだまだとてもとても広いですし、現在では絶滅したかもしれませんが、イルカもワニもいるわけですし、宋代の料理書だとフグも遡行してきて毒の話がないので、大河をこれくらい遡行すると抜ける?わけないかと思ったり、本書でも、鎮江まで遡行したタチウオが売られているとあり、たぶん私も含め、一般外国人旅行者が旅行中この鮰鱼を市場で目撃したら、不正確な思い込みで、「サメも売ってた」と報告すると思います。本書の写真は血まみれでヒゲも抜けてるので、ホントに鮫に見えます。作者は見抜けてるので、さっすがあと。それほどサメには似てない写真ですが、検索で出たニュースを貼ります。

一天捕了200多斤鮰鱼 最大的鮰鱼10多斤_扬州网

http://news.yznews.com.cn/2019-07/09/4a9019d4-c28d-4e81-8524-eb731b2840e1.jpg

baike.baidu.com

昨日じゅうに感想を書き終えたかったのですが、諸般の事情から終わりませんでした。以下後報

【後報】

畦地梅太郎平凡社ライブラリーの本を読んだ折、巻末の同シリーズ既刊ラインナップの中の本書に目が留まり、読んでみようで読んだ本。

(2019/9/29)

【後報】

頁75、篠田統という著者の先達が、酒席の歓談で、湖南省の田舎者の毛沢東茅台酒に感心したようだけど、白酒なら、山西省杏花村の汾酒のほうがよっぽどうまいと思う、と話したエピソードを書いています。

篠田統 - Wikipedia

著者の好みは、五糧液と瀘州老窖。どちらも四川の白酒。

頁76

 このような白酒の銘酒は一般民衆とは無縁のものである。輸出用にまわされたり、高級料亭へ行ってしまったりして、地方の都市で入手できるのは土地産の酒だけである。わたしが訪ねた揚州郊外の農家の主人は、昼食と晩食のとき、土地の人民公社製の白酒を一回一〇〇グラムずつ(酒も重量で計る)飲むのが楽しみだと語っていた。中国における酒類生産量の八十パーセントが白酒によって占められ、名前も知られていない地酒の白酒が民衆の酒なのである。 

 これは文庫化時点でもう古くなってる記述で、前世紀末にはもう、その辺の銘柄なら、アパートの一階角部屋の窓改造してタバコ売ってるような雑貨屋でも在庫がありました。しかし、田舎町で春節にでっくわして、両替不可になった私が中国銀行の職員に泣きついて、ツケの後払いで三食込みで泊めてもらえる宿として口きいてもらった旅社(アパートの空き部屋にベッドならべてドミトリーを作っていた)経営老夫婦のご主人は、ポリタンで近くの工場に白酒買いに行くんだ、そうすっと安いと言っていて、その酒をタチウオ(冷凍を戻した)のカラアゲとともにふるまってくれました。

頁84、一寸三彎、富春茶社、三丁包

扬州盆景 一寸三弯云片式 是什么意思?_百度知道

富春茶社_百度百科

富春茶社 - 维基百科,自由的百科全书

三丁包子(小吃)_百度百科

頁124、南京の屋台街で麺類を頼む際、三両二両に注文するとの記述をここで見つけ、得たりと思いました。一両当たり幾らと公定価格が決まっているからそうなるんだそうです。1982年のルポ時点ではそうだった。

頁136、金陵烤鴨。

北京だけじゃない、南京にもダックがある :: デイリーポータルZ

本書でもニフティの記事でも、南京は北京と違って肉まで供するのだという記述は変わらないです。

(2019/10/6)

頁171、南京の回族料理の名店で名物料理を食べる場面はおいしそうだと思いました。

美人肝_百度百科

baike.baidu.com

松鼠鱼_百度百科

頁190、恐妻家はいつも奥さんに耳を引っ張られて柔らかくなっているので、"柔耳"というとありますが、検索でそうした定義は見つけられず。

山東省などの農村では、その時期だからか、ササゲをよく食べています。お赤飯にするのではなく、冷菜や和え物にして。

広東では、犬肉を中心としたゲテものコース料理、仔豚の皮カリカリがメインのマンモスレストラン。ディムサム、ヤムチャにも行って、だいたい一人当たり、お茶頼んでお皿はふたつ程度のオーダーが普通としています。いろいろ食べたかったら、やっぱりみんなで行かないとダメだな~。

巻末の洪光柱という人との対談で、初めて鍋貼という単語を出していて、それまで中国では焼き餃子でなく水餃子としつこく各地でおっかけているので、グオティエ知らないのかと侮ってました。最後にさくっと锅贴儿を出す。対談相手は、味の素主催で平凡社が書籍化した下記シンポの参加者で、対談じたいは北京で1982年にやったそうです。

東アジアの食の文化 : 食の文化シンポジウム'81 (平凡社): 1981|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

以上

(2019/10/22)