韓国映画「ベテラン」(私は未見)のリメイクで、中国におけるリメイク映画史上最大のヒットを記録したとか。
【のむコレ2019】映画『ビッグ・ショット』あらすじとキャスト。公開日は11月19日!
为民除暴
时候已到
わたし的にはとても面白かったのですが、同作品の最終上映日ということもあってか、観客五人でした。もったいない。
あまりにこなれた構成の出だしでしたので、テレビシリーズのスピノフかと思いました。最初に、現実にありえない硬貨偽造集団の摘発場面があって(ご丁寧に、犯罪集団のボスに、なぜ紙幣偽造のほうをあげないんだ、スマホ決済の普及と、原材料の金属値上がりで、こっちは利益がろくにあがってないってのに、と言わせています)そこで、太った風間杜夫みたいな隊長やらデブやらメカに強いやつやら紅一点やら、お約束的にキャラの立った面々がそれぞれ立ち回りで見せ場を見せて、それから、本編に入る演出でしたので、テレビドラマの人気シリーズの映画版かと、つい思ってしまいます。しかしそんなドラマはないのでした。
ので、この、ポニーテールの足技得意な刑事は、チームが一丸となる場面以外ほとんど出ません。もったいない。
上は中華圏の宇多丸とか町山智弘的な人物のひとりと思われる誰かの映画解説動画で、韓国では巨悪はこうで警察はこうだけれども、中国ではそうは作れないのでこうなっている、みたいなことも言っています。この止め絵の、山崎邦正というかほっしゃんに似た、実際にはスキンヘッドの俳優で、芸名も、「ベイビー」の音訳を北京語的にアルアルしてるというフザけた人が、明らかにゲイリーオールドマンやらなんやらのキレ芸を漢語で演じていて、それを見ると、実にひとりっこ世代の小皇帝そのまんまに見えてしまって面白いです。巨大企業オーナーの妾腹でコカイン中毒で、やせてるけどサブミッション、関節技をあれする格闘家、みたいな。
対する主人公は、日本だとどうなんだろう、こういうガタイがよくて三枚目なんだがカッコいいキャラって、今誰なんだろう。岸谷五朗の全盛期ならこんな感じなんでしょうが、今だと誰なんだろう。役名は孫大聖で、斉天大聖孫悟空のキーホルダーを子どもにあげたりしています。そのまんまやん。役としては、口八丁の、中華圏の愛されキャラを踏襲しています。俳優さんは王千源という名前で、検索すると同名の別人が出ます。
巨大企業は不動産屋さんで、貧乏人が借りてる部屋のビルを"拆"スプレー吹きかけて取り壊し予定のところから軋轢が始まります。羽振りがよさそうで実は株価下落が止まらない企業。のむコレのあらすじにも書かれている「学区住宅」という考え方が日本にはないので(私も知りませんでした)検索しました。静岡県企画広報部地域外交局地域外交課の"学区房"についてのレポートがいちばん詳細で分かりやすかったです。
https://www.pref.shizuoka.jp/kikaku/ki-130/documents/1gakkubou.pdf
上の人民日報の記事は、私が開こうとすると"502 Bad Gateway nginx"になります。
热烈欢迎克莱登国际学校校长Jonah参观滨海市第二
Warm welcome for the principle of Clayton International School, Jonah, visiting Binhai Second Middle
外国人経営の学校の学区住宅になるため外国人を英語で接待する悪役たち。屋外(校庭)の火鍋パーティー会場に、庶民も持てるクラスのマイカーで主人公刑事が殴りこみするのですが、そのマイカーの車種が分かりませんでした。コンパクトな四駆に見えたのですが、ミニバンの写真しか出ない。二台出たのかな? 悪役が乗ってる車はマイバッハだそうです。
主人公のヨメ役の女優さんは、実に二重瞼と顔のバランスが中国人ぽくて、と私は思うのですが、こういうのもレッテル貼りになるのかな。「ブラインドマッサージ」で賞を獲った女優さんとのことで、検索したらその通りでした。
上の左側の子どもは、主人公夫婦の子どもで、巨大企業の追求をやめない主人公への見せしめおどしのために、ほんの一瞬目を離した隙に拉致られ、前髪を剃られてしまいます。で、飴と鞭で、ワイロと、学区住宅の提供(引っ越し込み)を申し出られた奥さんが、"我受不了的是,我心动了。我心动了"と、ヨヨと泣き崩れる場面はよかったです。読んで字の如し。心が動いてしまった自分がゆるせない。
このせりふを聞きながら、フェイ・ウォンの"明天我要嫁给你了"の歌詞、"要不是适当的时候,你让我心动"を思い出してました。はしなくも心ゆれる、そういう感じに使う言葉を、よりによって賄賂でと。だいたいそういう時中国人怒ると思います。メンツの国の人だから。
警民联欢一家亲
「警察と市民が家族のように親しく楽しむ」
上は、警察と市民の親睦のための芝居上演の練習に駆り出され、捜査がおろそかになる場面… と思ったのですが、違うかもしれない画像。
これ以外にも、本業と異なるシャブの摘発を命ぜられ、あの惡をほっておいていいんですかと憤る主人公たちという展開もあります。なだめ役の上司が、部下が一人負傷するとがらっと変わり、“他们的背后有大企业,可是我们的背后是国家!你怕什么!"と焚きつける場面もよかったです。さすが全体主義国家。「奴らのバックには巨大企業がある、だが我々の背後は国家だ! 何を恐れることがあろうか!」どうしても中高で習う漢文の影響で、ニパーシェンマという短いセンテンスを、何を◯◯することがあろうか(いや、ない)という定型文で訳すクセが治らない私。
「沈黙は悪をのさばらせる」
沉默就是帮凶
字幕は一貫して「合成麻薬」で、セリフの音波は、歌舞伎町案内人の本で覚えた、「ヤオトウワン」でした。"摇头丸" 「別に」のMDMAでも、マヌケな呼称「危険ドラッグ」でもよかったのでしょうが、字幕作成者のセンスが光ったと思います。上層部からの指示は不動産コンツェルンの殺人隠蔽を暴く事でなく麻薬潜入捜査なので、上司は「張氏集団に、ヤオトウワンとかないかな??」で、強引に大義名分を立てます。この辺が中国的でよかった。いちおうタスクも遂行してるかたちにする。
上は、ちょっとしか出ないのに、金持ちには屈しない女優役を演じるオイシイ人。主人公は酒を飲まない人なのですが、悪役に強引に乾杯をすすめられて、主人公が「じゃあこうしましょう、私は水を飲んで、あなたと水で乾杯する」と言っても許してもらえず、で、この女優が、私が代わりに受けるわ、と言って、このなみなみとつがれたストレートのスコッチを、ぐいぐいいかされます。しかし、「薄氷の殺人」でも、" 你应该戒酒"みたいなセリフがあったりで、中流中国人の健康志向は、節酒に向かってるんだろうかと思う今日この頃。
下は、公安で好評を博したこの映画の上映会。
对党忠诚 服务人民 执法公正 纪律严明
「党に忠誠、人に尽くす。公正に法を執行し、規律は厳正である」
署内の標語「熱情 ナントカ カントカ 快捷」をメモったのですが、中のふたつが解読出来ず、検索すると下記が出ましたが、合ってる気がまるでしません。
部屋が買えない、の「買えない」が"买不起”でした。
「モンガに散る」でも、"从现在开始," ツォンシェンザイカイシィ、という初級中国語のセリフが出ますが、この映画も出ます。しかも二回も出ます。主人公が、「以降お前をつけねらうからな、絶対はずさねえ、そこんとこよく覚えとけや」みたいに言う場面と、上司が「只今から彼らは我が警察機構の敵である」と言う場面。好きなんだろうな、この定型句が。
エンドロールに出てくるラップが、"有做了个耽误,有做了个耽误,我要做了个耽误"と聞こえ、なんだこのカッコいい歌詞は、"It's a waste of time, It's a waste of time, I waste of time"とかニヒルでシブいデスヨ、と思ったのですが、歌詞を検索したら、"有做个大人物" でした。ききまつがい学刈也。でも、書かれた歌詞は検閲対策で、実際は私が聞いたように歌っている、とかならいいな、とは思います。
以上
【後報】
下記は2016年のニュース。
下記は一昨年のニュース。
この映画で出てくる偽造コインは一元コインなので、儲けはホント薄そうです。でもそれ以上の金額の人民元コインはまだない。
(同日)
"你怕什么!"は、ニュアンスとしては「びびるな」くらいでいいと思うのですが、漢字文化圏のはしくれの哀しさ、「何を恐れることがあろうか」に脳内変換されてしまう。「おじけづいてはいかん」とか「おそれるな」とか、中庸な訳文は後からなら幾らでも思いつくのですが。
(2020/2/2)