『横浜の時を旅する ホテルニューグランドの魔法』読了

 写真 大森裕之  装丁・レイアウト 矢萩多聞

横浜の時を旅する (ホテルニューグランドの魔法)

横浜の時を旅する (ホテルニューグランドの魔法)

 

 山崎洋子を読んでみようの一環。だいぶ大詰め。横浜の有名なホテルのリニューアル前に取材して、パブ記事というわけでもないのでしょうが、あれこれよもやまを書いた本。出版はリニューアル後、ホテルが現在傘下に入っているグループに加盟したころの出版です。

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横浜| ホテルニューグランド(公式ホームページ)|山下公園が目の前、横浜中華街傍、昭和初期に誕生したヨーロッパスタイルの正統派ホテル

ホテルニューグランド - Wikipedia

出だしで、作者は、小学生のころから、図書館に入り浸って、片っ端から海外ミステリーを読んできたとあり、私は、自伝を読まなければ、そこは深く考えなかったと思いますが、自伝を先に読んだので、ここの意味が理解出来ます。そして、そこに描かれる海外の生活に憧れ、それに近いのが横浜、ホテル、というふうに筆は進み、生島治郎のエッセーに登場するこのホテルの個所を引用し、それからヨコハマの開港からの成り立ち、歴史を述べます。

頁78によると、終戦直後のこのホテルは、焼けた中華街から来た人たちが入りこんでいたそうです。京都の東華菜館のように「買う」わけでなく、「入りこむ」というのが、なんだなと思いますが、米軍が接収したので、あっという間に、そうした人たちは駆逐されたみたいです。同じ戦勝国であっても、米軍とそれ以外は圧倒的に違うと。

頁127にはこういうくだりがあります。9月2日のミズーリ号の降伏調印の同日、GHQマーシャル参謀次長から終戦連絡委員会公使に対し、GHQは日本国民に対し三つの布告を出すと連絡があります。

(一)日本政府の一切の権限を連合国最高司令官(SCAP)の権力下に置き、英語を公用語とする。

(二)SCAP命令への違反者は占領軍裁判官が処刑する権利を持つ。

(三)占領軍の発行するB軍票を通貨として認める。

これはポツダム宣言に明記された「日本人を民族として奴隷化し、また日本国民を滅亡させようとするものではない。民主主義の復活強化、言論、宗教及び思想の自由、基本的人権の尊重」に反するものだとし、到底受け入れられないと、岡崎勝男という人物が志願して、サザーランド参謀長に撤回を申し入れるべく宿舎として接収されていたニューグランドホテルに潜入します(堪能な英語を活かして二世のフリをしてもぐりこむ)ウィキペディアではこの箇所は外務省が派遣したことになってますが、本書ではここは勝男の志願です。

サザーランドには会えないのですが、マーシャルには面会出来、布告延期をとりつけます。その知らせを受けた重光葵は翌朝マッカーサーと会談、布告を撤回させます。本書ではこれはここまでですが、ウィキペディアですと、勝男はこの後GHQの報復で公職追放されます。

岡崎勝男 - Wikipedia

私が何が言いたいかというと、ポツダム宣言は米英華ソが共同で宣言したものですが、GHQはもう少し先に行きたかったのだなと。接収にあたって、入りこんだ中国人を一掃するくらいはそりゃやります罠と。

ホテルには、最上階なんかに行くと、暮らしてる人がいるものですが、何故か老婦人というイメージがやっぱりあって、私がすごい昔、新宿のホテルでベッドメイキングのアルバイトしていた頃も、やっぱり最上階には老婦人がいました。バスタブにバスロマンとか草津の湯とかふってました。頁111、ニューグランドには白系ロシア人のロシア語講師の老婦人が、80歳で大学(四ツ谷のフィロソフィー大学)を解雇されるまで住んでいて、そんでびっくりしたのが、大学解雇でホテル代が払えなくなってホテルを出た彼女が住んだのが町田のアパートで、さいごも町田の施設で、2000年、103歳でなくなったというくだりです。そんな近くに白系ロシア人一世がいたとは。黒竜江省アムール川沿いを旅すると、時々目の青い中国人に会いますが、いやー、町田。

頁155、三島が元町を舞台に描いた『午後の曳航』が登場します。英訳され、イギリスではイギリスの物語として映画化されてるそうで、三島が横浜を描くとそうなるのかと。

本書の後半は、誰が読んでも楽しいレストランとバー、ティールームの話です。格式あるフレンチ(ドレスコードあり)気軽なイタリアン、ベルモットでなく、シェリー使う「マティーニ・ニューグランド」(頁211)頁232には、何故イギリスのサンドウィッチというとキューカンバ、胡瓜なのかについて、温暖な気候でなければ栽培出来ない胡瓜を英国で栽培するには、温室と庭師が必要で、それを持てるのは貴族だけだった。つまりキューカンバ・サンドは貴族のステイタスなのだと書いています。えーって感じでした。私の好きな寿司漫画『音やん』では、イギリスのキューカンバに比肩する日本食として、鉄火場で食べる鉄火巻きが出て来ますが、江戸時代のマグロの地位を考えると、ぜんぜんイギリスの胡瓜とは比べられないじゃんと思いました。

そんな本でしょうか。あとがきで、作者のホテルを舞台にした作品がづらづら並べられていて、幽霊ホテル以外読んでなかったので、とりあえず一冊図書館蔵書があったので読んでみます。またゴールが遠くなった。以上