『アガワ家の危ない食卓』読了

 装幀 新潮社装幀室 イラスト 荒井良二 人気本なので手元にないので、初出はもう分かりません。

アガワ家の危ない食卓

アガワ家の危ない食卓

 

www.shinchosha.co.jp

その辺にあったのは知りながら、阿川弘之の想い出を娘が語り、さらに熟年結婚の新婚食生活に言及する内容だろうとあたりをつけてましたので、読むのも野暮かなと黙っておりました。が、裏表紙がハダカエプロンに見えたので読みました。

f:id:stantsiya_iriya:20200621072718j:plain
f:id:stantsiya_iriya:20200621072712j:plain
f:id:stantsiya_iriya:20200621072706j:plain
「まずいものは嫌だ」「母さん、なんか作ってよ」 「どう? 味見する?」

本文にハダカエプロンの逸話があるかどうかは黙秘します。

荒井良二 - Wikipedia

イラストの方のブログを見ると、『残るは食欲』『娘の味 残るは食欲』『魔女のスープ 残るは食欲』など、アガーに生きる人の本が何冊も出ます。私が三部作の一作目しか読んでない(読むのを忘れた)『正義のセ』もこの人のイラストだとか。今から二作目と三作目読み返したら、定年とか麻雀の場面があって、はっとしたりするのだろうか。

表紙で、年齢不詳の娘さんが「母さん、なんか作ってよ」と言っていても、それは、老齢の母のレシピを継承したいという想いと、少しでもアクティブなことに関心を持ってほしいという想いが混在しているという本文内容です。8050問題ではなく。

すでにして、クリームコロッケなどのレシピが散逸していると中味に書いてあり、ただ、アガーに生きる人の母親は、嫁いでから暴君?というか海軍さんの夫にしごかれたかなんかして、デミグラスソースを自作したオックステイルチューやら莫迦みたいにふんだんにバターを使ったオムレツやらを会得したそうで、要するにアガーに生きる人々広島編に代々受け継がれてきた味というわけでもなく、母親が一代にして作り上げた創業者の味なんですね。創業より守成が難しいとは本当によく言われることで、なんとなく徳川秀忠とか、宮崎市定雍正帝』を、アガーの人と比べたくなりました。

阿川弘之 - Wikipedia

そういうのに比べると、父親のエッセーで気ままにウマイウマイと舌鼓を打つ場面(「したづつみ」と打っても変換されませんが、事実上「したつづみ」と発音する人より「したづつみ」と発音する人のほうが多いと思います。原義に沿っていなくても、ことばはいきもの)の前段階で、実は父親が発狂して、家族全員いい迷惑だったとかは父親書いてないんでゲスよ、などの内情ばらしは、想定内ですし、それでも父親の死後でないと書けなかったんだなと周りに思ってもらえることも、田中みな実の写真集にまつわる情報発信の巧妙さと同じくらい作者の計算内だと思う。

それより、海軍さんの父親が惡筆で、同じ海軍さんだった父親の友人が、物書きなのにあんなに惡筆でインカ帝国と、アガーに生きる人にこっそり耳打ちした話のほうが面白かったです。そうなのか。編集が原稿解読してくれる生活になると、おうおうにしてそうなるものなのかと。家族に対する態度に相通ずるものがあると思います。私も悪筆なので、気をつけたく。

あとはなんだろう、サランラップを使いまわす、一度で終わらせない話は、むかーし私も久米宏ニュースステーションで、そういう単身女性が増えていると報道していたのを見て、女子力を高めるためではありませんが、今でもマネしています。

父親と対比して、現在のパートナーをどう描写するかは、まだ手探りな感じです。物書きと結婚したことで、どこまで私生活の切り売りを許容出来るかの境界線。車谷長吉西村賢太のようにはならないと思います。岩井志麻子中村うさぎのようにも。でもハニーとのうれしはずかしは、望む読者もいるし、望まない読者もいるので、御自由にと思いました。女性週刊誌的な視座であれば必要で、この人に会いたいとかテービータコーとかでアガーに生きる人を読んだり見たりの人だと、別にいいやだと思います。

どこかのページで、68歳と書いてあった気がしましたが、いま検索すると66歳で、空目ったのかもしれません。「レモンライス」という、鶏とレモンの料理が出てきて、ご飯がどこにも使われないので、誤植かなあと少し思いました。火宅の人の娘の人がちらりと出てきます。ここ十年出て来なかった理由は、NHK大河でフカーツした頃ネットで、母親の介護と読んだのですが、アガーに生きるの人はそこは書いてません。そこは弁えてというか。秘書の人のアヤヤという名前を読むたび、松浦亜弥を思い出し、時代が移り変わるとそれが松岡茉優になるのかどうかと思いました。

さいごの前のエッセーが3.11で、さいごのエッセーは和田誠の思い出です。新潮社の書評は日本酒百名山太田和彦。そのうち吉田類が俳句書いてもいいのかもしれない。以上