『異国憧憬-戦後海外旅行外史』読了

 積ん読シリーズ 今回も読書感想を書き終えられない予感

異国憧憬―戦後海外旅行外史 単行本

異国憧憬―戦後海外旅行外史 単行本

  • 作者:前川 健一
  • 発売日: 2003/11/13
  • メディア: 単行本
 

 私は『東南アジアの日常茶飯』しか読んでないくせに前川健一という人の文章を気に入っていて、それには、関川夏央がエッセーで彼を称賛していたのもありますし、旅先で、この人が12万円で世界旅行の人と犬猿の仲であると聞いたことも大きいと思います。

前川健一 - Wikipedia

で、本書のテーマは、実は私の卒論のテーマといっしょです。なので、どう料理してくれるか楽しみでした。情緒だけとか、現地に行けば誰でも書けるというのでない論理的かつ広範に活用出来る資料一覧や年表も付記した本づくりを目指して自縄自縛なギリギリ一歩手前から、生還出来るか否か。

デザイン 村田由樹子 参考文献とあとがきあり。各章に年表あり。カバー写真・資料協力 伊東一之

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日本人は何に誘われて外国に行ったのか、外国の情報をどう得たのか。JTB ●詳細年表付き

初出は当時JTBが発行していた雑誌「旅」連載。2001年11月から2002年10月まで。

旅 (雑誌) - Wikipedia

第一章「映画と海外旅行」で、舟木一夫「夢のハワイで盆踊り」が出て、コサキンか、と思いました。舟木一夫は日系二世の役なんだそうで。「星のフラメンゴ」の西郷輝彦は日台ハーフだとか、「バンコックの夜」の加山雄三は台湾生まれの台湾育ちだとか、そういう雑学が出ます。

第二章「音楽にみる海外」を見ると、深夜番組を聞いていることが分かります。

頁37

 私はこの種の音楽と、若者向けのおしゃべり番組を聴きたくないので、NHKの「ラジオ深夜便」で小畑実の歌などを聴きながら、毎日、朝まで本を読んでいるのである。 

 といいつつコサキンリスナーなのではないかという疑惑が、「夢のハワイで盆踊り」で澎湃と湧き上がるという。

第三章「放送と海外旅行」では、どのテレビ番組制作会社が、作者に情報提供の対価として金銭をちゃんと支払ったかが明記されています。ここ以外はタダで調子こいたのか。

私はこの本を、アマゾンの著者検索で買ったような気がしてたのですが、内山書店の上にあったアジア文庫のしおりが挟まっているので、そこか、内山書店で買ったのでしょう、覚えてないけど。

第四章「雑誌・ガイドブックと海外旅行」地球の歩き方は読者投稿が中心とは書いてますが、それゆえの文責のあいまいさについては書いておらず、JTBも二匹目のドジョウみたいな本を出していたので、それでかと思いました。あるいは、著者の流儀として、ロンプラと地球の歩き方の違いくらいは、一度海外に出れば、どこかで誰かに聞かされるはずだから、書く価値なしと判断したのか。しかし、あとがきであるとおり、これまで誰もこの手の本を書かなかったから作者が書いたわけで、その意味で、何を書いても貴重な一次資料となるので、書いたらいいべさと思いました。当時、おそどまさこという人も、地球はせまいわよみたいな本を出してましたが、触れてません。どんな人なのか知らないので、触れてほしかった。が、無理はいえない。

第五章「旅行記・滞在記」さすがというか、小田実ミッキー安川、ホンカツの極限の民族三部作など、きっちり入れ込むものは入れ込んでいて、あと、やっぱし山口文憲好きなんだなと思いました。伊藤正孝と西江雅之のふたりの人は知らなかったので、時間があって覚えてれば何か読んでみます。コロナで図書館が使えませんので、こういう言い方で勘弁。

西江雅之 - Wikipedia

伊藤正孝 - Wikipedia

グレゴリ青山サイバラの鳥頭紀行を高評価してるのは意外。今後の動態予測として、年金旅行や年金海外移住ものがどんどん出るのではないかとしていて、その後、21世紀は、チェンマイ認知症の日本人老人が現地で問題化するなどの地点まで来ました。

www.nishinippon.co.jp

第六章「若者、海を渡る」格安航空券が旅行を変え、その格安航空券はいかにして発生したか、H.I.S.の出だしは、などが書いてあります。

頁114

 もうひとつ、蔵前さんの体験談を紹介しよう。場所はインドの、とある駅だ。

 彼が列車の出発時刻を確認しようと駅に行くと、若い日本人旅行者に話しかけられた。

「あのう、切符はどうやって買うんですか?」

「ガイドブックも持ってないの?」

「いや、持ってるんですが、読むの、めんどくさくて」

 ガイドブックの編集長でもあり、出版社の経営者でもある蔵前さんは、またしても「う~む」である。

この時点では、探検部の人質事件などはあっても、アルカイダによる首ちょんぱはまだでしたか。いずれにせよ「自己責任」という言葉はすでに蔓延してた気がします。

私がいまだに理解出来ないのが「サーチャージ」 格安航空券の値段はそれだけで済まないというと、もうなんだか分からない。と言ってるうちにLCCの時代になって、札幌に飛ぶのに成田に行くような時代になってしまった。

第七章「旅行用品の変遷」は、JTBトラベランドの実力を視よや、って感じで。

JTBトラベランド - Wikipedia

第八章「新婚旅行の変遷」これは、資料が集まるので、書いて升目を埋めてみた、って感じで。

第九章「海外買い物史」免税店のジョニ黒が格安酒販店にアレされるまで。あと、世界各国どこに行っても食品お土産のトップはチョコレートなのに、韓国旅行だけキムチがトップという意外な現象を書いてます。JTBトラベランド取材の成果。中国もチョコ(天津甘栗チョコ)なのに、韓国だけがチョコでないという。

第九章「食と海外旅行」

頁183

 ツアーの食事が批判される原因はおもに、低予算によるものだが、それ以外の理由もある。例えばタイ旅行の場合、日本人客に普通のタイ料理を出したら、香辛料のせいでほとんどの日本人は食べられないだろう。だから、飲茶などの中華料理や海産物のバーベキューなどを客に出している。したがってタイを旅行しても、じつはタイ料理は一度も食べていないという例は特別なことではない。 

 第十一章「外国語と異文化学習」ここで関川夏央の韓国語(スタートはカルチャーセンター)を入れていれば面白かったのに。いや、面白くないですか。

まとめ「日本人の海外旅行はどう変ったのか」私の卒論では、スタディツアーやオルタネーティヴツアーが突破口になるかなという希望的観測でしたが、作者は、そういう夢を見ない。

ほかの作者の本も読んでみようと思います。一冊だけ図書館にあった。非常事態宣言が終わってから、読んでみます。以上

【後報】

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アジアの本の専門店  ハノイのシクロ  イラスト 水野あきら  「東南アジアの三輪車」(前川健一 旅行人)より  アジア文庫

(2020/5/18)