山崎洋子を読んでみようシリーズの続き。読んだのはソフトカバーの単行本。装幀ー安彦勝博 初出不明。図書館本ですが、ラスト数ページが欠落しているので、そこに初出が書いてあるかもしれません。
悪女をカッコつきで表現したかったようで、検索で出た文庫本もそれぞれ、違うカッコでくくられてました。1991年といえば、深見じゅんの『悪女(わる)』が講談社漫画賞を受賞した年でもあります。
(各話扉の)写真提供 奈良県立美術館 山中裕 護国寺 泰流社 中日新聞社 共同通信社 PPS通信社
華麗なるギャツビーの嫁はん、ゼルダ・フィッツジェラルドと、あと誰かが入っているので、読もうと思ったです。あと誰かは、ビリー・ホリデイなのですが、単行本には入っていません。
<目次と煽り文句>と感想
巻頭のこの人は、加藤徹『西太后』(中公新書)がエラくいい本なのと、それが出版された頃、検索すると、インリンの在台ブログ記事タイトル「我が家の西太后?」が上位に出てきたことを思い出します。
マリー・アントワネット Marie Antoinette フランス革命の悲劇の王妃
この人は、ベルばらとか、出産が公開出産だったこととかが思い出されます。頁24、傅育係という単語が出ます。
クリスティン・キーラー Christine kieler 英国の政財界を震撼させた美貌の高級娼婦
初出の連載が何か不明ですが、この話から、マクラ、摑みのよもやま話から本題へ進む構成になります。この話のつかみはミスコン。イギリスの陸軍大臣とソ連の海軍大佐と同時に付き合っていたという高級娼婦のスキャンダル。
コールガール組織のボスが、本書では「整骨医」(頁36)と書かれている博士で、日本語版ウィキペディアでは、整骨療法師と書かれていて、カイロプラクティックみたいなのですが、博士号ナニでとったのかとか、「整体」という言葉が当時まだないので「整骨」と訳しているのかなどが興味を引きました。でも検索してません。
ジャクリーン・オナシス Jacqueline Onassis 大富豪の後妻になった“貞淑な未亡人”
枕は、ジャッキーを女神ヘカテに譬える部分。本書の後半に登場する人物にも、年上の男性と結婚した女性が縷々登場し、そっちは作者の主観、主張が滲み出てくるのですが、この話の段階では、まだそこまで筆はすべらかではないです。
淀君 よどぎみ 乱世に君臨した誇り高き側室
日本人トップバッター。書いてあることはガイシュツといえばガイシュツで、超有名人の紋切型だからか、持論は展開されてない感じです。
ボニー・パーカー Bonnie Parker 禁酒法時代を駆け抜けた明日なき青春
本書が執筆されたバブル期の若い女性のファッションやスタイルを賞讃する記述から入ります。ボニーとクライドのボニー。有名な、映画の冒頭の口紅アップの解釈は書いてません。
これが読みたかったのに、いささか肩透かし。しかし後半登場する人物たちが精彩を放っていたので、そこはだいじょうぶです。なぜファミリーネームをつけていないのかは分かりません。つかみは、娘が生まれたらどう育てるかという知人の話や、イプセンのノラ。
川島芳子 かわしまよしこ 男装のスパイとして暗躍した清朝の王女
この人(作者)の近現代中国観は、いったいどこから来るのだろうと、乱歩賞受賞作から一貫して思ってきましたが、不明のまま終わりそうです。不思議だ。共産党以前の視座があるようには思えますが、それがどこから来て、何処へ落着したのかは分からない。
頁97
誰よりも故国中国を愛していたというのに、なぜその故国の手で、売国奴として殺されなければならなかったのだろう。
こんな川島芳子観もめずらしい。男装の麗人と紋切型で切って捨てられる軍服も、作者にいわせれば、まるで似合ってないそうです。小柄でほっそりした人がこんな服着て大陸を駆け巡ったかと思うと痛々しいとか。
ジョルジュ・サンド George Sand 若き芸術家たちと愛の遍歴を重ねたスキャンダル作家
男性の名前かと思ってました。ときめきトゥナイトに出てくるのは男性だったから。本書では、一貫して、本名のオーロールとして書かれます。
和泉式部 いずみしきぶ 夫ある身で二人の皇子との恋に溺れた愛欲の歌人
功成り名遂げた女性ばかりが集うお食事会でも、話題は恋と結婚の(ゴシップもまじえた?)話ばかりでほっとしたというつかみ。和泉式部って、悪女だったんですね。本書の悪女の中でいちばん中島みゆきの歌っぽいと思う。
エカテリーナ二世 ЕкатеринаⅡ 夫から帝位を奪い、権力と肉体の快楽を追い求めた女帝
女実業家や女性政治家は「男まさり」とレッテルが貼られた時代が長かったが、ホンマなんけ?という出だし。池田理代子のマンガを読めば、ポチョムキンの素晴らしさがよく分かると思います。とかもろもろ、作者と池田理代子の路線や記述ポイントは同じ。まるで担当編集や監修者が同一人物だったかのようだ。その辺に置いてある池田理代子のマンガは、一部、前世紀まだ中華粥専門店が珍しかったころ、池袋の中華粥の店でこぼしたザーサイ汁がついてます。
つかみは、クリスマスになると赤プリ(とは書いてませんが)などシティホテルなんかが恋人たちの予約でいっぱいになって、シーメやプレゼントを貢ぎ貢がされる現象。白楽天の長恨歌の読み下し文は誰のだろうと思いますが、書いてないです。
桂昌院 けいしょういん 五代将軍綱吉と徳川幕府を操った大奥の“女将軍”
つかみは成田離婚とマザコン。生類憐みの令のママの話。頁159、彼女の父親は京都のぐうたらな酒屋で、嫁は愛想を尽かし家を出て、それで下働きの朝鮮人の女に手を出して子どもまで生まれて、それが桂昌院との説を紹介してます(八百屋説と併記) ウィキペディアによると、黒川道祐の『遠碧軒記』という本にそう書いてあるんだそうですが、1627年に、「高麗人」が京都にひょいひょいいてたのかどうか、ふしぎです。
あと七人は、外出して帰ってから書きます。
パトリシア・ハースト Patricia Hearst 誘拐の被害者からテロリストに身を転じた新聞王の孫娘
摑みは過激派や内ゲバへの嫌悪。この人(ヤマザキ)ならそうだと思います。「後に、恐怖の実態があらわになった」文革を左翼系知識人が絶賛していたことへの言及も忘れない。このパトリシアという人はタイーホ後、転向というか、すべては脅迫によるもので自由意志ではなかったと主張したが有罪になったそうで、溥儀みたいだと思いました。作家は、誘拐後テロ側に転向した動機について、一緒にいた恋人が自分を銃口から守ってくれなかったからではないかと推測してます。このパトちゃんはまだご健勝だそうで、ウィキペディアにショービズ出演作が列記してあって、影の軍団にも出てるそうです。
ラナ・ターナー Lana Turner ゴシップとスキャンダルにまみれたハリウッドのシンデレラ
この人がここに入っているのは、彼女の娘が母親の愛人を刺殺する事件があったせいだと思います。つかみは、山崎洋子の小中の将来の夢が芸能記者で、平凡と明星が愛読誌だったこと。
ルクレツィア・ボルジア Lucrezia Bor'gia 父・法王の陰謀の手先となったバチカンの魔性の女
有名人なので、惣領冬実の漫画を読むとよいのではないでしょうか。私はよく知りません。
イサベル・ペロン Isabel Perón 踊り子から世界初の女性大統領にまで上りつめた女
本書には黒人も、日本人と中国人以外のアジア人(インド人、韓国人など)も回教圏の女性も登場しませんが、南米人(中南米人といったほうがいいか)は唯一この人が出ます。
有名政治家の後妻で、先妻が夫と強力タッグを組むリーダー的存在だったので、同様のパワーを求められたが、器ではなかったという話。カッコをつけないと、悪女に入れるのもどうかという。
ルー・サロメ Lou Salomé 奔放な愛で天才たちの魂を奪いつくした情熱の作家
つかみは「恋人たちの予感」という映画。
これがいちばんおもしろかった。ニーチェは彼女にふられて(本書の言い方によると、「見捨てられて」)からツァラトゥストゥラ(ゾロアスターのドイツ語読み)を書いたわけですが、ニーチェって梅毒だと思ってました。じゃー彼女もリルケもフロイトも梅毒なのかよと言うと、それはちがうわけなので、別れてから、肥大した自我を慰めるにあたってそういうこともしたということなのかと。ヤマザキさんは最後、独自のフェミ論をぶって終わります。
ブリジット・バルドー Brigitte Bardot 官能的な肉体を武器に男を追い続けた銀幕の黒い天使
つかみはマドンナ。世にマドンナを知らない人はけっこういても、アラン・ドロンやエリザベス・テーラー、ジョン・ウェイン、マリリン・モンロー、オードリー・ヘップバーンを知らない人はいないだろうという世代論。執筆時に「奇行と変わり果てた容姿」が話題になっていたようで、その当時の、熱いうねりが感じられるゴシップ記事に仕上がっています。
クレオパトラ七世 KleopatraⅦ 美貌と才知で世界制覇を狙ったエジプト・プトレマイオス朝最後の女王
つかみは世界三大美女。小野小町なんか日本人以外誰も知らないから、これ言い出したの日本人だろうというシビアな出だし。その後、欠落してるので、あとでフォローします。
以上