これも、増田れい子『たんぽぽのメニュー』に出てきた本。
stantsiya-iriya.hatenablog.com
これと、北海道テレビから出版された豆本の二冊が紹介され、豆本のほうが熱く語られてるのですが、豆本は自分で買って手に取って集めて楽しむ本で、図書館に収蔵されるようなジャンルの本ではないし、版元の北海道テレビというのもかなりレアなので、入手困難だろうと勝手に考えてこれだけ読みました。ブックマン社という現存する出版社から1976年に出た本ですが、これまた河出から21世紀に再版されているので、ちゃっちゃっと読めた。河出再版本で紹介されてるエッセーを河出アンソロジーで読み、河出再版本で紹介された本を河出再版で読む。
#7daysbookcoverchallenge
— 鈴木芳雄 (@fukuhen) 2020年4月25日
@BRMzNIrytgwolC7
さんからバトンを受けて
Day3: 『ポテト・ブック』(マーナ・デイヴィス/伊丹十三訳 ブックマン社 1976年)。右は原書。
@sendaitribune さんにバトンを渡します。 pic.twitter.com/4t3Gjx9Z9r
どこぞの編集のかたのツイッターに、1976年版の表紙と原書の表紙が載ってましたので、置きます。原書の表紙は著者のマーナ・ディヴィス"Myrna Davis"のツレのポール・ディヴィスというアメリカのイラストレーターが描いていて(邦訳ではこの絵は中表紙)、ロングアイランドの奨学金を受けて学校に通う子どもたちのための基金づくりのために、著者がひとつ骨折りして、あちこちからレシピを集めて(そうするとアメリカは移民の国なので、多様なレシピが集まる)出版した本だとか。
だからトルーマン・カポーティが序文を書いてるのですが、よそんちの収穫後の畑を勝手に歩きまわって、尼さんのオナラみたいなちっこい落穂いもを拾い集め、十月のある寒い朝、それをオーブンで焼いて、サワークリームこってりと惜しみないキャビア(ベルーガの最高級品のいちばん大粒)を山盛りにかけてキンキンに冷やしたウォッカでガンガンいく、という、「帰れよ」みたいな料理と序文。
【後報】
訳者は伊丹十三で、だから河出が再版したようにも思います。
頁2 訳者まえがき
アメリカの料理はまずい、と誰しもがいう。勘の悪い人が旅行するとそういうことになる。アメリカの料理はうまいんです。(略)
セルフ・サーヴィスのドライヴ・インで安いステーキばかり食べて、それでアメリカを判った気にならないでもらいたい。アメリカは選択の幅の広い国であります。簡単に立ち寄って、安い値段で、早い時間で、アメリカ全土に旦って(ママ)均一化された内容の食事をする必要のある人も多い。そういう店は、そういう必要を満たすべく勝負している。そんなところで食通ぶられても、あちらは閉口するばかりでしょう。
コロナ以前のインバウンド時代の外国人訪日客の旅行感想を鑑みると、21世紀的にはだいたいみんな伊丹十三が言わんとしてることが理解出来ると思います。しかし、上は組み立てを変えましたが、原文通りだと、私はひっかかったりしました。
頁2 訳者まえがき
アメリカの料理はうまいんです。シー・フードがうまい、野菜がうまい、アメリカ流のフランス料理、これが結構いける、メキシコ料理も乙なもんだ。それに、オイスター・バーでキャリフォルニア・ワインと一緒にやっつける牡蠣や蛤、ドライヴ・インで食べるチリ・アンド・ビーンズ(略)
それにまた、家庭料理というのがありますよね。豆のスープや、カントリー・ソーセージや
、詰め物をした鵞鳥や、鹿の肉のシチューや、玉蜀黍のパンや、木苺のジャムや、アップル・サイダーや人参のケーキ。まずかろう筈がないじゃありませんか。
野菜に関しては伊丹十三の頃と21世紀とでは品種も生産方法(大規模化の躍進)も違うので何ともですが、海鮮類は、西洋は気にする割合が違うから鮮度がイマイチって雁屋哲が言ってたような気がする刷りこみがあるので、どうなんかなあと思いました。雁屋哲本人も、オーストラリア移住が見えてきたころから、前言撤回してた気もしますが。
日本語版の表紙とブックデザインは矢吹申彦。河出版で、この人が当時の思い出を寄せてます。それより私は、伊丹十三が原作者の了解を得て加えた、日本のジャガイモ事情をアップデートしてほしかった。料理法(本書ではレシピと書かず、レセピーと書いてます)の、カセロールとかムサカの説明をマーナも伊丹十三もしてないので、そういった説明をつければいいのにと思ったのがひとつ。伊丹十三はレシピにある料理かたっぱしから作って食べて、家族にも食べさせたそうですが、再版読んでそれをする人はホンイキの料理好きだけかと。だいたいの人が、イラストと伊丹節を堪能して終わりな気がします。それと、品種ひとつにしても、男爵とメークインとあと一種しかなかった日本の1976年と、キタアカリやインカのめざめが主戦場な現代とではおのずと異なるでしょうから、それを編集部注、編集外注プロダクション註でアップデートしてくれたらなあ、と思いました。アイヌ語でじゃがいもを意味する「アップラ」の語源はオランダ語とか、そういう蘊蓄はよかったので、それなら芽のメラニンの毒に由来する「悪魔の林檎」の話もいれたらよかったのに、とか。あと、中国語では「洋芋」と伊丹十三は言ってますが、〈马铃薯〉も使いますし、いちばん人口に膾炙してる口語は〈土豆〉だと思います。〈土豆丝〉
それから、日本語版は、22人のアメリカイラストレーターの名前を目次に列記してくれていて、私は八ページの"James McMullan"(アメリカ東海岸に巨大なじゃがいもが隣接した絵なのですが、台湾がじゃがいもになって閩江に迫ってる絵にも見える)と頁110の"Isadore Seltzer"ですが、マリー・アントワネットが髪にさしたというじゃがいもの花のイラストもよかったです。という話は余談で、頁17、"The True History of the potato by R. O. Blechman"の手書きの英文を読むのがめんどいので、訳文つけてくれたらなあと思いました。
オチのコマは撮りませんでした。これの解読くらい自分でしなさいということかな。出版不況で経費削減ですが、うむ。
以上
(2020/11/2)