読んだのは単行本。装幀 亀海昌次 写真 サラ・ムーンⒸSARAH MOON / PPS通信社 山崎洋子を読んでみようシリーズは、あと一冊、『女たちのアンダーグラウンド』で終わるはずだったのですが、ホテルニューグランドを紹介した本をうっかり読んでしまったら、著者が、自分には三冊ほどホテルを題材にした著作があるので、それで匿名従業員から、ニューグランド紹介依頼の手紙なぞが舞い込んだのだろうなんて書いていて、そのどれも未読だったので、じゃあ読むかと読みました。もうついでなので、作者が四十代に書いた三冊の、ビッグトゥモロウ的なエッセーとそうでないエッセーも読むことにします。
画像検索で出る単行本表紙画像が上のしかなくて、上のですと、帯が読めるのはありがたいですが、帯の下の部分が気になる人もいるかと思います。こんな感じです。下の、手首だか手袋だかのカットは中表紙にも使われていて、その右の文章は、写そうと拡大して見たら、数式か化学式みたいでしたので、さっぱり分かりませんし、ユニコードの限界を超えてるとでも言えばいいのか、写せませんでした。簡単な分数ならスラッシュ使えばいいのでしょうが、理系の皆さんどうやってムズい数式を打ち込んで、どう表示されておられるのか。合理的な方法がないわけないと思うのですが、知りません。
裏表紙も、青赤緑の三色が、黒の帯に覆われています。それが白地の中にある。
小説現代に天安門事件の年から四年連載された、お題は「ホテル」の大喜利短編を、六話収録した本。
最初の話が、東京駅のステーションホテル。改装前。私もいつか泊まってこまそうと思ってたのですが、改装後の今は予約でひきもきらないと聞いています。たぶん。'89ですと、まだ穴場でしたでしょうか。周良貨と夢野一子の銀行員漫画『自転車に乗って… この女に賭けろ』でも、出社拒否の鉄オタバンカーが宿泊して、コンビニ弁当を二個、室内でドカ食いする場面があります。
最初の話は、作者得意の、悪女とスケコマシの、狐と狸のばかしあい。暴力抜きで描けるから、読者が楽しく読めることを作者は知ってるんでしょうね。あと、人生を破産させる負債が残るようなオチにも以下略
第二話は、熱海のヴィラ・デル・ソル。表題の話。なんか、主人公が、自分がブスだと思い込んでたのが母親の呪縛(そういうふうに言葉で洗脳されて育った)というありがちな描写は一個もないのですが、頭がそういうふうにストーリーを捻じ曲げようとして、あらゆる台詞をそんなふうに読み違えてしまいそうになり、けっこう何度も繰り返し読み返して、なんもそんな文言ないこと確認しながら読みました。そういう意味で、なんで自分がブスだと思い込んでるのか最後まで以下略な点が、ストーリーと全く関係なく斬新でした。
三話めは小樽ホテル。旧北海道拓殖銀行ビルで、その後ホテルは閉店して、ニトリが美術館にしてるとか。酪農の入り婿も大変だな~という話。
四話めは軽井沢の万平ホテル。主人公が成功した中年男性(でも共稼ぎだったかな?)という設定なのですが、松本から軽井沢まで、各キャラがなんのためらいもなくタクシー移動するので、そんなに近かったっけと思いました。東京から鎌倉だって、戦後の文士小説までですよね、お気楽に車頼めるのは。
で、主人公が、ほかの話同様、一人称「わたし」で進んでゆき、また幼少期のセリフが、よい子というかぼんというか、ユニセックスというか、兎に角、ほかの話がぜんぶ女性が主人公なので、この話も、ともすれば女性が主人公のように読んでしまう。実際は中年男性なのに。執筆途中で、トリックや話の展開上男性に変えざるを得なかったのか、編集が、ワンパターンになるのを避けて男性主人公をリクエストしたのか。
次の話がニューグランド。その次はハウステンボス。最後だけ、老舗ホテルでなく、売り出し中のリゾートホテルなので、ちょいと違和感がありました。熟年夫婦がよりを以下略な話だし。ニューグランドは、黒沢の赤ひげ、酔いどれ天使のスケコマシ版といった趣。
どの話も、新館より旧館というムード重視、歴史的建造物に泊まることに意義があるという、宿泊オタの歴史オタみたいな人好みの舞台をしつらえ、しかしそこに泊まる登場人物はなべてそんなの知らんけんしゅたいんな展開にしてます。私は北京飯店旧館に泊まったことはないのですが、上海で、田中角栄が泊まった錦江飯店旧館に、有り金はたいて(うそ)泊まったことがあり、だいたい中国のホテルの旧館というと、昔は、よく分からない会社や団体が部屋をオフィスとして使っていたりするので、それまでリーベンレンリーベンレンと言われていた私が、初めて、面と向かって上海語でサパニン!と言われた思い出が鮮明です。黒ずくめの、香港映画に出て来そうな男たちだった。あとは、日本でもどこに泊まった経験があるじゃなし、金大中が拉致られた九段会館に泊まって、そうかーこの階かーなんて思ったくらいです。以上
【後報】
表紙の、手の部分を拡大します。潰れてしまいましたが、こんな文章です。
(2019/11/14)